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第1話『伝説のメガネの戦士!? メガネっこ誕生!』その1


「我々はグラスセクト。全平行宇宙を『正し』、あまねく『メガネのくに』をもたらす使徒である」


 どこかの宇宙──タコ人間が暮す海底の都市・オクトポリス。謎の声が響き渡り、海面からは黒いタガメのような姿の怪物が押し寄せて来た。


 オクトポリス王宮。ぼろぼろの姿のタコ幼女──彼女は第二王女のネルネ。ネルネは第一王女から2本のメガネを手渡された。


「変身メガネ『メガネグラス』! これを使いこなせる『伝説のメガネの戦士・メガネっこ』を探すのよ!」


 王宮の中にも怪物が押し入ってきた。

 第一王女は、ネルネを極彩色の異世界ゲートへと押し入れた。


「ねーね! いやだ! ネルネはまだ──」


 異世界ゲートが無情にも閉じた。その直前、崩壊する王宮と押しつぶされる姉の姿がネルネの瞳に映り込んだ。


ーーーー

第1話『伝説のメガネの戦士!? メガネっこ誕生!』その1

ーーーー


 いろいろな生き方が世の中にはあるけれど、その中で自分が選べる選択肢は最初から限られている。それくらい、中学生にもなればわかります。可能性は無限大だと『ニチアサ』の彼女たちは言いますが、さてここでひとつ、たとえ話でもしましょうか。あなたはまわりのどの方向にも足を踏み出すことができます。それは三六〇度だから三六〇方向? いいえ、一度をさらに二分割すれば倍の七二〇方向です。三分割すれば、四分割すれば、無限に分割していけば? 歩き出せる方向はあら不思議! 無限大にあります! だからあなたには無限の可能性がある! ──だなんてバカみたい。上を見上げれば、踏み出せない方向だって無限にあるじゃないですか。


 私はバカではありません。夢は夢。フィクションはフィクション。まともに堅実に生きるのです。うららかな中一の4月。私はそんな誓いを密やかに──


明鏡(めいきょう)


 美術の、ライオンみたいな髪型の先生に、後ろから声をかけられました。


「はいっ」

「なかなか上手いじゃないか」

「……しょれほどでも……」


 噛んだ。茹だったタコのように真っ赤になりながら目だけ向けると、先生はすでに別の生徒の方に歩き出しているところでした。メガネを直して気を取り直します。


「今噛んだな」


 向かいの席から指摘してきたのは、幼馴染の加賀美(かがみ)風太郎(ふうたろう)です。(これを言うと彼は怒るけど)美少女のような顔にいたずらっぽい笑みを浮かべながらこちらを見ています。気が付いたのが彼だけならセーフですが。


「噛んでません」

「完璧人間の(あかり)でも、噛むことがあるんだなあ」

「……そりゃね。完璧ウルトラスーパー美少女の私と言えど、噛むことはあります」

「自分で言うか?」

「言ったのは風太郎(ふうたろう)じゃない」

「オレそこまで言ったか?」


 私は風太郎(ふうたろう)のキャンバスを見ました。

 スパゲッティの……化け物? 目が大きいので、宇宙人か何かでしょうか。


「見惚れてるな、オレの絵に。芸術的だもんな」

「壊滅的というんですよこれは。何を描くとこうなるの?」

「何言ってんだ? 相手の姿を見ながら書いてるんだから、(あかり)に決まってるだろ。ここがポニーテールの躍動感を表してて、それにほら、メガネもちゃんとかけてる」

「私の本体をメガネだと考えていらっしゃる? あなたこそ、メガネをかけたほうがいいですよ。目が悪いみたいだから」


 ずいと風太郎(ふうたろう)が、私の前に身を乗り出しました。シャンプーの匂いまでわかるほど近くに髪がせり出してきて、妙に気まずいです。なんで私よりいい匂いのシャンプー使ってるんだ。腹たつ。


