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第6話 焦っていう『好き』じゃなくて

「……よし、今日は告白のタイミング探すぞ」


朝、学校のトイレの鏡の前で自分に言い聞かせた。


これまでの俺だったら、告白なんて“ゲームに負けた証拠”みたいに思ってた。

でも今は違う。


咲良のあの手のぬくもりを思い出すたびに、俺の中の何かが変わっていくのがわかる。

“勝ち負け”じゃない。“気持ち”だ。

俺の気持ちを、咲良にちゃんと届けたい。


「ただ、問題は“どこで”“どうやって”なんだよな……」


告白って、どこで言うもんなんだ。教室か? 放課後か? メールなんかじゃダメだよな。

いや、なんならもう一回“練習”って名目で——。


「お前、顔めっちゃニヤけてるけど大丈夫か?」


隣の席の竹中に不審者を見る目で見られた。


「……朝からうるせえよ」


「てか、お前に言うのもなんだけどさ。昨日、咲良って告白されてなかった?」


「……は?」


空気が止まった。頭も止まった。


「放課後、体育館裏。うちのクラスの安田が咲良に告ってたって。誰かが見たらしい」


「……マジで?」


「ああ。で、なんか“返事は保留”とか言ってたらしいよ。あくまで噂だけどな」


冗談だろ、と思った。

でも竹中の顔は真剣だった。

いつもの冗談なら「チッ、つまんねー」とか言いそうなやつなのに。


心臓がズンと重くなる。

保留ってなに。俺以外に告られて保留って、どういう意味だ。


(待て、冷静になれ)


俺と咲良はまだ付き合ってない。

告白もしてない。ただの幼なじみ。……じゃ、済まない距離まで来てるけど、それでも形式上はそうだ。


でも、だからって他の男が告ってくるのは反則だろ。


(……いや、反則じゃねえ。正攻法だ。俺が、遅れてるだけだ)


席についた咲良の顔をちらっと見る。

いつも通りの笑顔。けど、昨日より少しだけ笑みが固い気がした。


――そして俺はその日、1ポイントも稼げなかった。



 

******


 


昼休み。

今日も隣の席で弁当を広げながら、咲良が話しかけてくる。


「ねえ直くん、今日元気ない?」


「……別に」


「うそ。絶対なんかある」


「……じゃあ、お前こそ、なんかあったか?」


咲良の箸がピタリと止まる。


「……どうして?そんなこと聞くの?」


「昨日、誰かに告白されたって、聞いた」


咲良は少しだけ、目を見開いた。

でもすぐに視線を落として、唐揚げをつつきながら答えた。


「うん。されたよ」


 やっぱり、事実だった。

 俺の中で何かがきしんだ。でも怒りじゃない。焦りでもない。

 否定して欲しかった。しかしそれは真実であった。

ただ——怖かった。


「そっか……」


「“保留にした”って話も、聞いた?」


「ああ」


「うん、それも本当。……ごめん、言わなくて」


「……別に、謝らなくていいよ。お前のことだから、ちゃんと考えてるんだろ」


その言葉が、精一杯だった。


本当は聞きたかった。「なんで返事しなかった?」って。

「なんで、俺を待っててくれてるの?」って。


でも聞く資格があるか分からなかった。

だって、俺はまだ——言えてないから。



 

******



 


放課後、咲良は今日も俺の隣を歩いていた。

その距離は、今までよりほんの少しだけ遠く感じた。


「ねえ直くん」


「……ん」


「告白って、どう思う?」


唐突な問いだった。

でも、きっとずっと考えてたんだろうな。

俺の出方を、咲良は待ってる。


「重い言葉だよな」


「うん」


「軽く言うやつもいるけど、俺は……好きって、簡単に言っちゃいけない気がする」


「……」


「だから、ちゃんと言うつもり。俺のタイミングで、ちゃんと」


咲良は何も言わなかった。

でも歩くスピードが少しだけ緩んで、肩が触れた。


その小さな接触に、少しだけ救われる。



 

*******



 


夜。


ベッドの上で、天井を見上げながら考えてた。


もし俺が明日、咲良に「好きだ」って言ったら——

安田との話は、すべて終わるかもしれない。


でも、それは“勝ち取り”じゃない。

咲良の心を“取り戻す”行為じゃない。


それじゃダメだ。


咲良が俺を好きでいてくれた、その気持ちに応えるには——。

俺もちゃんと、自分の足で、咲良に追いつかないと。


“他の男に取られそうだから”なんて理由で焦って言う「好き」なんて、きっと咲良には響かない。


俺は、俺自身の気持ちで咲良に向かいたい。


それが、「お前の“好き”に、ちゃんと追いつきたい」ってことなんだ。


そう思ったら、少しだけ怖さが消えた。


明日、咲良とちゃんと話そう。

保留の答えも、俺の本音も——全部、ぶつけにいこう。

 

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