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先生  作者: 鈴虫
改稿前  旧ver
11/20

第十一話 ゆうし







馬車は引き裂いた絹の様な雪の中、東を目指して走った。


前を望めば白き畑や木々。

右を望めば白き山々。

左を望めば白く染まる貧しい村落を見ゆ。


時折名も知らぬ街に入りて休憩す。

その間も我々は一箇所に集められ監視の目を受ける。

魔術師もご苦労様である。


休憩中は男も女も一緒に八畳ほどの部屋に詰め込まれるので女は必づ固まっていた。

一度ひとたび孤立すれば欲求の溜まった男が何をするかわから無いからだそうだ。

とは言え武器や防具などは故郷から持参し使用することが認められているので、中には丸腰の男も居るわけであるから自衛は出来そうな物だがなと思ったがそれは私が男だったからか。


私は今こそ十六七歳の四尺八寸ほどの可憐な女の子であるが元々が男であるので余り気に留めず男と談笑するの機会が多かった。

とはいえ談笑相手の男は一人であり、他の男共は俯いていたり震えていたり大層絶望の淵にあるようで話すことなどなかった。


その男は結構おおらかな性格のようで名をジュリコフと云う。

聴くに故郷には妻と息子が居るそうで、魔術師相手に一寸ちょいと喧嘩闘争をおこし現在に至るそうだ。

どうやら腕っぷしに大層自信があるらしく――その証拠か彼の傍らには三尺ほどの戦斧があった――、戦地に行って相手の魔術師を血祭りにあげてやるなどと云ひけるのをアンと共に微笑して聞く次第。


アンはいつも如何なるときでも私の後ろについてまわった。

私がジュリコフなる男と笑談じょうだんを云い合ふ時も私の横にちょこんと座り赤い目を細めて笑っていたりしていた。


ジュリコフが私に「ヒお嬢さん――私の事を彼はよくこう呼ぶ。ヒお嬢さんとはおそらくヒットレルのヒであろう。アンの事は単にお嬢ちゃんと呼ぶので聴く側が判別しやすいようにと配慮したのか。――はなんだか男っぽいな。あゝすまん。失礼かもわからんが歩き方やら言葉遣いと云うか、なんかこう女の子じゃなくて男っぽいんだ。うん。いや学が無いもんだからうまく表せんが。」

