第二話 りんね
生粋の読書家で暇さえあれば本を読んでいた。
物事を中々決められず、所謂「優柔不断」とよばれる類であるが思い込みが激しく、こうだ、と決めたら突っ走る。
又何か作ったりするのが好きだった。よく工作をした。
高校は工業系にすすんだので楽しませてもらった。
純文学から機械力学、葉隠まで、何でも読んでいたので雑学だけは豊富だったが、いかんせんテスト等ではまるで役に立たず、点数も下から勘定したほうが速い教科ばかりだった。おかげで中学生の時分には、奇人変人のレッテルを貼られていた。
本を読み漁るうちに自らの凡その思想が形作られていった。
我が国は何故自虐史観に捉われているのか。教科書を開けば、他の国の出来事は「遠征」やら「平定」「併合」等と聞こえの良い言葉が用いられている。
しかしどういうことか豊臣の朝鮮出兵をはじめ数々の我が国の戦争行為についてはことあるごとに「侵略」と言う言葉が使われている。
「~のように日本がインドネシアを侵略し、占領すると外国からの非難の声が強まった云々」
という文があるが、当時の世界情勢をどうみても非難の声を強くしているのは連合国であり、その連合国はその当時我が国と戦争中であったので、非難するのは当然である。敵対国に対して「よくやった!よくぞ我が国の植民地を占領した!かの国こそが世界の模範だ!」と言うとでも思っているのか。そもそもスカルノの件などには一切触れていない。
そのような売国教育が行われているのは何故か。
それはWGIPによる云々~だからこそ日本人の誇りを取り戻し、真の独立国家として振舞うべきなのだ!
と言った具合である。
様は右派的思想になっていた。と言うことである。
其れに加え、そのような性格なので、我が母校に国旗が掲揚されてないことに気づくと単身、校長室までのりこんだものだ。
そんななので日本男児ならばと言う理由で剣道も嗜んだ。
しかし、高坊にもなるとそのような思想に対して疑問を抱くようになる。
日本を窮地から救うにはどうすればよいか……もはや末端にいたるまで洗脳され退廃した我が国をすくうには生半可な方法では不可能だ。
この時期読んでいたのが「我が闘争」であったので、もはやファシズムによって国民を啓蒙し、先導をするしかない。と考えていた。
しかし、その当時のヒットラーのような政権奪取劇は展開できそうにない。
私は半ばあきらめて、教師にでもなって平凡な日々を送るのも悪くない。と考え始めていた。
そんなとき出会ったのが「資本論」やら「共産党宣言」なので、無論影響され、この国を蝕む売国奴も、所詮は階級闘争によるものだと悟た。
売国行為が生まれるのは工作員の所為ではない。経済的格差による階級闘争によって引き起こされている。
我が国は資本主義経済に傾きすぎている。富む者は益々(ますます)富んで行き、貧しいものは益々貧しくなってゆく。
もう少しバランスをとる必要がある。
共産主義の実験は失敗したが社会主義色がとても濃い資本主義経済ならどうか?というのが当時高校2年時の思想であった。
しかしどちらにしても政権奪取をしなくてはそんなことも夢の中で終わってしまうのでどうしたものかと考え、いっそのこと自分が議員になり変革の旗手になるか。などと考えていたが、我が国の選挙体制を鑑みるにこれまた不可能に近く、武装革命しかないか……などと話の合う仲間内で話したりしたものだ。
其れに関連して、ヒットラーに心酔し始めていた。ネットに落ちていた「意思の勝利」を鑑賞した所為だろう。案外自分は影響されやすい方だったのか。
のめりこんだら突っ走る性格であるので、どうしても演説がしたくなった。
丁度その時期生徒会役員選挙があったのでそれに立候補しヒットラー式の演説をさせてもらった。
演説後の拍手の量はすさまじく、いつもは寝ている諸氏も聞き入ってくれたようで、案外うまくいくもんだと驚いた。