「な、何ですか」

「そう言う(あかり)様が、どんなイラストを描いたのか見させてもらわないとな」

「……見ていいですよ。私も見たし……」


 少し椅子を引きます。自分の絵を見られるほど恥ずかしいものはありません。まして相手を描いた絵ともなれば、なおさらです。

 ……まあ自分で言うのも何ですけど、上手く描けたと思うのです。一見女性にも見える風太郎の表情。こいつ、顔がいいんですよね。うん、よく描けている……と思うけど……。


「……なんでそんな近くで見てるんですか……」

「近眼だから」

「メガネかければいいじゃないですか」

「小六の時に買ってもらったっけな。行方不明なんだ……見かけたら声かけといて」

「よくわかりました。あなたはバカなんですね」


 風太郎(ふうたろう)がくるりと振り向きました。ちょっと怒ったか。


「やっぱり、相変わらず上手いよ。いや、むしろ前より上手くなってる」

「え、あ、うん、アリガトウゴザイマス」

「……まだイラスト続けてたりする?」


 チャイムがちょうどいいタイミングで鳴りました。私はスケッチブックを大急ぎで閉じて、立ち上がります。


「あ、そういえば次の時間体育ですね。あなたの好きなかけっこですよ」

「え? あ、うん……そうだな」


 妙に歯切れ悪く、風太郎(ふうたろう)が言いました。推定ツッコミは「かけっこって言わねえだろ、陸上だろ」あたりだったので、これは少し欲求不満です。


「ちょっといいか明鏡(めいきょう)


 ライオン先生が私を呼び止めました。


「倉敷先生? どうかしましたか」

「放課後ここに来てくれないか? 会わせたいやつがいるんだよ」

「はあ」


 美術部に入ってくれ、みたいな話題でないといいのですけど。


ーーーー


「失礼します」

「……ああ、明鏡(めいきょう)。と加賀美(かがみ)か? まあいいや、実は人は多い方がいいんだ」


 放課後の美術室。風太郎(ふうたろう)もなぜかついてきていました。

 教室にはライオン先生と物静かそうな女子生徒がいました。上履きの色から判断するに3年生、つまり上級生でした。髪がもさもさとした方です。


「こちら3年の南雲(なぐも)八子(やこ)くん」


 どうもと南雲(なぐも)先輩が頭を下げました。私たちもどうもと頭を下げます。


南雲(なぐも)くんは、美術部の部長なんだ」

「はあ」

「3年生は南雲(なぐも)くんしかいなくてな。必然的に彼女が部長をやるしかなかった」

「それは……大変ですね」


 大変です、部活に誘われる流れを感じます。


「お願いというのは、美術部に入って欲しいということなんだ。3年は今言った通り南雲(なぐも)くんしかいない。2年の部員は一人だけで、しかもほとんど来ていない。このままだと、美術部は無くなってしまう」

「それは……大変ですね……」

明鏡(めいきょう)は見たところ絵が上手(うま)い。それに、そこまで負担にはならないと思うんだ。美術部は週二回だけだし、他の教科の成績もいいんだろう?」

「それは……大変ですね……」


 風太郎(ふうたろう)が私を軽くこづきました。いけない、思考が停止していました。しかしどうすればいいのかさっぱりわかりません。美術部には入りたくないですが、ただ優等生として、先生の顔も潰したくはないという思いがあります。


「あの先輩は、どう思っているんすか?」


 風太郎(ふうたろう)が話題を南雲(なぐも)先輩に振りました。そういえばこの先輩、まだ一回も口を開いていませんでしたね。


「え、あう、わ、私は……」


 彼女がふるふると頭を振ります。


「わ、わからない、です……その、私部長って柄でもないし……部活を引っ張る自信もない、ので……」

「じゃあ先輩、それから先生、考える時間をもらっていいっすか」

「もちろんいいよ。無理にとは言わないさ。今日この後、見学していってもいいし」


 そう言って、ライオン先生は立ち上がりました。ナイス風太郎! 今日の(あかり)ちゃんファインプレー賞はあなたをノミネート予定です。


「あー……僕がいたら話しにくいこともあるよな? もう職員室に戻るよ。南雲(なぐも)、いつものように最後に鍵だけ持ってきてくれな」


 先生が去りました。少しだけ緊張が途切れます。


「その……見学、していきますか?」


 南雲(なぐも)先輩が言いました。もちろん、「いいえ」! と言おうとしたのだけど。


「はい、見ていっていいっすか」


 風太郎(ふうたろう)! ちょっと! 今日の(あかり)ちゃんファインプレー賞のノミネート予定を取り消します!


