7 モテ男 菱川
光夫の会社に菱川譲治というモテ男がいる。モテ男と言っても男性も認めるようなステキな男もいるが、菱川はお金持ちだが狡賢くて女ったらしであった。
社内の可愛い女の子の誕生日をいつもチェックしていて、その日には必ずケーキやクッキーをプレゼントするといったまめな点もあるが、会社員としては一応何とかつとまってはいるが、本来怠け者であり、いつも上司の顔色を伺ってうまく立ち回っている男で、光夫のような真面目に働いている人間をダサいと言って下に見ているようなところがあった。
二人は面識は無いのだが、女好きの菱川は美人に囲まれて仕事をしている光夫が常日頃から羨ましくてしょうがなかった。ある日光夫が給湯室でお茶を飲んでいると菱川が現れ、図々しく話しかけてきた。
「杏野君、俺、菱川っていうんだ。よろしく頼むぜ。早速だけどお前のプロジェクトチーム、美女ばっかり集まっててずるいよ。」
「いやあ、私に言われても困るよ。上が決めることだからね。なんなら君が上役さんたちに直訴して何とかしてもらったら?」
「てめえ、ふざけんじゃねえよ。そんなことできるわけないだろ。そうじゃなくて俺にお前のプロジェクトチームの女の子のうち誰でもいいから紹介してもらいてえのよ。いいだろ。」
「そんなこと言われても私は彼女たちとは職場の同僚としてたまたま一緒に仕事してるだけの関係だからそんなこと言われても無理だね。
それに君はいきなりこんな風に話しかけてきたけど、これまで全然接点がなかったのに図々しいんじゃないの。」
「この野郎。覚えてろ。お前が同僚の女子から嫌われても知らないからな。」
「ははあ、そうか。」光夫は大学を出たばかりで社会人としての経験は皆無であったが、こういう輩はよくテレビドラマに登場する下品で卑劣な類の人間だと思った。
そこから類推すると、恐らくこいつは社内の女子に有る事無い事自分のことを悪く言ってまわるのだろう。そこで吹き込まれて自分のことを悪く思う女子が増えるのかもしれないが、光夫は女性経験はほとんどないながらもどこか女性を信じているようなところがあるから、自分がそういった不利な立場になる、というかそう言った理不尽な目に遭ったとしても決して屈しないという心構えがあった。
女性を信じている、というのは女性全体を信じているということではない。むしろ多くの女性は菱川のようなやつに騙されてしまうと思っている。信じているというのはごく少数派ではあるが必ず一人か二人くらいはそんな虚言に操られることなく光夫のことを信じてくれる女性がいると信じているという意味なのだ。