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先生  作者: 鈴虫
改稿前  旧ver
6/20

第六話 おもわく


僕は城内をメリケフ財務官の部屋まで早足で、力強く歩いていた。


この国は、いや、西陸国家は心が無いのか。

我が国は奴隷を用いた産業で成り立っている。


それは低賃金で働かせても文句一つ言わず、それでいて高品質の商品を生産する、ある意味最高の生産者達。


しかしそれは貴族達がそう考えているだけで、その奴隷達はどのような心持でいるのか。


ここの奴隷達は、貴族が労働力として奴隷を購入し、奴隷区に放り込んでおくと、勝手に自分たちで役割を決め、こちらが望んだとおりの物を望んだ量を生産する。


しかし、彼らの労働の対価は何か。それはわずかなオウラのみ。


この機構はいずれ破綻するであろう。


何度か反乱はあった。しかし我々はその度に力を持って制してきた。


しかしいつまで持つのか。


この街の奴隷七万人に対して、我々は1000人にも満たない。魔法剣士隊を入れても1500人いるかどうか。


そんな少数が多数をいつまで束縛できるのか。


僕は現状をなんとかしたい。

貴族と奴隷などと言う壁を取り払い、何時の日か共に助け合って生きていける日が来るはずだ。


しかし僕には力が無い。まだまだ若い僕は、時期皇帝の為の実績づくりとしてこの街の領主を封ぜられた。

しかし業務は、お付の財務官や軍務官などかやっている。僕には口を出す権利は無い。

いや、正確には出せる。しかしそれが通ることは無い。


ある日僕はアンジュルペナさんと出会った。

初めてこの街の領主となった日。奴隷区を見て回っていたときに「奴隷の花」の花畑の中で彼女と出会った。


それからだろうか。


僕は以前は他の者とかわらない思想だった。

しかし彼女を見てから変わった。


僕は彼女が好きだ。

だからこの生活から抜け出させてやろうと、専属の給士として雇おうと言った。

しかし問題はそこでは無いと跳ね除けられた。


それから僕は変わった。


彼女の為にも、この制度を変えなくてはならない。

今はい小さき事すらできないが、皇帝となったら凡てを変えてやる。

そして彼女に認められたい。

他の者は反対するだろう。

しかし僕は其れを許さない。

そのときには皇帝なのだから。


今は財務官に、奴隷達の給金を上げてはどうかと言うことしかできない。

しかし何時の日か、彼らを解放してやる。

















「金貨が何故、パンと交換できるのか。それは先に述べたように、

A商品X量=B商品Y量=C商品Z量=……

と連なってくると、どこかで「金」何ポンドかと言うのもイコールの関係になるだろう?