生徒会はその後一年間前期後期共に勤めさせていただき、集会のたびに演説をぶちかます機会が得られてその年は楽しませて頂いた。
しかし付いたあだ名が「演説の人」というのは如何なものか。
両親は私が小学生の時に離婚し、父が男手ひとつで面倒を見てくれた。
母は別の男とくっついたようだが、それでも特段母が嫌いなどとは思わなかった。
私には想い人が一人いた。
とても可愛らしい娘で肩で切りそろえた緑髪に小柄な身長、性格も今時には珍しく撫子の様な娘だった。
進学先も決まり、さてこの学び舎とも後僅かで別れんという時期に、私は悶々としていた。
どうしても首相を斬りたくてしょうがなかった。
野党第一党が今までの与党の議席を上回り、新たな政権になったのだが、次々施行される法が許せなかった。
かような政府を許してよいものか。
今の政府ーいや政治家には何の信念も志もない。
誰も国家の為に働かず、
利権の鬼となり、
自らの保身に勤める。
そしてそれに惑わされる臣民達。
誰も声を上げず、
仁義は廃れ、
腐敗がまかり通る。
私は満身の怒りに満ちていた。
私の怒りは純粋な怒り、
邪悪なものに対する怒り、
義の為の怒り。
誰かがこれを正さねばならぬ。
正さねば国が滅びる。
国が滅びると言うことは日本人が死ぬと言うこと。
そんなことは許してはならぬ。
かつて大和を、
故郷を、
家族を、
想い人を、
仁義を、
信じるもの護るために散っていた者の魂、
言うならば、国家の魂が許さなかったのだ。
誰も彼を斬ろうしないし、宮城に向かって切腹する者も居なかった。
民衆も自ら敵性国家の絞首台に立ったことに気づいていなかった。
だから私がやるしかないと思った。
義理を立てれば道理は引っ込む。
護国の鬼となって死ぬことによって得られる生もあるはずだ。
一首相を斬ったところで直ぐ何か変わるわけではない。しかし変わることのきっかけになるはずだと確信していた。
私は自称共産主義者になっていたが、愛国の志を捨てたわけではなかった。
そんなわけで大分前に倉庫で発見した軍刀(おそらく陸軍の九十四式であろう)を持ち出した。
先祖が帰国後箪笥の中に突っ込んでいたものを、先祖の死後、物置のなかにおいておいたまま忘れ去られていたらしい。
不思議にも60年近く放置されていた割にはよい状態であった。
自分の中で
「救国の志に答えて刀が再び力を取り戻したのか」
などて痛いことを考えつつ、妄想も大概にしておかないといけないが本当にそうなのではないかとしか思えなかった。
何やら刀身が桜色に発光しているような気がする。
発光してるのはおそらく高揚して幻覚を見ているにしても、状態が良いのは事実だ。
なにはともあれ手入れ用の打ち粉やらをネットで取り寄せた。
このご時勢、ネットで何でもそろうものだ。
しかし、得物があっても技術がない。
剣道をやっていたとはいえ、当日になって反射的に軍刀で面打ちなどした日には目も当てられん。
そもそも剣道の構えと真剣の構えは柄を握る位置が違うのだ。
暫く考えあぐねていたが、戸山流などの動きを映像などから学ぶことにした。
様は、服の上から致命傷を負わせることができればよい。
残った学業もそこそこに練習に励んでいたら良い具合になってきた。
人間、なんとかなるもんだ。
斬るのはよいが身内に迷惑はかけられんと思い、父にその旨を伝えると最初は驚嘆していたが直ぐに
「よしわかった」
と返事をしてくれた。
そういうわけで斬った後はお巡さんが出張ってくるはずなので、縁を切り、私物を処分したが、これまた再び悶々としていた。
その例の娘の事が頭からはなれなかった。
これから死なんとする時にかような想いを抱くとは、人間不思議なものだ。
「ああ、一緒に月を眺めれたら如何程よいものか……」
などて呟く事数十回。
