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先生  作者: 鈴虫
改稿前  旧ver
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第一話 せんせい




打ち鳴らされる音楽。

太鼓とラッパの音。

この音楽は先生が「赤軍擲弾兵(せきぐんてきだんへい)」と題して作曲したもの。


一見陽気な音楽だが、そのなかに気品がある。

だが戦場で奏でられると陽気さ気品さは感じられない。

あるのは一歩も引かず、銃剣を掲げ突き進む同志達の情熱のみ。


懐かしき故郷( ふるさと)、「ナジュム」近郊での会戦。

なだらかな平原。

膝丈ほどの緑色の草花を踏みしめ白い服に赤色の装飾が入った服を着た男達が音楽に合わせて行進する。


そういえば先生は緑色の事を青色と呼んでいた。

何故、緑なのに青色と呼ぶのかと聞いたら、なんでかな私にも分からんよ、といっていた。

自分でも分からないのに何故青というのだろう。

いまだに分からない。先生自身がわからないのだから私には最期の時が来ても分からないだろう。


どうも最近先生のような言い回しが多くなってきたな。


私は白服の男達のほぼ中央で、日本刀(やまとがたな )と先生が呼んだサーベルを携えて行進している。

本来ならば後方から指揮をしなくてはならない立場だが、無理を言ってここに立たせてもらっている。

なぜなら私がこの手で、斬らなくてはならないから。

別に誰が命令したわけではない。戦略、戦術的に考えても、私が斬らなくてはならない道理は無い。

だが、私が斬るのは義理の為。

そして理由を問いたい。


ついぞその理由を聞かず此処まで来てしまった。

もはや斬り結ぶ剣戟( けんげき)の中で聞くしか無い。


私の直ぐ横に、空気を引き裂く音と共に相手の20ポンド砲が着弾し、大地がえぐれ、肉片となった同志が飛んできた。

青々とした草花が赤く、革命の象徴の色へと変貌を遂げる。


我が軍も砲兵隊が撃ち返す。

四方(よも)に撃ち出す砲声は雷鳴の如く、互いの戦列に地を降らす。


副官は私に大丈夫かとしきりに問うてくる。是非も無い。大丈夫に決まっている。

私は理由を聞き、自らの手で斬るか斬られるかされるまで斃れる(たおれる)つもりは無い。


兵士達は動揺する。だが戦列は崩れない。戦列を崩せば銃殺だ。逃げ出す者は反逆者、反革命分子とみなされる。

それよりも先に戦列が崩れれば相手の騎兵が突貫してくるだろうが。

兵たちはそれを分かっているのか、動揺しつつも足は止めず。


前方には黒服を着た者達が並ぶ。銃剣を掲げこちらに前進してくる。


その歩みはこちらよりも早足。しかし列が崩れるそぶりは無い。


黒服達の顔が見える。目が見える。

彼らの目は忠義に満ちた目。

彼らを率いる者への信頼の目。


今では彼らは反革命軍。

しかし此方よりも戦意は高く、統率が取れている。


空が青い。夕焼けであったらならば悲壮感があったかもしれない。しかし太陽は真上。

空の青さの中にこちらに向かって大きくなる丸いものが幾何十。

空の青さの中にあちらに向かって小さくなる丸いものが幾何十。


進めば進むほどそれは益々互いに白と黒を崩れさせる。


黒服達の表情が見えた。

彼らは口を一文字に閉め、まっすぐに此方を見据えている。


私は全隊に止まれを命じた。


構えと叫ぶ。


サーベルを天へ向ける。

狙え。


黒服はまだ歩む。


サーベルを大地へ振り下ろす。

発砲。


砲兵のそれとは小さな音が連続して鳴り響き、辺りを白煙で包む。


黒服が斃れる。しかし、斃れたものの後ろから又黒服がその欠けた穴を埋めるように出てきて、行進が止まることは無い。


私は一列目をしゃがませる。


二列目に構えの号令。


狙え、

再びサーベルを天へ。


発砲。

