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鳥籠  作者: すずかけあおい


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鳥籠①

 眠る(つばさ)を背中から包み込むように抱きしめる。まだ少し汗ばむ身体が密着する違和感が逆に心地よくて、このまま一つに溶けてしまいたい。うなじにキスをすると翼がぴくりと震えた。

 かわいい翼……抱いても抱いても足りない。血液の一滴、細胞の一つまで俺のものにしたいのに、翼は目が覚めれば俺の腕から出て自分の足で立ち、自分の生活をしてしまう。

 ――あたり前か。どんなに愛しても俺と翼は別の人間だから、ただ二人寄り添い合っているだけでいられるわけではない。大学にも行かないといけないし、食事だってしないといけない。

 でも、できるなら、翼が俺の腕の中――この鳥籠の中でだけ生きてくれたらと願ってしまう。俺の世界に翼しかいなくて、翼の世界に俺しかいない。そんな至高の頂にまで昇れたなら――と想像しては打ち消す。俺は翼を閉じ込めたいわけではないけれど閉じ込めたい。翼が自由でいるのが嬉しいけれど切ない。複雑な思いを心の奥に重石をつけて沈める。浮かび上がってこないように。


「……ん……」


 翼が身体を捩るので、腕の力を少しだけ緩める。起きただろうか。起きて俺を見て欲しくてもう一回うなじにキスをすると、「くすぐったい」と声が聞こえた。


「……また抱きしめてる」

「翼が逃げないように」

「ほんと、直純(なおずみ)ってあぶない」


 あぶない、と言いながら腕の中から逃げない翼がますます愛しい。起きたのなら、と抱く腕に遠慮なくぎゅっと力をこめると翼が笑い出す。


「俺なんかを捕まえたがるのは直純だけ」

「それでいい。誰かに盗られても困るから」

「こんなの盗ろうと思う人もいないって」


 翼は自分を平凡だ、地味だと言うけれど、この世に翼ほど魅力的な人間は存在しない。誰よりもかわいくて、優しくて、心が温かい。俺の心を溶かしてくれるのは翼だけ。翼に出会うまで、周囲に人はいても俺の心はずっと冷えていた。探し続けていた温もり。


「不安になるときがあるよ。翼の気持ちが俺から離れて行く日がくるんじゃないかって……」


 翼といると強くなれるけれど、同時にどんどん弱くなっていく。失うことが怖くなっていく。俺のすることで気づかず翼を傷つけてしまうことも怖い。どんなに気持ちを伝えても、キスを交わしても、肌を重ねても、翼と完全に一つにはなれないから恐怖がつきまとう。

 翼が俺のほうに身体の向きを変える。


「大丈夫。俺が帰るのはいつも直純の腕の中だよ」

「……どこか行くつもり?」

「今日バイト」

「……」


 時計を見ると、まだ時間は大丈夫だ。唇を重ね、舌を絡めて甘い吐息を呑み込む。唇を離した翼が俺の顔をじっと見つめてくる。


「せっかくの美形が台無し」

「……?」

「すごく寂しそうな顔してる」


 翼を抱きしめる。腕の中に……鳥籠の中に閉じ込めて出したくない。俺の歪んだ愛情をまっすぐすべて受け止めてくれる翼の大きさに救われる。


「直純、もっと強く抱きしめて」

「こう?」

「もっと」


 きつく抱きしめると、翼がふぅ、と息を漏らす。それがあまりに色っぽくてぞくりとした。


「大丈夫だよ、直純」

「うん、そうだね」

「大丈夫」


 翼が優しく口づけてくれる。その優しいキスに心がほぐれていき、抱擁をといて翼の肩に軽く歯を立てる。


「食べたらおいしそう」

「食べたらなくなっちゃうよ」

「それは困る。でも、翼と一つになれるのは魅惑的だね」

「なんかやらしい」


 悪戯をするように足を絡めてくる翼がかわいくて、もう一回抱きしめる。こうやって翼は自然と鳥籠の中に戻ってくれる。そのことに俺がどれだけ安堵しているか、きっと翼は知らない。傷つけないように大切に抱きしめたいのに力の加減ができなくて困る。


「大丈夫。俺は絶対直純に戻るよ」

「そうだね」

「俺の帰る場所は直純だから……直純に溺れて離れられないから」

「うん……」


 澄んだ優しさに救われる。その愛に俺のほうが呑まれている。いつでも翼が帰れるように、俺は腕を広げて待とう。

 俺は、鳥籠。

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