いっそのこと自分は死にに行くことを打ち明け、死地に行く前に抱かせてくれたらこれほど嬉しいことはない、と思うようになり、はたして伝えるべきか否か揺蕩う。
しかし、私は何も伝えないことに決めた。
手紙くらいはとも思ったが、これから居なくなる男にかようなものを貰って何になるのか。
うだうだとしていた心にけりをつけ、首都に向かう。
もう12月で雪も降りそうだ。
五月十五日だとか二月二十六日に決行すれば、洒落が効くかなどて思っていたが莫迦らしいのでやめた。
父から――戸籍上はもう違うが――餞別にと南部式と片道分の交通費を頂いた。
なぜ南部式があるのか不思議に思ったが、どうやらこれも同じ倉庫にあったようで、私よりも前に見つけて保管していたそうだ。
おそらく使わない(使えない)だろうがありがたく受け取っておく。
トレンチコートを羽織り、以前キャンプ用に購入した折りたたみナイフをポケットに入れる。
軍刀は竹刀袋にいれて持っていった。
雪の降る夜の中、首都に降り立った私は、即刻首相官邸に向かう。
離れてみていたが、どうやらここで斬ることはできなさそうだ。
警備の数が多すぎる。
素人の私が突貫しても刃は敵に届かないだろう。
暫く思案して、首相の自宅付近へ移動する。
雪が肩を白く染めるころ、首相が帰ってきた。
その時、首相が車を降りたその一寸、首相に間があった。
警護の者が3人居た。だがしかし、素人の私が斬れるのは今この瞬間をおいて他にない。
勝機は在る。あの頭がお花畑の首相だ。だれも斬りに来るなどとは露にも思っていないだろう。
そしてその警護のものも、まさかこの国で辻斬り、これほど価値のない者を殺そうとする者などいまいと思っているに違いない。
そう脳が考えていたときには、私は敵に向かって躍進していた。
鍔を左手の親指で優しく押し出し、右手で柄をつかんで抜刀し、上段にかまえて疾走する。
あと六歩ほどで間合いに入る。
狙うは型どおりの袈裟斬り。
必殺を狙うなら喉への刺殺、突きが良いのだが全力で走って近づき突く、となると確実に当てる自信がない。
そんな自信のない未熟な技は使わない。
今は「確実に斬る」ことが求められているのだ。
警護の者が気がついたのか此方の進路を妨げようと駆け出し始めたのが視界に入る。
別の者は此方を拘束する為か駆け出そうと右足を踏み出したのが見える。
もう一人は首相へ手を伸ばすため車のドアから手を離す。
だが私は相手にはしない。
すれ違いざまに斬って応戦――等していては本来の目的に逃げられるかもしれない。
そもそも私には彼ら専門職の腕には敵わぬ。
ならば我が目指すのは首相唯一人。他の者など知らぬ。
「天誅!」
と叫び跳躍する。
その声に気づいた首相は此方に振りむこうと首を動かす。
此方の進路を妨害しようとした者の間合いに自分が入る。
此方へ向かって駆け出した者は最後の跳躍をし私に迫る。
手を伸ばしたものは首相の右肩へ手を触れんとしていた。
おそらく、二太刀目はないだろう。
一太刀で以って斬るしかない。
左足で地を跳躍し、右足を前へ前へと押し出す。
全身の体重が高速で前へ移動する。
同時に上段に構えた軍刀をその体重移動を利用して袈裟斬りの軌道で振り下ろす。
首を動かした首相は首と連動して体を此方に向けた。
彼は我が目を疑った。
この現代社会で刀を持って自らに切りかかろうとする者がいる。
その刃は自らの目の前に迫っている。
――どういうことだ?!
何故己が斬られる?
軌られなければならぬ?
――殺されるのか?
党を結成して爾来党を支えつづけ、長年の野党生活を脱し与党につき、ついには首相にまで上り詰めたと言うのに!
確かに不祥事はあった。しかし隣国との関係改善等の功績は大きいはずだ。
国民が望んだことも全てやったじゃないか!
だのに、何故目の前に刀を持った男がいて、己を殺そうとしているのか。
――何故だ?