などと云ひつるときにはアンが私の横で私のかおを見つめつゝ、

「あゝ、の感はわたし()にも覚えあり。言葉にて云い表はす事困難を極めん。されど先生からは女よりも男の心を見たり。」

等と真顔でのたまふ始末であり、

「これ、アンまでもが私を男と云ひつるか。」

などて笑談じょうだんを交わすまでにいたれり。


周りの男は何等なんら変化はなかったが、女達は女達で談笑を交わすほどにはその場は明るくなった。


それにしてもそんなに男らしく見へるのだらうか。

それは良いことではあると思ふのだが、今は女であるわけで、余り男らしいと云はれるのは如何したものやら。

後で聞くに、アンは冗談のつもりではなく本当にそう思って云ったと云ふ事であるので益々(ますます)困った物である。



街から街へと馬車に揺られ東へ向かう。

どの街も奴隷区を覗く機会があったが殆どの街で、栄養が足らず痩せこけた子供達が走り回るのを見るとアンはいとはしさを感じたようであった。

それは憐れみ見下した感から来る物ではなく、同情と怒りと悲しみから来るものであるだろうと察する。


配給されるパンを雪解け水につけ腹に入れつゝ傍らのアンと共に、腰の痛くなる馬車に揺られ東へ行く。


数週間の後、幾多の奴隷兵士と見られる者共が列を成し行進する姿を見るやうになった所でやうやう目的地に到着した。


その間、私の不老による新陳代謝の無いのに感謝した。

と云うのもアンなどは何とか隙を見つけて雪解け水にて寒がりながらも体を洗うのだが、他の男共となると無頓着で体臭の酷いことには閉口するしかない。

女達は不思議な匂いを醸し出していて、不快になることは無く、むしろ心地よかった。

アンはその匂いには不快そうにしていたが。

男と女では匂いの好き嫌いは違うのか等と思った。



何はともあれ奴隷軍令部のある、「ブラゴーニエ」極東に位置する軍事都市「セクテムストック」に入る。


ぱらぱらと雪の降る中、魔術師の隊長さんに連れられ奴隷軍令部まで列を成して街の中を歩いてゆく。

道は石畳で中々広く、海が近いのか塩の匂いがする。

雪が三寸ばかり積もっていた。


建物は石造りの2階建てが標準らしく、同じような建物が並ぶ。

この街は奴隷区と市街の区別が曖昧なようで、労働者と貴族が同じ道を歩んでいる。

とは云え労働者は道の端を歩くようである。


街は非常時であるらしく、軍服や甲冑を纏いし者共がせわしく闊歩し、我々と同じ境遇の者なのか列を成して軍令部へ向かう者、屋台の露店も商品は剣やら槍やら兜やらばかりである。


軍令部の前に来ると、何やら豪華なゴシック様式の建物と掃除の行き届いていない雨の跡も残る建物とが二つ並んでいた。


看板を読むに、豪華なほうは正規軍の本部であり、汚いほうは奴隷軍の本部であるそうだ。


中に入れば列がある。

奴隷軍団と云えども、どうやら書類仕事やらは魔術師の仕事であるようで彼らの顔は不満そうだ。

おそらく此処に配属されるのは余り名誉なことではないようだ。


なにはともあれ無事、看護兵科に属することが出来た。

それも私とアン共に千人隊つきの軍医の階級を得た。


聴いた話どおりいい加減な仕事で、私とアン二人とも一緒の部隊に配属して呉れと云ったら其の通りに成ってしまった。


配属は極東奴隷軍団第2千人隊である。


どうやら千人隊長及び参謀は魔術師であるが、百人隊長以下は労働者の中から選抜されるそうだ。


そんな制度では戦闘において壊走することや魔術師に対する反乱も起こるだろうと思っていたら本当にあるようで、早速本部に伝令が走り、とある十人隊長らが結託して四個十人隊が練兵所で決起し暴れまわっているらしい。


軍医の地位を手に入れた私とアンは其の足で自らの部隊の兵舎に向かった所で自己紹介もそこそこに反乱軍の鎮圧に向かうので第1百人隊に附いて行けとの事だった。


脱走の機会がトンでもなく多いことに驚嘆したが、この世界の戦闘を見る良い機会であるので附いて行く事にした。

アンとはかねてより今回の従軍の意義は打ち合わせてあるので、互いに目配せのみで二人とも日本刀を携えつゝ百人隊長揮下の十人隊長らが集う兵舎まで行った。


その兵舎の中に入れば隊長と思しき甲冑を身に着けた数人の男共が私達を見た。

お前へは何某なにがしかと問うので、名乗ると共に己の配属先と階級とを述べた。


すると見たことの有る顔に出会った。

奴隷軍団第2千人隊第1百人隊の百人隊長はジュリコフであった。


ジュリコフ笑いつゝ、看護兵科に属するとは思ったが此処で再び合間見えるとは何かの縁だな等と云う。


十人隊長らは私の事を可愛くてちっちゃい女の子だな等と云う。

こう見えても十七であると云うと、食べらないように用心した方が良いとの事だった。


アンについては十四だとアン自ら云うと益々驚いたようで、そんな年の女の子も戦場に立たせるとは決起した十人隊らを応援したくなるね等と云ひたる者もいた。

男ならば十四で戦場にでる労働者も多いが女の子は珍しいそうだ。

其れに対しジュリコフは、こんな所で決起するような莫迦は応援する必要なしと云いけるに、時勢も読めぬ莫迦は労働者を解放する事などできぬ今は耐えて忍ぶべしと云った。

十人隊長らは深く感心し、「おやっさんついて行きます!」などと云う者まで出る。


何はともあれ鎮圧任務に協力せんと云った所、軍医が二人も居れば心強い、こんな可愛い娘二人に治療されゝば兵達の士気も上がるだろう等と云はれ、微笑みつゝいとねんごろに看護すると云っておいた。


