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第八話 美

 「どんなとこに就職したの?」

というのが、彼女が私にした最初の質問だった。アイドルの妻についてや、その妻との出会いなどではなく、私にはそのような質問をされないというのはかなり新鮮な事だった。

彼女はスクリュードライバー、私はワイルドターキーのロックを飲んでいた。氷は球体に削られ、グラスを回しながら球体であることを保とうと試みたが、徐々にいびつな形になっていった。

 店内は電球色の明かりで黄色く照らされていて、なぜかブルーハーツだけが延々と流れていた。客は少なく、私たちの他に二組しかいなかった。中年の男女と、大学生くらいの男だ。彼らは、泥酔しているのか、音楽を聴いているのか、一言も話さなかった。

 「楽器を輸入する会社だよ。池袋にある。」

「そうなんだ。なんかすごそうだね。」

「普通だよ。三年目くらいまでは出張だらけだったけど、本社勤務になってからは会議に出ることと資料作りだけが仕事だ。」

 彼女は、埼玉の大学に行き、卒業後そのままその街で公務員をしていた。ただの大卒の地方公務員が、この身体をどのようにして手に入れたのか、私はそれだけを考え、高校時代の思い出話を続けながら彼女の身体を観察した。私は彼女の身体が作り物であろうことを、疑っていた。本当の美は、洗練された美術の中のみに存在している。美しく作られるから美しいのであって、美しくするという意思が働かずに自然発生したものが、人工物の美しさを越えられる想像がつかなかった。私は彼女の高校時代の身体を思い出し、今の彼女の身体と比べていた。背の高さは変わっていないと思った。おそらく、私よりも10センチは高く、今まで対面した事のある女性では、最も身長が高かった。メイクは薄く、その分顔のパーツが、何も変わっていないことはすぐにわかった。体重は増えただろうが、それはバスケットを辞めたからであって、不健康になった訳では無いだろう。大抵の人は学生時代よりも太るはずだし、スポーツをやっていた人なら尚更だろう。

今もジムなどで運動をしているのか、うっすらと筋肉がついているように思えた。足や首筋の脂肪から、それが読み取れた。胸は大きくなったように思えたが、学生時代も胸は大きい方であったことを思い出した。彼女に合ったサイズのセーラー服は無く、彼女は一人だけ、腹の部分から肌着が完全に露出していた。もちろんそれは色っぽいものではなく、部のシャツであったり、体育着であったりした。扇情的では無いものの、目を引くものがあった。サイズが足りないのは丈の長さだけではなく、胸も同様であった。

毎日バスケットをしていたなら、毎日スポーツ用のブラジャーを着けていただろう。それに第一に今より痩せていたのだと考えた。尻も大きくなっているように思ったが、整形したと言うほど劇的なものではないような気がした。タイトなワンピースが強調する曲線は、実に滑らかなものであった。整形してパッドを入れたような不自然さはなく、パンツのラインも浮いていなかった。したがって、尻の形は服の上からでも疑いようがないほど、認識できるものであった。にもかかわらず、私は彼女がどのような尻をしているのか、全く分からなかった。この尻も、尻以外の身体全体においても、私が今まで見たことのあるどの女の身体とも違っていて、どの身体よりも美しかった。

彼女の身体は、その性的な部分以外においても、完璧な美を備えていた。例えば指だ。彼女の指はスラリと長く、それでいて関節が骨ばっていることもなく、シワもなく乳児のような肌をしていた。その滑らかさは、ゴム手袋をしている歯科医の手を思わせた。この女はシリコンか何かでできた皮を被っているのかも知れないと思った。指輪はなかった。七分丈の袖の先には、指先に至るまで一つの毛穴も見つけることができなかった。

 私は自分の手を恥ずかしく思い、カウンター席の左側に座っている彼女から隠すために、左手をポケットに入れた。マニキュアは塗られていないものの、爪に光沢があることが明らかだった。白い半月と明るいピンクが互いを強調し、調和していた。


  部屋にはおそらくクイーンサイズであろうベッドと黒いソファがあった。

ベッドはフレームもシーツも、枕カバーまで真っ白だった。ソファはかなり大きいもので、複数人で来た人や喧嘩をしてしまったカップルが、一人はソファで寝られるようにしているのかという推測をした。

 白い照明が薄いピンク色の壁を照らしている。薄型の大きなテレビがあり、天井にはプロジェクターが付いている。枕元にはテレビやルームサービスについてのパンフレットと、電動マッサージの器具がある。枕元の壁には縦長の楕円形の鏡があり、彼女がテレビを見ているのが見えた。

 彼女はテレビを付け、チャンネルの一覧を見ている。私はジャケットを脱ぎ、ネクタイを外して投げる様にソファの上に置いた。小銭を入れ、ビールを取り出し、彼女にも渡した。シャツのボタンを上から2つ目まで開け、ベッドに座っている彼女の隣に腰掛け、ビールを飲んだ。彼女はビールをひと口飲み、ふっと短く息を吐いて、ビールをテーブルの上に置いた。彼女が座っていた箇所には、尻の形にくぼみができた。そのくぼみはマットレスが低反発のものだったからなのか、しばらくの間尻の形をとどめ続けていて、それが私を欲情させた。

 テーブルにビールを置く時、テーブルの低さと彼女の背の高さあるいは足の長さによって、彼女は尻を突き出すような姿勢になった。私がベッドについた尻の跡から、彼女に視線を移したことによって、その突き出された尻は私の目の前に現れた。

 うっすらと下着の装飾が伺えた。ビールを置くと、彼女は何も言わず、おもむろに右手で左の袖を掴んで右手を服から抜いた。そして服の中でゴソゴソと手を動かし、左手も衣服から抜いた。彼女は振り返ってこちらを見た。両手は胸の膨らみの下に組まれている。私は、彼女のワンピースのウエストの部分を掴み、左右に広げ、ある程度の余裕を持たせたまま、胸の膨らみの上に上げようとした。しかしながら、乳房はその障害となった。ワンピースを掴んでいた私の指の背の部分は、ニットの生地とブラジャー越しに彼女の乳房に触れた。それは私の力を逃がすように、凹んでいながら、ワンピースを脱がせる行為に対して障害となった。ウエストの部分を胸の膨らみの上にあげ、そのまま頭からワンピースを脱がせた。私がワンピースを上にあげるにつれ、彼女の足が露出していき、彼女は下着と真珠のネックレスのみを身にまとった状態で、私の前に姿を現した。ストッキングは履いていなかった。

 彼女は私に背を向け、テーブルに置いたビールに手を伸ばした。尻の美しさは、下着によって強調されていた。背骨の凹みに下着の装飾の蝶があった。下着はやや特殊な形をしていた。まずゴムの部分があり、尻の割れ目に至るまで、逆三角形の空間があった。その空間があることによって、ゴムの部分を除けば、下着はYの字であった。黒のレースは、彼女の白い肌を際立たせていた。蝶は親指の第一関節程の大きさだった。私はその親指でその蝶に触れた後、逆三角の頂点に向かって垂直に親指をおろし、尻の割れ目に沿っている黒いレースを辿った。

 彼女はおもむろにこちらを振り返った。ビールを飲んでいたのに、彼女の口からはまるでフルーツのような甘い匂いが感じられた。勃起した性器が彼女の太ももにあたった。彼女は唇を私の首元に這わせながら、私のシャツのボタンを一つずつ外し、ベルトのバックルを外し、チャックを下ろした。私は彼女に抱きつき、後ろ手にブラジャーのホックを外した。


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