 無口な先輩と、特に乗り気ではない私。気まずい時間が始まってしまいました。気を紛らわせるために、私もスケッチブックを開きました。それを軽く覗き込んで、先輩が言いました。


「……あ、あなた……いい、ですね」


 あ、美術系のことだと食いついてくるパティーンの方? めんど臭いな完全に失敗したやつですこれは。

 先輩も上手いですねあたりの当たり障りないことを言おうとして彼女のキャンバスを見ました。


「……うま……プロ……?」


 私の多少アニメイラストをかじった感じの絵とはまるで次元の違う、まごうことなき美術的な少女の絵。本物の人体よりも(なま)めかしく、水彩画の淡い色合いが若々しさを感じさせています。うん、なおさらこの部にだけは入りたくない。この人と肩を並べるのは絶対に無理です。とはいえ、


「倉敷先生が美術部をつぶしたくない理由、わかった気がします。先輩、すごいんですね」

「私、全然すごくないです。……こういうのは、その、うけがいいんです。賞をとりたいなら、こういう絵を()いた方がいいのかなって……。私たち中学生に求められているのは、こういうものだから」


 ? どういうことなのでしょう。風太郎(ふうたろう)に後で聞いておこうかな。


明鏡(めいきょう)さん、でしたよね。あなたの絵は、確かに技術はそんなにでもないと……思います……ごめんなさい、すごく失礼なこと言ってますね、私……」

「い、いえ! 気にしないでください、それは本当のことだと思うので」

「すみません。……ですが、技術とかじゃなくて、その絵からは、あなたが本心からそういう絵を()きたいんだっていう感じが伝わってくるんです。それがすごく、いいなって」


ーーーー


「……で、どうすんだ? 美術部、入るのか?」


 帰りぎわ、下駄(げた)箱に手を伸ばしながら風太郎(ふうたろう)が言いました。

 

「入った方がいいんでしょうね」

「じゃなくて、(あかり)はどうしたかだろ。イラスト……やっぱり、人に見せるのは嫌なのか?」


 図星を指され、私は思わず質問を返します。

 

風太郎(ふうたろう)こそ、どうするんですか」

「オレ? いや、オレは絵が下手だから」

「画伯の自覚はあったんですね」

「いや、そりゃそうだろ。……別にオレ、得意なことなんてないから」

「え?」


 少し戸惑い、彼を見ます。そういえば、てっきり風太郎(ふうたろう)は陸上部か何かに入るものだと思っていました。小学生の時には、そうしていたと聞いていたから。

 ううん、私が転校していた間のことをちゃんと聞きたい。でも聞いてほしくなさそーな顔をするんですよね。

 どうしたものか──


「あば──────────!!」


 脈絡のない大声が響きました。小さな女の子の悲鳴でした。

 何が起こったのかわからず、私たち二人はあたりを見渡しました。


「なんだよ今の声!?」

「外からじゃありませんでしたか!?」


 飛び出します。

 校舎の入り口に植っている巨大な木。通称「御神木」に気球がひっかかっていました。は? 気球……? いや確かに気球です。何の脈絡もありませんが。


 その気球の下の方からロープが伸びていて、そのロープの先端が赤髪の小さな女の子に絡みついていました。


「たけて──────────!!」


 慌てて二人で助けに向かいます。舌足らずな声で、幼女が助けを求めていました。

 

「大丈夫ですか!? これは何ですか!?」

「もってかるよ──────────!!」


 気球が枝を外れ、徐々に浮かび上がっていました。ロープが絡まっている女の子も、体が浮かび上がっていきます。風太郎(ふうたろう)が慌てて彼女の腕を掴みました。


「やばい! やばいってこれ! 先生とかいないの!?」

「いや、呼んでたら間に合いませんよ!」


 私は大慌てで、学校のカバンからハサミを取り出し、気球と幼女をつないでいるロープを断ち切りました。気球はそのまま、何本かの木の枝を(はじ)()ばしながら大空へと上がっていきました。


