戦闘配置
森の前に広がる平原に対戦車地雷などの地雷の敷設を指示している私のところに、森の中から曹長が駆け寄って来て声を掛けて来た。
「大尉、チョット宜しいですか?」
「どうした?」
「補充兵が送られてきたんですが、全員子供なんですよ」
「なに?」
私が率いている中隊は、SSと陸軍に空軍の将兵で構成された臨時編成の部隊。
前線で負傷しベルリンの病院で療養してたらそこから引っ張り出され、此処に配置された。
引き連れている兵士の数は100人弱、約三分の二は気心知れてる所属連隊は違ったが同じ師団の戦友たちで、残りは同じ病院で私たちと同じように療養していた陸軍の歩兵師団や空軍の降下猟兵師団の者たち。
100人弱では中隊編成に少し足りないので、ダメ元で兵士の増員を具申していた。
「チョット見てもらえますか?」
私は曹長と共に補充兵の下に向かう。
森の中の開けたところに12〜3人の子供たちがいた。
初々しい童顔の少年たちが補充兵だと?
私の姿を見て、1番身体が大きい少年が斜め前に右手を突き出す敬礼をした。
私はその少年に聞いた。
「お前、歳幾つだ?」
「はい、高級中隊指揮官殿、此の中で最年長の14歳です」
答えた少年の隣にいる小柄な少年にも問う。
「お前は?」
「はい、高級中隊指揮官殿、10歳です」
なんてこった、我が祖国ドイツは、子供を前線に寄越さなければならないほど兵力が逼迫してるのか?
「帰れ」
「「「「え?」」」」
「帰れと言ったんだ!」
最初に敬礼して来た少年が反論する。
「私たちは全員、敵を殺す訓練を終えてます」
「だからなんだ? 此処は戦場で訓練とは別物なんだぞ、帰れ!」
「そ、そんな……」
尚も反論しようとする少年を頬をひっぱたき、隣の少年の尻を蹴っ飛ばしながら曹長に命令した。
「此のガキ共を追い返せ!」
曹長は所持しているMP40を振り上げて少年たちを威嚇し追い散らす。
暫くして曹長が戻って来た。
「アレで良かったのですか?」
「あぁ、こんな負け戦で子供を戦場に立たせたら、目覚めが悪くなるから良いんだよ」
曹長と連れ立って先ほどの場所に戻る。
戻ると、偵察に出ていた軍曹が近寄って来て、コルク栓を抜いたワインの瓶を2本差し出して来た。
「それは?」
差し出されたワインの瓶を曹長と1本ずつ受け取りながら聞く。
「此の先にあった無人の町の商店の地下に隠されていたんです。
イワンのクソ共に飲まれるよりはと思い頂いてきました」
「フム、良い判断だ、私たちに1本ずつ渡して兵士たちの分は足りたのか?」
「約100本ありましたので……」
「なら良いさ」
そう答えワインをラッパ飲みする。
ワインをラッパ飲みしている私の耳が、東部戦線で聞き慣れたソ連軍の戦車のエンジン音を微かに捉えた。
曹長と顔を見合わせてからワインの瓶を投げ捨て、大声で指示を出す。
「敵が来たぞー! 戦闘配置につけー!」