金を採掘し、金貨とするには当然ながら莫大な労働時間が掛かる。

これは銀にも当てはまる。

であるので、金貨は僅かな量でも他の商品とイコールになるわけだ。

例えば、肉は腐る。ということは一定の時間がたつと使用価値、交換価値を失うわけだ。

そもそも肉何百ポンドを交換して回ろうと思ったら、交換する前に腐ってしまう。他には布なども持ち歩いていては汚れてしまう。

なので代わりのものが必要だ。そこで皆が信頼した物が金や銀だったわけだ。

金、銀と交換しておけば、他の人も使っているので、都合がよかったのだろう。

それで今日まで金、銀が使われている。」


この話をしていたらもう日の出の刻だった。


アンの目にはクマが出来ていた。


今日はこゝらで止めとこうといって立ち上がる。

思わず背伸びをする。


アンはメモを取っていた羊皮紙とペンとを机に放り、青いインクの付いた手をそのままに、ベットに倒れるように入り込んで、有難う御座いましたと言った。

朝食を摂ったら寝るようにといって私も自らの部屋に戻ろうとしたのだが、アンのベットに一寸顔を埋めたが最後、寝てしまった。


気がつけばアルが起こしに着て、朝食を摂ったが、

あれからずっと話していたのかと聞かれたので、はぐらかそうとしたらばれていたらしく、ひどく叱責を受けてしまった。

アンの体のこともあるから程ほどにして欲しいとの事で、私は唯机に手を立て腕立て伏せをするしかなかった。


そのような話をしていたらアンが連続して咳をした。

胸をはらせてやったら幾分か楽になったようだが、ひゅうひゅうと音を立てゝ大きく息を吸っている。


もしやアンは喘息なのか。

ひとつ明治期辺りの吸入器でも作ってやろうと思い、その旨をアルに告げ、南部を懐に入れて鍛冶区へ向かった。


ちょいと道に迷ったが、無事に辿り着く。

トロッコによって運ばれてきた石を男達が溶鉱炉へ運んでいく。


タールの入った樽の山積みにされている所までいくと何やら樽を運んでいる集団に出くわす。

その中の一人が私の方をちらと見て話しかけてきた。

中々に良い体つきをしている。

「あなたがヒットレルさんか!妹の治療をしてくれるそうだな!」

言ったとたんに、周りのものまでもが、あなたがヒットレルさんか等といっていた。


それに気づいたのか、巡回をしていた魔術師に一同怒鳴られ、一人が何処からともなく現れた火の玉で焼かれた。

男達は火を消そうと着ていた服を脱ぎ、火達磨の彼を服で叩いていたが、死んでしまったようだ。


魔術師はお喋りさせるために金はやっていないと怒鳴った。

一同は彼を睨んだ。


私は

「その偉そうな態度は気に入らんな」

と言ってやった。

一同驚嘆の表情を浮かべる。


「誰に対してのその物言いか!」

魔術師は、またもや怒鳴った。

「君は何なのか。」

「魔術師であり、ここの監視を勤めるものだ!」

「魔術師はなぜ彼らのように汗を流して働かない。」

「我々は魔法が使えるからだ。そして魔法の使えない哀れな彼らを雇ってやっている側であり、彼らに金を払っているのだ!その金の分は働いてもらわなくてはならない!よって手を休めることそれすなわち我々の金、皇帝の金を盗んでいることなのだ!」

「魔法が使える者は魔法を使えないものを殺しても良いのか。」

「そのとおりだ。我々の力は偉大であり、尊いものだ!だからこそこの世界は魔術師によって統治されているのだ!」

「君らは統治者か」

「そうだ」

「どうやってなった?労働者を搾取したのか。時代遅れの帝国主義にしがみついているのだろう。」

「黙らんか!我々がこの世界を統治することは唯一神エザナレルによって定められているのだ!その証拠にブルゴーニエ初代皇帝は空から降ってきた一本の剣を手にし、その加護によって死して尚現在までその威光を世に知らしめているのだ!」

「莫迦か。そのようなものは時代遅れだ。そのような宗教は社会の不平等を生み、国を腐敗させるのだ。民の中から選挙によって選ばれた議員によって統治されるべきなのだ。空から降って来た剣を偶々手にした誰か等ではなくてな。」

「黙らんか!意味の分からないことを!皇帝を侮辱するとはこの国の魔術師を侮辱したと同義!死してその償いをしてもらう!」

「弾圧するのか。見よ!此れが弾圧の現場だ!この場にいる八万を君一人で相手取るのか!少数が多数を弾圧することなどできない。」


魔術師は剣を引き抜いた。その剣には炎の衣がまとう。

私は南部を入れたローブの下の白装束の袖に手を入れた。

距離は十メートル。


「この街にいる八万の労働者よ団結せよ!彼ら貴族重商主義者、ブルジョアジーどもは瀕死である。その証拠に論理を以って我々をとめることは出来ないのだ。力に頼るしか術が無いのだ!この日を忘れるな!魔法を使えないものが魔術師に勝った日を!」