首相のネクタイが赤く染まる。
「え?!」
それが首相の最期の言葉だった。
首相を斬った。
私が腐敗の象徴と見立てた男を斬った。
目的は果たした。
だが、私はここで死なねばならぬ。
この腐敗の象徴と屍を重ねねばならぬ。
ここで警護の者にわが身をあずけられようか。
ここから全速で以って逃げ出せようか。
それは為らぬ。
それは無責任。
自らの行いに責任を取らねばならぬ。
責任をとらねばこの男を軌っても何も意味は無い。
――斬った本人もその場で果てる。
それは義。
義を貫かねば意味は無い。
社会に何も変化は無い。
唯のテロリストで終わる。
それは避けねばならぬ。
だから、私はこの場で死して、義を貫かねばならぬ。
右足を膝を折って前に、左足は大きく後ろに、体は前傾姿勢で残心
をせずに反動で左足を少し前に出し右足を後ろに。
斬った反動で動かした足と腰にあわせて胴、腕が動き軍刀を上げる。
中段構えの高さまで戻したら、その速度を以って左手で柄を握ったまま手首をかえし、右手はそのまま刀身を逆手で握り、軍刀を自分の腹に突き刺す。
腐敗の象徴の血と、おのれの血が混じる。
此方に駆け出した者が私を拘束せんと私の体をつかむ。
彼には焦りがあった。
自らの任務を果たせなかった。
何のためにいままで訓練してきたのか。
なんというザマだ
この国ではテロなど無いと高を括っていた。
その油断がこれだ。
ふと剣客の目をのぞいた。
信念に満ちた目。
この剣客に迷いはないのか。
よく見るとまだ十代ほどではないのか
なぜ其れほどまでに信念を抱けるのか。
この国で。
自分でもわかっている。あの首相はクソったれだったと。
自分はなぜあんなのを護っていたんだ。
自分が護るべきは、もっと違うものだったのかもしれない。
いかん。迷っていたら気がつかなかった。
この剣客は自らの腹に刀を突き立てている。
割腹するつもりか。
すると剣客は右手を離し、ナイフを取り出した。
この軌道は此方を突く軌道か!
近接格闘では此方に分がある。
このナイフは叩き落す。
己は己の仕事をこなす。
私は警護の動きなど気にせず、右手を刀身から離し、峰を渾身の力で以って叩く。
綺麗に一文字に斬れた。
腸はまだ出てきていない。
そのまま右手で折りたたみナイフを取り出す。
彼は私の手の軌道をそらそうと手首をつかんできた。
そのまま彼を突いた場合の動きに合わせて彼は私のナイフを無力化しようと動く。
しかし私はそのような気はなかったので、そのまま自らの首にナイフを突き刺した。
同時に強引に宮城の方へ体を向けたところで体の力がスッと抜けた。
「斬り結ぶ雪にやどれる月影の刹那の下こそ我のまほろば」
視界が赤く染まり、ぼやけてくる中で私が見たのは雪に隠れる綺麗な月だった。
気がつけば彼岸花の花畑の中に斃れていた。
確かアスファルトの上で割腹したはずだが。
ここが黄泉の国か、靖国か。
等と思っていたら意識が遠のく。
腹部を見れば、臓物さえ出ていないが一文字に切れている。だが首は無傷だ。
どういうことか。
あれこれ考えていたら思考能力が低下してきた。視界がかすむ。
視界がぼやけてくる中で見たのは此方に駆けてくる人影だった。
気がつけば彼岸花の花畑の中に斃れていた。
これはデジャヴか。
腹を見たら特段傷はない。確か割腹したはずだが。
軍刀と南部は手に持っていたが、羽織っているものが死人の着る白い着物、白装束である。
ここが黄泉の国か、靖国か。
等と考えていたら、向こうに人の列が見える。
全員私と同じ死人の服だ。
日本人の習性か何となく最後尾にならんで前にいた、道端で井戸端会議をしてそうな奥さんに、
「ここは何処か」と問うたら
「あの世ですよ」と返って来た。
「今きたばかりなの?」と奥さん
「そうだと思います。気がついたらあすこに斃れていたので」と私
「まだ若いのに、かわいそうに」
「いえ、気をつかわんでください。ところでこの行列はどこに続いているんです?」
「向うにあの三途の川があってね、その川を渡るための船を待ってるんだけどこれがまた本数が少ないらしくて……にも関らず搭乗審査が厳しいらしくて、すごいチェックされるのよ。なんだか前世でよい行いをした人はお金がもらえて、そのお金で船に乗れるそうだけど、お金がない人は泳いでわたれとか言うらしいのよ。で、泳いで渡った人は大抵おぼれちゃって、天国にも地獄にもいけないとか。わたし旦那をいつもこき使ってたからもらえる量が少ないかも……もおう、あの世にきてまで私に迷惑かけるなんて、なんて人なのかしらっ!」