簡単な作戦会議もそこそこに、では出動だと云う段になって、出陣前にジュリコフが隊員を広場に集め、規定によりより勲功を上げし隊は特別切符の発行及び待遇の改善があるぞと云った。

すると隊員から女の肌はどうなっている等と云う者があり、其れに対し、慰安婦もよこしてくれるかもなとジュリコフは答えた。


アンはそんな男にきれている様子で、「先生、今発言した奴の治療は後回しにしませう」等と私の傍らで云う。

アンの心持ちを察するに冗談であっても気持ちよく無いものであるはずだが、彼女は本当に健気である。

強いだなと改めて思った。


私は彼女の頭を一撫でしてやって、「そうしようか」と云ってやった。

彼女は心持ちよさそうに目を細めた。



隊員達は軽装重装の違いあれど服の何れかには紅色が入っていた。どうやらこの国の軍の象徴の色であるようだ。

私達二人は官給品のフードつき前空き紅色ローブ(ローブというより外套に近いかもしれない)を羽織り、その下には刀と銃を忍ばせる。

中に着る服は紺色の詰襟の軍服を調達し、長ズボンを履いた後、ナジュムからの相棒であるブーツを履く。


二人とも背丈が小さいので少しダボダボである。


治療用の道具や薬はバックパックやら背嚢やらに詰め込む。



さて現場近くに辿り着いた所で、剣戟の音やら雄叫びやら物が打ち壊される音やらが聞こえた。


先に到着した他の隊と交戦中らしく、決起した隊長はしきりに、諸君は魔術師の犬でよいのか共に魔術師を打ち倒さん、などと呼びかけているが、誰も聞く耳持たず。


魔術師達もちょっとくらいは頭が回るようで、鎮圧側には褒賞を用意していたりするので目先の事に目が眩む連中ばかりの奴隷軍では反乱軍側につこうとする者はなし。

と云うよりも、一寸考えればこんなタイミングで決起しても成功するはずが無いと分かるわけであり、反乱側になびく者は本当の脳無しであろう。


ジュリコフらはそのまま敵に突貫し、乱戦状態に突入する。


市街地であるので屋台やらを打ち壊したり盾にしたりしつつ、互いに斬りあう。


とはいえどちらも同じ格好であるので弓兵の誤射は多発する。


又、弓兵以外でも、味方同士が互いに敵だと思いあい片方は相手の頭を斧で砕き、それを見た味方が又敵であるなと誤解してそやつに槍の一突きを食らわし、斧を持っていた男の顔を知っていた味方はさらにその槍兵に対し剣を振るう、などと云う馬鹿げた状況に陥った。