魔術師は駆け出した。


右手に炎をまとったショートソードを持っている。

口元で何かを呟く。


私は南部を右手の袖の中で掴む。


距離は9メートル。この距離は拳銃にとって有効射程になるかどうかの分かれ目。

距離が4メートルにもなれば拳銃は近距離においての有効な武器となりえなくなる。

しかし遠すぎれば命中しない。


魔術師の周りに火の玉が纏う。


南部を持った右手を袖から出す。銃口はまだ地面を向いている。


南部を持つ右手を持ち上げると同時にだらんと下げていた左手を持ち上げる。


魔術師は体を剣を持つ手が後方になるよう斜めにして駆ける、

前に出た左手には炎がまとっている。


私は銃口を魔術師に向ける。

照門に魔術師を捉える。


魔術師の体の回りにまとっていた火の玉が左手に集まってゆく。

魔術師は左手を上げる。

左手に大きな火の玉が現れる。


照星に魔術師が入った。

左手を右手に重ねる。


魔術師の背後にはタールの樽がある。

万が一はずしても勝機は、ある。


それにこの魔術師が纏うは火。危なくなれば、ローブにしまった応急治療用の酒の小瓶を叩きつければよい。


距離は6メートル。

引き金に人差し指を押し当てる。後は指に力を入れるだけ。


魔術師は左手を振り下ろそうとした。


その瞬間。


「そこまでだ!」


と言う声が聞こえた。

私も魔術師も動きを止める。


声の主を見ると金髪の少年である。

タイツをはいて半ズボンをはいている。上着は青い長い燕尾服の様なものを着ていて所々金色の装飾が荒れている。


魔術師が、何故止めるのかのような事を言っていた。最後に殿下と付いている。


「彼女は見たところ医者ではないか。貴重な労働力を君は消し去ろうとしていたのだ。それこそ金を盗んでいると言うことだ。」


魔術師は何やら言って退散した。

殿下と呼ばれた少年は、いつか話がしたいと言う類のことを言って帰っていった。


その後、歓声が上がり、最後はうやむやであったが私は一つ目的を果たした。

もう少し後になるかと思ったが、好機を逃せなかった。

早すぎたかもしれないが、この奴隷区で地下活動をする団体があるのならば、近いうちに出会う事になるだろう。

ならば早いほど良い。

今回の一件の噂は近いうちに彼らの耳に入るだろう。

そしてこの件で体制側はより、我々に対して厳しくするだろう。


この世界は農奴制よりかは甘い。

体制が我々を限界まで弾圧せねば私の理想はかなわぬ。


どうにも私は体制を敵にすると燃えあがってしまうな。


しかし実際のところ、魔法と言うのがそれほど理解できていない段階であったので、とても肝を冷やした。


と、ここで本来の目的を思い出し、ちょいとばかり鉄パイプか何か無いかなどと聞こうと思ったが、歓声にまみれて聞けなかった。


仕方が無いので、さっきの肉付きの良い兄ちゃんを引っ張って歓声の中から脱した。


彼は何やら私を賞賛していたが、ならばこれこれこいういうものはないかと尋ねたら、あるから後で届けるといった。

私の部屋は分かるかと問うたら、アルヘルワのとこだろう、わかるとの事だったので、それぢゃ頼むといってその場を去った。


帰る前に耐熱グローブとおぼしきものと小瓶とを持って帰った。


部屋に戻ったら、アルに借りた薬草図鑑で前世で見た喘息に効くという代物に含まれていた物に似たものは無いかなどと探していたら、丁度アンの部屋のたくさんある花の一つに其れを見つけたのでひとつ貰っていった。


薬草をランプと小瓶を使って茹でて煎じていると、件の肉付きの良い兄ちゃんが真鍮製のパイプと銅製の板をいくつか持って来た。


真鍮は彼が独自に試作したものなので数がないが、妹を治してくれるならといっていた。

私は気になって、妹とは誰かと問うたら、サウサンのことだったらしい。

なるほど、彼が件の兄か。

名前を聞けばサタハフというらしい。

君も大変だろうと言ったが妹の為ならと言っていた。


正直言って、失敗するかもしれないぞと言ったが、それでも手を尽くしてくれるのは感謝してもしきれないとの事だった。


抜け出してきたので直ぐに戻らなくてはとのことだったので、お礼を言って見送った。


アルは今、件のサウサンの様子を診た後、いくつか患者を診て回っているそうだ。


パイプやら鉄の板やらを組み合わせて吸入器をつくってやった。


持ってきてもらった時点で既に言った通りの長さや穴が開けられていたので助かった。




部屋で寝ていたアンを起こしにいった。


いいものをやろうといって吸入器(結構重い)を机の上においた。


「これはだな、吸入器といって、この噴霧管をはずして、釜の口にこの漏斗と呼ばれるものを使って水を入れる。

下においてあるアルコールランプに火をつけて暫し待とう」

使い方を、蒸気が収まったらタオルなどで前を覆って云々、霧口から十センチほど離れて云々、この小瓶に煎じた薬草を入れて、薬液ビンの薬がなくなるまでゆっくり吸い込むんだ。

