【2】看病
いろいろおかしいですよね。
「お姉ちゃんを助けてください」
―はい?
唐突にそう言われても困る。こちら側としては何なんですかあなたたち、いきなり人の家に入ってきて。不法侵入で訴えますよという感じなのだ。
「お願いします。お姉ちゃん、死んじゃうかもしれないんです」
未だ玄関に突っ立ったままの僕を見、その人物は本当に、今にも泣き出しそうな顔でそう言った。
ええーっと?
何か本当に深刻そうだ。とりあえず“お姉ちゃん”っていうのはこの倒れている女の子でいいのかな?
とりあえず玄関で倒れさせておくのもなんなので僕のプライベートルームへ移動させよう。
女の子はうつぶせに倒れている。とりあえず腹と膝あたりに手をいれて、持ち上げる。
ぱさっ
女の子の髪が揺れた。
白銀に輝く、美しい髪。
それは揺れる度に淡い銀色の光を放っている。
なんだろうこの子。
日本人じゃないのかな?
持ち上げたはいいが、このままでは運びにくい。
そこでまずは玄関にあおむけになるよう、そっと寝かせた。
そこで気づく。
―この子の額、とても熱い。
顔も火照ってるように見える。
きっと熱がある。それもかなりの高熱だ。
一刻も早く介抱しなければ。
僕はそっと女の子の背中と膝裏にてを入れる。
そしてやさしく持ち上げた。
ちょうどお姫様抱っこのような感じだ。
揺らさないように僕のプライベートルームへ運び、僕のベッドに寝かせる。
そして、冷蔵庫から保冷剤を二つと冷えピッタンコを持ってきた。
おっと、まず熱を測らないと。
ペン立てに刺さっていた体温計を持ってきて女の子の体温を測定しようとしたのだが。
この女の子、赤と白の巫女服のようなものを着ている。
どうしよう。
袖が邪魔で熱が測れない。
―緊急事態だ。脱がしてもいいよな・・・?
うん。そうだ。これは緊急事態なんだ。
よし。
覚悟を決め、僕は帯を解きにかかる。
しゅるしゅると。しゅるしゅると。
帯を解き終わり、僕はゆるくなった袂を開いた。
・・・・・・・ごくり。
刹那―
ごいんっ
「痛っ!?」
何かがおもいっきり僕のひざにぶつかった。
膝がかくんとなり、思わず尻餅をついた僕の顔に重く、暗い影がのしかかった。
「お・・・お姉ちゃんに、何を・・・・しているの・・・・・・?」
「ひっ・・・・」
暗ーく地獄のそこから響いてくるような世にもおぞましい声に腰が抜ける。
しまった、この子の存在忘れてた。
「違うんだ!これは!」
僕は必死で弁解。説得を試みる。
「何が違うの・・・・?無抵抗な女の服を脱がせようとして・・・・」
こ・・・怖い・・・。
見た目からして大体9~10歳であろうその子は、何故純粋であるはずの子どもにそんな目ができるんだというくらいに冷たい、軽蔑のこもった目で僕を見下ろす。
「熱!熱を測ろうとしたんだ!この服じゃ測れないだろう?」
僕は必死で叫んだ。すると。
「そう。それならいいけど」
女の子はあっさりと認めてくれた。
同時に僕の周りに渦巻いていたおどろおどろしい殺気が消える。
ああ、僕の命はどうやら助かったみたいだ・・・。
それでは看病を続けよう。
熱は39度8分。
とりあえず冷えピッタンコをおでこに貼り、保冷剤を両脇にあてる。
熱さましは・・・確か前に病院でもらったものがあるが、果たしてこの子にのませてもいいのだろうか。
しかし緊急事態だ。
よし、飲ませよう。
そうしている間に夜は更け、気づけば僕お気に入りのアニメが始まる時間はとうにすぎていた。
ああーしまったー。
まあ、いいか。緊急事態だし。うん。緊急事態だと思えば許せる。
だんだん緊急事態だということを言い訳にしている僕だった。
―あ、ちなみに僕が見たものについては看病されている女の子の名誉のために、ノーコメントでお願いします。
ツッコミどころww