サーベルが同志達の(かばね)の方へ向く。


再び白煙に包まれる。


黒服の姿が見づらい。


すると黒服は歩みを止めた。


一寸間があった後、向うから白煙が上がる。


刹那、同志達の白服が赤く染まる。


白服が紅白の服になる。


私は待てない。待てなかった。


「バイヨネットチャージ!」


マスケットを掲げる兵たちは銃剣突撃を。

隊長格の兵たちはサーベルを掲げ、黒服に迫る。


走る。躍進距離二十。


黒服もそれに呼応して銃剣で突貫してきた。


数の上では此方は相手の三倍。先生の教えてくれたランチェスターの法則に当てはめても、勝てる。


黒服の中央を見据える。

黒服の中でも突出して迫ってくる一隊があった。


私達は抜刀隊と呼んでいた。

長銃を持たず、サーベルで武装した突撃専門の部隊。


それはどの隊よりも雄雄しく、鬼神にも恥じない勇。

その跳躍する隊の中に「先生」を見た。


上段に構えたその刀は太陽の光を映す。

風になびく黒髪、――先生から言うと緑髪か――がひどく美しく思えた。

何時までも変わらない先生。あのときから変わらず、私が尊敬する先生のまま。

強いて言うなら隻眼となったくらい。

しかし残った片目は真っ直ぐに私の瞳を見つめている。


私は先生に向かって躍進する。

ふと、出会った頃を思い出した。

私は何時(いつ)から先生と呼び始めたんだったろうか。









私は跳躍する。

白服の中に、ほぼ中央に、先生先生と呼んで慕って呉れていた子が居た。


上段に構え、跳躍する。

風が涼しい。


私は此処(ここ)で死ぬ。

死なねばならぬ。

屹度(きっと)先生と慕って呉れていた子に斬られねばならぬ。


この際、勝敗はもはや知ったことではない。


あの子と斬り結ぶ事だけが今は望み。


あの子は理由を聞きたがるだろう。

だから懐に手紙を入れた。

あの子が私を斬ったら、見てくれるだろう。


距離は後十歩ほど。


あの子は脇で構えた。


当然だろう。あの子は私よりも背が高い。

出会った頃は同じくらいだったのだが。


背の低い私が上段で構えたならば、同時に斬りあえば先に刀が届くのは私。

ならば脇に構え、下から斬り上げれば私の突貫を牽制できる。


だが、甘い。


此処に来たばかりの私なら、躊躇(ためら )って一歩引いたところを斬られるか、そのまま袈裟懸けに斬りかかって、下から斬り上げられて死んだだろう。

しかし、私も学んだ。

右目を犠牲にして何も学ばなかったわけではない。


私は大上段に構える。


勝機はフェイント。


今まさに斬らんと見せかけ、あの子の刀が目の前を掠めたところで小手を打つ。


等と考えていたのは両目が在った頃。


私はそのまま大きく跳躍する。

体の体重全てを乗せて、跳躍する。


その体重移動で得られる力を利用して軍刀を振り下ろす。


あの子の瞳を見つめる。

三つ編みの赤髪が視界の端に見える。

出会った時から変わらない髪。身体は成長し変わったが、髪だけは変わらない。


ふと、出会った頃、いや此処に来る前からの、事を思い出した。





所謂プロローグです。

最近異世界召喚ものをよく読んでいるんですが、読んでいる内に「自分も一筆書きたいな」と思い投稿した次第です。

案外書くこと(といってもキーボードを叩いているが)はやってみると疲れるもので、さらにお話が頭の中では綺麗にまとまっているのに、いざ文章化するとなるとどうにもキーボードが進まないと言う事態が沢山起こりました。

こうして実際書いてみると、どれほど皆さんが苦労なすっているかが分かります。

文がつまるたびに己の手腕が無さに落胆していますが、右翼なのに共産主義的思想(矛盾だらけ)で剣客な主人公共々、暫くの間この場をお借りして好き勝手させていただきます。


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