 浮力から解放された反動で、風太郎(ふうたろう)が幼女ごと尻餅(しりもち)をつきました。風太郎(ふうたろう)に幼女の赤髪が巻きつきました。


「な、何ですか、今の気球……」


 去っていく気球をぼんやりと眺めながら、私は「どこかで見たことあるような気球だなぁ」と思っていました。はてどこで見たのか。

 

「あばあ」


 赤髪の幼女が、目を回しながら起き上がりました。よく見ると不思議な格好をしています。計器がいたるところについた水着のような服を着て、特徴的な赤髪は何束かに明確に分かれているようでした。


 その赤髪の束が、風太郎(ふうたろう)から一人でにほどけました──ように見えました。そして幼女が風太郎(ふうたろう)の腹の上で立ち上がりました。


「実験は成功した! ちょとのトラブルはあったけど、ぶじ打ち上げは成功!」

「いてててて! 降りろって! 見た目より重い!」

「ねーね見てるか! ネルネはやりした!」

「あの、あなた! ちょっと! 風太郎(ふうたろう)から降りてあげて!」

「お?」


 幼女がやっと気がついたらしく、地面に降りました。


「あなたは……どこの子ですか!? さっきの気球は何なんですか!?」

「わたちはネルネ! 科学者のネルネ! 思えばここまで、いろいろあたよ! 苦節1日」


 そんなに苦節してないじゃないですか。


「ネルネちゃん! あの! さっきの気球みたいなものは何ですか!?」

「ただの気球じゃないぞ! あれはタンサキ! 『気球が見えるヒトが見えるくん』だぞ!  あれが見えるならシカクがあるってこと!」


 そう言ってから、はっと驚いたような表情で幼女が私の顔を見ました。


「おわあ──!! いきなりアタリ!!」


 幼女の髪が、意志を持った触手のように動き始めました。どうやら先ほど動いたのも見間違いではなかったようです。

 思わず後ずさった私でしたが、目を輝かせた幼女は距離を詰めてきました。


「わたちはネルネ! おまえに力をかしてほし!」

「あなたは……何……?」


 と、その時、後ろ側──校舎の方から、爆発音が響いてきました。

 振り返ってみると、校舎の壁に、巨大なクモに似た怪物が!!

 しきりに糸を吐き、巨大な巣のようなものをつくっています。

 なぜか、明らかに似合わない巨大なサングラスを装備していました。


 風太郎(ふうたろう)が悲鳴をあげました。


「ぎゃ──!! なんだあのクモ!! っていうかさっきからおかしいだろ! この子も! 気球も! あのクモも! なんで騒ぎになってないんだよ!?」

「ふつうのヒトには見えない! シカクがないヒトには!」

「シカクがないって何ですか!? あなた何か知ってるんですね!?」

「あれはグラスセクト! ネルネの……ネルネのねーねの(かたき)!」


 赤髪の幼女が、壁の怪物を鋭く(にら)みつけていました。その瞳には激しい怒りが燃えているようでした。


「ネルネのねーねはあいつらに殺された! でもネルネは戦えなかった……!」


 大きな瞳に涙をたたえ、彼女はどこからともなく二つのメガネを取り出しました。真紅のメガネと、紺碧(こんぺき)のメガネ。その二つを私たちに差し出してネルネが言います。


「おまえたちならきっとできる! いや、シカクのあるおまえたちしかできない! このメガネで、伝説のメガネの戦士『メガネっこ』になって!」


 伝説のメガネの戦士

 『メガネっこ』!!


 何ですか、それは!?



次回予告! (あかり)、『メガネっこ』になる!

第2話『伝説のメガネの戦士!? メガネっこ誕生!』その2

『ふたりはメガネっこ!』は、(主に)毎週土曜と日曜日のあさ8時30分更新です!

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