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鳥籠  作者: すずかけあおい


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2/2

鳥籠②

 規則正しい寝息が聞こえるので身体の向きを変えて直純のほうを向く。綺麗な寝顔。そっと頬に触れてみるけれど起きない。これくらいじゃ起きないのは知っている。熟睡状態になったらそう簡単に直純は目を覚まさない。唇をふにふにと指の腹でいじると眉間に皺が寄って思わず口元が緩む。

 ふと悪戯心が起こり、直純のうなじを撫でる。すりすりと何回か撫でていたら、もうちょっと悪戯をしてみたくなった。


「……」


 直純の首のうしろ、本人からは見えず、周りの人からはよく見える位置の肌に唇を寄せて軽く吸い上げる。


「……ん……」


 少し甘い声が直純の口から漏れて、ぞくりとする。綺麗なうなじについた、俺の独占欲の証。赤い跡を指でなぞると高揚感に包まれた。


 俺の直純――。


 また直純の腕の中に戻り、目を閉じる。俺を捕まえたがる不思議な男。こんな俺を求めてくれるなんて信じられない。

 高校が同じだったけど、言葉を交わしたことはなかった。いつでも人に囲まれている直純と、休み時間には一人で窓の外を見ている俺では接点なんてあるはずがない。偶然大学が同じで、講義のときに隣の席になったのがきっかけで直純と話すようになり、思ったより物事に対する価値観が似ていて話しやすかったのですぐに仲良くなった。そこからは自然の流れのように付き合い、夏に一緒に暮らし始めて今に至る。

 直純はただひたすら俺だけを見ている。名前のとおり、素直でまっすぐで純粋で――俺にはときどき眩しすぎる。


「翼を閉じ込めたいな」


 冗談交じりに言う直純の言葉が本心なのも知っているけれど、それ以上に俺は直純をどこにも行かせたくない。狭い鳥籠に二人きり、決して離れずにいたい。


「直純……」


 愛してるよ……誰よりも、なによりも。

 そっと瞼を下ろした。




 俺がバイトに行くのを見送ってくれる直純のうなじには、俺の独占欲の証がしっかり浮かんでいる。思わず口元が緩みそうになるのを堪えて部屋を出た。

 直純は今日、バイトの予定はない。買い物には行くかな、誰かに会うかもしれない。俺のものだという証をつけた直純を自慢したい。


「翼!」


 駅に向かっていると、背後から聞き慣れた声に名前を呼ばれて振り返る。直純だ。


「どうしたの?」

「俺も買い物に行こうと思って」

「そう……」


 二人で並んで歩きながら直純のうなじをちらりと見ると、きちんとそれは見えている。


「翼」

「なに?」

「あの……」

「?」


 直純が立ち止まり、なにか言いたそうに俺を見る。もしかして気づいた? でも見えないところだし……。


「どうしたの?」

「……」


 俺のうしろを見て、それから自分の足元を見て、直純は首を横に振った。


「……なんでもない」

「……?」


 なんだろう? 一応うしろを見てみるけれど、なにもない。背中になにかついているんだろうか、と考えて背中に腕を回してみるけれどわからない。


「いや、本当になんでもないから」

「そう?」

「うん」


 また二人で歩き出すけれど、直純はどこか上の空というか、俺の背後ばかり気にしている。


「本当にどうしたの?」

「……うん」


 また立ち止まった直純がうしろを見て前を見る。するとうなじが見えて赤い跡が目に映り、とくん、と心臓が高鳴る。


「あの、さ……」

「うん」


 なにか言おうとする直純を見上げる。直純が自分のうなじを撫でる仕草にどきりとしてしまう。キスマークは触れたところでわからないけれど、気づかれるのではないかと思った。直純はまた俺の背後を見て、それから大きく息を吐く。


「……ちょっと待ってて」

「え?」


 どこかに走って行ってしまうのを疑問符を浮かべながら見つめ、ため息。なんだかとても悪いことをしている気分だ、と俺の独占欲を直純の肌に勝手に残したことを後悔し始める。本人がわかっているならいいし、そういう状況でならキスマークを残すことはよくある。でも今回は本人が知らない。それを人に見えるところに残し、なにも言わないのはとても……なんていうか、悪いことというか、罪のような気がしてきた。万が一誰かになにか言われたら、直純が嫌な思いをするのでは――。

 そんなことを考えていたら直純が戻ってきた。


「翼……ごめん」

「直純?」


 戻ってきた直純は小さい箱を持っている。どこに行っていたんだろう。箱を開けて中身を取り出し、俺に差し出す。絆創膏。


「……?」


 なんで絆創膏? 直純を見ると、悪さをした後の子どものような顔で俺を見ている。


「ごめん……」


 そう言って自分のうなじをとんとんと指で叩いて示すので、俺も自分のうなじに触れる。どういうこと? そこには、俺がつけた醜い独占欲が残っていて――――まさか。


「鏡……ある?」

「ない、けど……つけた」


 俺のうしろに回り、うなじに絆創膏を貼ってくれて頬が一気に熱くなった。それは、直純の独占欲だろうか。俺の気持ちと同じくらいの強さで、直純もつけてくれたんだろうか。


「ごめん」

「……」

「翼?」


 謝る直純の手から箱を取り、絆創膏を一枚取り出す。俺も直純の背後に回ってうなじに絆創膏を貼る。


「俺も、ごめん」

「……え?」


 ぽかんとしている直純に頭を下げる。二人で同じことをしていたなんて、知らなかったし気づかなかった。


「……いつ?」

「さっき、直純が寝てるとき。直純は?」

「俺も。さっき翼が寝てるとき」


 おかしくて二人で笑い、そのまま手を繋いで歩き出す。なにやってんだか。


「翼、今夜はなに食べたい?」

「お肉」

「いいね。極厚ステーキ買っておくよ」


 直純は駅前のスーパーに、俺はバイトへ。バイトが終わったら、一秒でも早く直純の腕の中に帰りたい。




END

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