これではこの世界の戦術云々の話ではない。


前線の一つ後ろで、看護兵らと共に、担がれてくる負傷兵の弓矢を抜いてやったり、焼灼しょうしゃく止血をしてやったり、応急手当てに追われる。


すると前線の一箇所が崩壊したらしく、数人の兵士が此方に駆けて来る。



だが、此処で困ったことになった。


此方に駆けて来る兵士らは味方なのか、それとも敵なのか。


判別つかぬ。


これ以上近づかれては危険だという距離になった所で、横で負傷兵に手当てを施していたアンが立ち上がり、ローブの下に手を入れ、刀の鯉口を切った。


彼女は何の迷いも無く抜刀した。


駆けて来る二人ほどが両手剣、所謂いわゆるクレイモアを構えて突進してきた。

彼らの殺気を感づる。


駆けて来る兵らは敵であったのか。


其の二人に呼応して残りの兵らも各々の得物で戦闘態勢をとる。


看護兵らは混乱し、恐慌状態になったが、今はどうすることも出来ない。

下がっていろと云う以外に何が出来ようか。


アンが待つ。


彼女は正眼に構へた。


敵は二名とも革鎧を着、両手剣を八双の構えの様な要領で構え疾走してくる。


アンに向かう敵は二人。



私はローブの裾を後ろに払い、軍刀の鞘を左手で握り、右手で負傷兵の握っていた短槍を握り投げる体勢をとる。


革鎧の男が駆けて来る。

敵は片手斧を高く振り上げ、もう一人は盾とショートソードを構え、もう一名はショートソードのみを構えて疾走してくる。


私に向かう敵は三人。




アンに対し、両手剣使いは大きく上から袈裟懸けに斬り込まんと大きく振りかぶる。

力任せに、右足にて踏み込む。

その剣先は彼の背中に触れそうなほどに。

その一撃を食らへば、アンは骨をも砕かれ一撃で以って死ぬことになるだろう。

ましてや男は六尺ほどの背丈であり、アンへの威圧感は如何程のものか。

そしてその男の体から生み出されるエネルギーは例へアンが刀で防がんと受けようとも其の刀をも容易く折るだろう。


そしてもう一人の両手剣使いはアンの左側を取ろうと回り込む。


しかしアンの目には恐れはなく、その赤い瞳は唯二人の敵の姿を見据える。


恐怖を抱かず、唯々敵の動きを見る。

平常心を保ち、相手の動きを見る余裕を持つべし。


両手剣が敵の背中から離れる。

溜めに溜めたその腕の弾性を以って敵は両手剣を振り下ろさんとする。


もう一人が彼女の左側につき、両手剣を彼女の脳天めがけて振り下ろさんと振り上げる。


彼女は左足を右足の近くまで引き付ける。


右膝を曲げつゝ刀を左水平へ


その勢いの残る間にその勢いを以って右足を右斜め前へ押し出す。


アンの体はバネのように、文字通り射出される。


両手剣を振り下ろさんとした男は驚嘆の顔つきをした。


アンの左側へ回り込んだ男は一寸アンの姿を見失った。


彼は今からでは防御はできぬ。


彼の腹めがけてアンの刀が迫る。


彼の右足が大地を踏みしめる。



――左薙ぎに抜き胴。


彼女は彼の側面から後方へ抜ける。


彼女は右足を地に着けた後、すぐさま左足を左方向へひきつけ、其の左足を軸に右足を円を描くように右後方へ滑らせつつ首を捻り、後ろの腹を斬られ驚嘆している男の後姿を望む。


そのまま右足の運動により右回りに腰から後ろを向き、体軸をずらさず両手を捻って左薙ぎに男の首を飛ばす。


首を飛ばされた男は自身の振るった両手剣の重心移動により前へ倒れこむ。


アンの目には残ったもう一人の両手剣使いの男が映る。


彼女は右足を前に出したそのまま一度上段へ構えなおし、右諸手上段に構へた刹那、口を小さく開け


「サァッ」

と息を吐きつつ右足を踏み込み、上段に構えた刀を男の額を目掛けて振り下ろし、


――直斬


男は薄く体の中心を頭から股間まで斬られ、一歩後ろへ仰け反る。


彼女は振り下ろした刀を中段に構えなおし、そのまま男の喉への突きを食らわす。


喉への刺突を受けた男はそのまま後ろへ倒れこむ。






私に向かう男は三人。


私を中心にして距離は4メートルほど。


私は左側に回り込もうとする男に向かって短槍を投げつける。


これはただの牽制であり誘いである。

故に左に回り込もうとした盾を持つ男は其の盾で槍を防ぐ。


その刹那私の右側をとっていた斧を持つ男が好機とばかりに疾走し、接近してくる。


私は首を右側の男に向け、左手で軍刀の鯉口を斬り、右手で柄を握り、左足を右前に向かって半歩ほど踏み出す。


ついで右足をつま先を右側に向けつつ右側へ踏み出しつゝ抜刀。


腰が右側を向き、居合い斬りの要領で片手にて左袈裟掛けに斬る。


斧を持つ男は薄く斬られ、飛びのく。


首を動かし正面より接近したる男を望む。


正面のショートソードを持つ男は上段に振りかぶり私の左手諸共胴を斬らんと剣を振り上げる。


私は手首を返し両手で柄を握り軍刀を右水平に構へ、左足を軸に右足を円を描くように左前へ動かし、左旋回しつゝ右薙ぎに正面より来る男を斬る。


私の背丈は低いので我が胸の高さで振れば相手の胴を斬れる。


正面より来る男はそのまゝ血を噴水のように上げ斃れる。


私はその軍刀の勢いを以って更に左旋回し、左側より来る盾を持つ男へ、右足を押し出し、重心移動により前傾姿勢となりつつ突きを食らわす。


盾を持つ男は其の盾で以って私の突きの軌道を反らす。


――ぬかったか!