などと説明して、此れを一ヶ月もやればよくなるだろう。

私からのプレゼントだと言って置いた。


最初は戸惑っていたが、蒸気を吸い込むのに快感を覚えたのか気持ちよさそうにしていた。



暫くアンと話をしていたら、アルが帰ってきた。


帰ってくるなり、鍛冶区の件で噂にになっていると言ってきた。

何故あんなことをしたのかと問い詰められ、アンにも理由は何かと問われたので、


「たとえばー人間の労働があらゆる富の源泉であり、資本家ーつまり言うところの魔術師は、労働力を買い入れて労働者どれいを働かせ、新たな価値の付加された商品を販売することによって利益をあげ、資本を吸収する。

資本家の際限の無い、競争は生産を破綻させ、労働者は生活が困窮する。

他人との団結の仕方を学び、組織的な行動ができるようになると、やがて革命を起こして、貴族重商主義、奴隷経済主義を転覆させる。そういうことだ。」


と答えておいた。

アルは口をへの字にして納得いかないようすだったが、アンは瞳を輝かせ、しきりに凄いです!すごいです!とかなんとか言っていた。


そんなこんなで食事の後アルに吸入器を見せて、アンの喘息もこれで幾分か和らぐだろうといってやったら、への字から満面の笑顔になった。面白い奴だ。


食事の後、またもやアンに部屋へ誘われたので、貨幣の資本への転化について話をしてやった。


昨夜のように気がついたら朝だった、ということをすると、アルがうるさいので適当な時間で一つ区切りを置いて、今日はここまでとした。


アンはもっと聞きたがっていたが、体が付いていかないのか、ベットにねっころぶなりすぐに寝息を立ててしまった。可愛いなとおもいながら暫く髪を撫でて遊んでいた。

















「殿下、この街で生産される物の売れ行きがよろしくありません。半年前は景気が良かったので新たに奴隷を投入しましたが……これでは生産量を抑える必要がありますな。」


ふむ、これならば労働者達も少しばかり楽になるかな。働く時間が減るのだ。少しばかりだが、我々の収入は減るが代わりに彼らが楽になってくれれば良い。


「しかし、唯そのまま生産量を減らしただけでは労働力があまってしまいます。なので給金を下げるのです。彼らは文句をいいますまい。仕事の量が減ったのなら、給金を下げて当然でしょう。」

「メリケフ、ちょ、ちょっとまってくれ、しかしそれでは彼らの生活はどうなる?今でさえ苦しんでいると言うのに。」

「殿下!我々は遊びでやっているのではないですよ!

いいですか。金はいくらあっても足りないんです。軍の維持、建造物の維持、奴隷とはいえ維持費がかかるんです!

どうしても彼らの生活が心配なら、もっと仕事のある地域へ売るのも手です。

ここはほかと比べればとんでもないくらい彼らを厚遇してるんですよ!」

















ここの世界は、奴隷と言っても農奴よりはやさしい。

今のままでは、反乱を起こしてまでも社会を変えようなどとは思わないだろう。


だから私はきっかけをつくる。

彼らは今まで以上に苦しむことになるだろう。

だが知ったことか。


この世界は魔術師と呼ばれる少数派でありながら多数派によって何千年も支配されている。

では真の多数派はどうしているのか。

搾取され、力に負け、少数派になっているのだ。


この世界は正されねばならん。

私は彼らを扇動(先導)する。

自らの理想の為に。

彼らが苦しもうが、魔術師達が絞首台へつれられようが、そのようなことは関知しない。


あるのは祖国の建設のみ。


前世の日本がどうなったかは知る由も無い。


しかし、今回は最期まで見届ける。


私の手で作るのだから。


かつて前世ではなしえなかった真の祖国(日出ずる国)を建設する。





























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