2.吸血衝動
「とうさま」
と呼ぶ声は5歳にしては幼い。
吸血鬼は人間に比べ極端に体の成長が遅い。
そして、それは始祖と呼ばれる吸血鬼の血に近い程に顕著に現れる。
始祖は複数人おり、黒と銀、金と赤、青と紫、と序列がある。
だが、ナイトヘルムは黒を最も高貴な始祖としている。
だが銀と力の差はないらしい、まあ便宜上そうなっている。
「どうしたんだい?ロゼ」
と聞き返すのはナイトヘルムの第二代国王だ。
「あのねっ、あのねっ、あまいかおりがするの!」
とロザリアが言うと。
「…なっ」
と国王は一瞬固まり、すぐさま青ざめる。
「どうしたの?とうさま?」
とロザリアが聞き返すが返事はなかった。
「むぅ!とうさまったらひどい!」
あの後、何も言わずに国王に部屋に戻されてしまったロザリアは不満顔だ。
「それにしても、5さいなのにまだ3さいぐらいなんだよね、このからだ」
とロザリアは小さく呟く。
ロザリアは転生者だった。
ロゼが記憶を取り戻したのは3歳の時であった。
あまり前世に思い入れのないロゼは悲しいとは思わなかったが、一つ、不満があった。
それは、身体年齢に精神年齢が引っ張られていることだった。
幼子は感情のままに動く生き物だ。
感じたことをそのまま外に発信する。
「それにしてもこのあまいにおいはなんだろ」
とロゼが呟く。
ロゼは少し前から昼夜問わず甘い匂いを感じていた。
1週間前は今ほど濃い匂いではなかった。
だが、日々段々と濃くなっている。
「ぅっ、すっごく喉が渇いてるみたい」
甘い匂いとともにロゼは空腹のような、喉が渇くような感覚に襲われていた。
「あ゛ぁ゛〜、まじさいあく〜」
ああ、甘い匂い。
飲みたい。
……何を?
甘い。
匂い。
ほしい。
ロザリアは頭の中がそれに支配されていくのを感じる。
思考が塗り潰されていくような感覚。
……吸血衝動だ。
「っう、くぅ、はぁはぁ、さいあく」
あ
ま
い
に
お
い
「がぶっ」
と自分の腕に噛み付くと腕から血が滴り落ちていくのがわかる。
だんだんと思考がクリアになっていく。
「ふぅ」
口を離すとすでに傷は塞がっている。
始祖の血が濃いからなのか傷の治りがいように早い。
吸血鬼の本能か、はたまた痛みのおかげか、吸血衝動が治っていく。
幼子の体で考えすぎたのか、あるいは、血を失いすぎたのか、ロザリアは気を失うように眠った。