などと会話していたら、ようやく審査の検問所が見えてきた。
いくつか前にいたチャラ男が金がないらしく、近くのご老人から金をせびろうとしていた。
ケシカラン奴だと思い、軍刀でぶった叩こうとしたら(もちろん鞘に納刀したまま)彼は検問官に河に突き飛ばされていた。
浮かんでこないようで、溺れてひどい目にあうのは本当のようだ。
さて、私の番が回ってきて検問官が言った。
「どうやら君は別の便のようだ」
「どう言うことです?」
「この紙を持ってあすこへ行きたまえ」指で場所を示しながら言う。
と言うので、何やら一筆書いた紙を渡されその場所までいった。
明治時代の建物の様な場所で直ぐわかった。
中へ入るとモーニングを着た若い兄さんが
「何か御用か」と問うので
紙を渡しつつ「ここへ行けと言われた」と答えた。
「……お持ちください。」
と言うことで暫く外を眺めて待っていたら、見事なカイゼル鬚をはやしたおじさんがしかめっ面でやってきた。
「もう一度生き還ったとして、生き返ったそばから死ぬ以外に欲しいものはあるか。」
「どういうことです?」
「質問に対しての返答をしなければ成仏できんぞ。」
どういう事かわからないが、話の流れからするとおそらく生き返らしてくれるのか。
前世の記憶は引き継ぐと言うことをお願いした。
折角なので来世は別の視点で楽しまさせてもらおう。
「女の娘の姿にしてください。」
容姿についての細かい注文をしていると、私が生前、月を一緒に見たいと思っていたあの娘と瓜二つの姿になっていた。まぁ、そういうものだろう。
もちろん一定の容姿になったら不老に成ることは必須だ。しかし不死は遠慮しておこう。
後、もちろん軍刀と南部式は持って行く。
軍刀が刃こぼれ、折れたりしないようにして欲しいと言うのと南部も現役時代同様に使えるようにして欲しいとお願いした。
「それだけでよいか?」
後、全ての言語を読み書き会話ができるようにしてくれと頼んだ。
生前の英語のテストの点数などは下から勘定したほうが早いくらいだったので、これが叶うなら有難いことだ。
これ以上は望まん。人外や超能力者になるつもりはない。不老の時点で超人ではあると思うが。
「さて、では切腹したまえ、介錯はしてやろう」
きっとこのカイゼル髭はキチガヒなのだろう。
いままでの会話からどうして切腹する必要が出てくるのか。
しかしあの世で死んだらどうなるのか。あの世のあの世なんてあるのだろうか。
カイゼル髭がポン刀を持って来て素振りを始めた。
まぁこの際何でも良いだろう。
あの世で死んだらどうなるかと言うのも興味がある。
落ち着いたらこの体験を基にした小説でも書いてみようか。
軍刀を抜き、モーニングの兄ちゃんから渡された白い布を切っ先から20センチくらいのところで刃に巻きつける。腹に刺した後、持って動かすためだ。
切れないように巻きつけるのが中々難しい。
上着をはだけさせ、呼吸を整える。
息を吸ったところで止める。
そして切っ先を腹に刺しこむ。
十分に入ったら
息を吐く。
痛みで動けなくなる前にそのまま一文字に掻っ捌く。
首を介錯しやすいように伸ばす。
すると肩に激痛が!
なんてことだ、カイゼル髭が介錯に失敗した!
「心静かに!」
カイゼル髭を励ます。なんということだ。この道のベテランかと思ったがちがうのか。いや、介錯は失敗することも多い。彼を責めても仕方がないだろう。
痛みが伝わってきた。これ以上待てばその辺を臓物を引きずりながらのた打ち回ってしまうかもしれない。
等と思っていたら風を切る音と共に、私の視界は真っ黒になり意識を失った。
最期に見たのは窓の向うに生えていた彼岸花だった。
逝きつきて美しきかな黄泉の国あはれこの身は輪廻を彷徨ふ
主人公が異世界にいくまで。
トンデモ主人公ですが、案外私の理想であったりします。(間違っても人を切ることではないですよ。)
剣戟描写はハ○チラ○の影響を多大に受けています。
あの文体を見たときから、あゝこれは真似したいな、と思っていました。
自分、剣戟ものが好きなんですよ。
かの作物を書いた方とは経験が違いますし、到底及びませんが、剣戟ものの良さが少しでも伝われば幸いです。