映画を大ヒットさせる方法
映画業界は苦境が続いているようだ。私も物心ついた頃から苦境に陥っているので親近感が湧いてきた。親友が困っていたら手を差し伸べるのが人として正しいあり方だ。映画業界を救うため、映画を大ヒットさせる方法を考えたいと思う。
①大ヒットしていると宣伝する
順序が逆転するようだが、前もって大ヒットと言いふらしておけば一定の成果を期待できる。世間でヒットしている作品なら、そうそう酷いものには当たるまいと考える軽率な人間は意外と多いものだ。
明らかな嘘を宣伝すれば顰蹙を買うことになるが、宣伝内容の真偽はいくらでも誤魔化しが効き、誤魔化しのテクニックで商売をしているのが広告代理店である。例えば、こんな宣伝はどうだろうか。
「驚異の記録達成!!公開初日に全席売り切れの大ヒット!!」
初日に上映したのが単館で、上映回数は1回のみ、加えてチケットは映画関係者が買い占めておけば上記の宣伝も嘘とは言えない。
映画館に足を運ぶ人間の9割は楽しく時間を潰すことを目的としている。恋人とのデートや家族サービスなどの辛い時間をやり過ごすには映画は最適だ、少なくとも上映中は一人の時間を持てるのだから、何なら居眠りだってできる。快適な睡眠はどんな映画よりも人生を豊かにする。
問題は上映終了後である。もしも映画がつまらないものだったら、怒りの矛先が映画を選んだ人間に向かうことは必至だ。この点、大ヒットしているという宣伝に騙されたと言い訳をすれば、怒りん矛先の何割かは自分から逸らすことが期待できる、責任転嫁という点でも、大ヒットしているという宣伝は、映画選びの重要なファクターである。
②特典をつける
映画館に来て、映画を観るだけでは、コスパ重視の人々の関心を惹くことは難しい。付加価値を与える必要がある。例えば、チケット代2000円の映画の特典として、2000円のキャッシュバックがあれば大きな集客が見込まれるが、コストがかかり過ぎる。そのコストを賄うためにチケット代を値上げする羽目になるかもしれない。その点、特典は限定の冊子やカードにして、ランダム配布にすれば、コストを抑えた上で、客の射倖心を煽り、リピータを増やすことが期待できる。映画の内容に自信がなければ、特典に工夫を凝らし、映画を観なくても客を満足させるという戦略もありだ。
③刷り込みを行う
時間に追われている現代人に週末に観にいく映画をじっくりと選ぶ余裕はない。そこで、至る所に映画のポスターを貼り、電車や街頭のビジョンでひっきりなしに映画の宣伝映像を流すのだ。疲れで思考力の低下した人間に映画のタイトルを刷り込むことが期待できる。露骨な宣伝は街の景観や人々の心象を損なう恐れがあるが、圧倒的な物量で攻め続ければ反感を封じることができる。長いものに巻かれろの精神は健在なのだ。もしも抗議が来れば謝罪という体で更なる宣伝ができるというメリットもある。
また、ネットニュースは大部分がニュースにかこつけた宣伝であることは自明であるから、裏から手を回して、映画のことを取り上げる記事を大量にばら撒かせれば良い。中身がない記事でも、ネット中毒の人間に刷り込みを行うのには何ら支障がない。どうせ中身なんてろくに読んでいないのだ。「〜に賛否両論」というタイトルを付ければより効果が出るだろう。賛否の内容は記者が考えれば良いのだ。対立しているものがあれば覗いてみたくなるのが、悲しき野次馬根性というものである。
④スクリーンを独占する
資金力がなければ実行できない荒技だが、尋常ではない上映回数を確保し、ライベルとなりうる作品を映画館から締め出してしまえば良い。どんなにくだらない作品でも競合作品がなければヒット扱いとなる。
ヤクザなやり方だが、芸能とは仁義なき世界である。どんなに綺麗に繕っても、根本にある河原乞食の根性は決して消えることはない。
この手法は一時的に顰蹙を買うかもしれないが、実際に大ヒットしてしまえば問題ない。大金を稼ぐものに卑屈になるのが人間の本性である。これは、資金力を持つものが、さらに大きな儲けのチャンスに恵まれるという資本主義社会のありようを素直に示す例と言える。
ここまで考えて、ふと不安になる。こんなやり方で映画が大ヒットしたとして、映画業界の人間のプライドはどうなるのか。真っ当な人間が、このような恥知らずの謗りを免れない手法を採用するだろうか。何より、提案した私の品格が疑われる恐れがある。
しかし、私は実を取るために外聞をドブに捨てる覚悟を持つ人間だ。加えて、私は映画業界の人間ではない。
悲壮な決意を秘め、①〜④のプレゼンを関係者に行ったが、反応は冷たかった。
「何を言うかと思えば。そのなの、とっくの前からみんなやっていますよ」
恥知らずな人間が私だけでなくて安心した。
終わり