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9/11

第9話 追いつくための一週間

 咲良から「来週の土曜日、空いてる?」とメールが来たのは、昨日の日曜の夜だった。


 土曜日。

“来週”という猶予をもらったのは、実質「時間をくれた」ってことだと思ってる。


 たぶん、あの子なりの優しさだ。

 今すぐじゃなくていい。でも、逃げないで。

 ——そんなメッセージが含まれてる気がした。


 だから俺は決めた。

 この1週間、ちゃんと自分に向き合う。


 ちゃんと“追いつく”。


 ただ好きです、じゃ足りない。

 あいつの想いは、そんな軽いもんじゃない。

 8年間ずっと、俺の横に立って、振り向いてくれるのを待ってくれてたんだ。


 逃げてた。

 見てるつもりで、見てなかった。

 気づいてるふりして、気づいてなかった。


 俺は、“負けたくない”って言葉に全部押し込めて、

 好きって気持ちまで蓋してた。


 でも、あの子は違った。

 言葉にはしなかったけど、

 視線で、仕草で、心で、ずっと伝えてくれてた。


 それを俺はずっと、ゲームのルールだと思って笑ってた。

 本気で想ってくれてる相手に、本気を返さずに、

 逃げてた。


 本当は、追いつけないんじゃなくて、追いかけてすらいなかった。


 それに、ようやく気づいた。

 だから俺は変われる。




 ******



 

 月曜。

 登校は、ひとり。

 でも、もう“誰かがいないこと”に対する焦りじゃない。


 自分の足で立って、自分の意志で会いに行く。

 それが“今の俺”にできることだってわかってる。


 教室に入ると、咲良はいつも通り席にいた。

 ノートを開いて、ペンを走らせている。


 でも、ふとした瞬間に俺と目が合った。

 ほんの一瞬だったけど、それだけで心がじんとあたたかくなる。


 あの子の中で、まだ俺が終わってない。

 それだけで十分だった。




 ******


 


 火曜、水曜、木曜。

 時間はじわじわと過ぎていく。


 竹中なんかはニヤニヤしながら「今度は勝負の日か?」とか言ってきた。……なんでわかるんだよ。


「勝負って言うなよ。ちゃんと向き合うだけだ」


 そう言ったら、竹中が「そっちの方が重くていいな」って笑った。


 そう、これは“勝負”じゃない。


 ただ、“ちゃんと好きな人に好きだって伝えるだけ”。


 それが、どうしてこんなに怖くて、どうしてこんなに勇気がいるのか。

 でもそれが、好きってことなんだって、今はちゃんとわかる。




 ******



 


 金曜日の夜。


 寝る前に、スマホを開いた。


 咲良のアイコンが目に入る。

 会話の履歴をさかのぼってみた。


 しょうもない会話も、くだらない煽り合いも、

 一見どうでもいいやりとりの中に、

“好きを隠した好き”がたくさんあった。


 それを、やっと見つけられるようになった。


 この1週間で、俺は少しだけ変われた気がする。


 明日、全部伝える。


 全部の“ごめん”と、全部の“ありがとう”と、

 それから、俺の“好き”を。




 ******


 


 土曜日。


 空は晴れてた。

 先週と違って、風もなく、やけにあったかい。


 いつもならなんてことない、ただの休日の午後。

 でも今日は、俺にとっては人生の分岐点みたいな日だ。


 約束の時間、約束の場所——公園のベンチ。


 俺たちが初めて「好きって言ったら負けゲーム」を始めた場所。

 そして、あの子が「ゲーム、もうやめよっか」と言った場所。


 ここで、終わらせる。


 でもそれは、恋の終わりじゃない。


 ふたりの恋の“本当の始まり”にするために、今日、言う。


「咲良、俺は——」


 そのセリフを、何度も心の中で反芻しながら、

 俺は公園の入り口に向かって歩き出した。

 

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