失態である。

見ると男のショートソードは私の頭上へ振り下ろさんとしている。


そもそも実戦経験に乏しい私が三対一を無傷で切り抜けることは不可能だったのだ。


しかし、ふと思う。

私は一度死んだ身である。

ならば今更わが身の何が惜しかろうか。


左手くらい呉れてやろう。


死ぬ覚悟をしたれば如何なる局地に陥ろうとも、不思議と説明できない力が出てくるものである。


その源は何か。


信義であり

義理であり

仁義である


そう。

己が望んで死を受け入れ、其の命を以ってなさんとする本懐が、義の為であるならば、何事も恐れることは無く。


うぬぼれだが、薄志弱行な者達には分からぬ思考だろう。



私は手首を返し刃を天に向け刀は地面と水平に。


そのまま男のショートソードを持つ右手に小手を食らわす。


同時に振り下ろされたショートソードにより左手を微かに斬られる。



運が良い。

かすり傷で助かった。


この男が徴兵による兵であるから助かったのだ。

もし熟練の兵であったらば、私の小手よりも先に相手の剣が私の左手を斬っていただろう。


男の右手首が地面に落ち、男は激痛により盾を投げ出して悶える。


私は其の斬り上げた刀の勢いを以って頭上に上げ、左旋回し、斧を持つ男を望む。


其の男は斧を振りかぶる。


右足を前へ押し出し前傾姿勢になる。

体重の移動による重心移動によって得られたエネルギーを用い、頭上に上げた軍刀を振り下ろす。


私の体の体重を用いた斬撃は腕の力のみによって振り下ろされた斧よりもすばやく、男の脳天へ叩き込まれる。


――面


男は衝撃で仰け反る。

斧の重みで後ろへ斃れる。


男の頭の弾性を利用し軍刀を再び振り上げ、すぐさま振り下ろす。


――連面打ち


ついぞ斧を持ちたる男は頭蓋骨を砕かれ斃るゝ。


己の軍刀に刃こぼれ一つ無いのを見ゆ。


だが、その理由を考えても仕様の無いことだと思い、手首を落とされ、のたうち回る男の下へ行く。


男に止めをさし、痛みから解放させたる後、アンの方を望めば、丁度アンも二人を斃した所であった。



私がアンに微笑みかけ、彼女の傍へ行った瞬間、激戦を繰り広げる戦場にガラスの割れるような音と、轟音とが鳴り響いて、私とアンがそちらを見たとき、とんでもない光景が目に映る。


一人の魔術師が杖を持ちなにやら唱えている。


彼の目の前には反乱軍と鎮圧せんとする軍とが激戦を繰り広げていた。


しかし今見えるのは建物の2階ほどの高さまでそびえ立つ氷の柱であり、其の氷の柱の先端はするどく、赤く染まっている。


その場で戦闘を繰り広げていた兵達は何れもその氷に貫かれたり。


其の氷は美しく、しかし人々の骸を貫く姿は醜く、してそれをなしたるうら若き金髪の女性の魔術師は悲しそうな顔をする。



アンは「先生、」と云ってその三つ編みの赤髪を冷たい風になびかせ、赤い瞳で私の顔を見る。


アンからは私は肩で切揃えた黒い髪を冷たい風になびかせ、黒い瞳で己の顔を見ていると見えるだろう。


アンは先生と呼ぶ後は続けて云わなかった。



私とアンは刀を血ぶるいをし、それぞれ鞘に収めた。








     斬られけん勇士は雪に隠されぬ何処が墓やら道さへ知らず





















時折文語を入れたくなるが、それって読みづらいのだろうか。

自分は文語が好きなので違和感は感じないですが、他の人から見たらどうなんだろうか。

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