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新しい生活様式

 その後私達は地下にある霊安室に行く様に言われた。

 そこにはお母さんとミル、そしてナルママが横たわっていると言われたが、私たち3人は入れてもらえず、お父さんとガオパパだけが入って行った。

 

 何故なら「交通事故で亡くなったので生前の綺麗なままの体ではなく、傷もたくさんあるし、欠損もあるから、子供にその姿を見せるのは酷だよ」と霊安室の係の人が戸口の前で蓋をする様に立ったまんま、お父さんたちに言ったからだ。

 それを聞いて「お前たちはここにいなさい」とガオパパに言われ、大人だけが入室した。


 後で聞いたんだけど、漬物を作るための野菜を一度に大量に購入すれば安く買える期間限定の安売りを聞きつけ、お母さんとナルママでバスを利用して大規模商業店に買い出しに行く所だったらしい。

 その行きのバスが事故を起こして、大勢の負傷者を出したらしい。

 あの病院の通路に居た殆どの人は、その事故にあった人たちの家族とのこと。


 普段なら店内か居住スペースに置いてあるベビーベッドでお留守番するはずのミルまで背中に負ぶって行っていたのが仇になった。

 大量の野菜を買うのだから背中に赤ちゃんを背負って行くのは大変だっただろうに、今日はたまたまお父さんの方も町内会の事でやらなければならない事があったので店を空けていたのだ。そうなると、赤ちゃんだけを置いて行くわけにもいかず、お母さんが負ぶって連れて行ったそうだ。


 それからの私の記憶は少し曖昧だ。

 夜中にお父さんが居間で声を殺して泣いているのを何度か見た。

 近所の噂スズメのおばさんたちが言うには、お葬式はバス会社が被害者全員に対し合同で開いてくれたって知ったよ。

 大人も子供も大勢参加していた。もちろん私も参加していたはず。

 でも、私はお父さんの憔悴しきった顔しか覚えてない。

 式にはガオ、ナル、ガオパパも出席していたはずなのに、覚えていないのだ。

 それくらい普通ではないお父さんの様子を見て、不安を覚えたのだと思う。


 お母さんたちがお星さまになってから数日間、お父さんはずっとお店を閉めた。

 その間お父さんは家でぼーっとしてた。

 ガオパパが時折ウチに来てくれ、父さんの様子を心配してくれた。

 食事は料理を作った事もないガオパパが自分ところとウチの分、2軒分を作ってくれた。

 正直、生煮えだったり、濃い味だったりで美味しくなかったが、そんな事よりもお父さんがこれからどうなるかの方が心配だった。


「タオさん。気持ちは分かる。俺も全く同じ立場だからね。でも、俺たちは面倒をみなくてはいけない子供を抱えているんだよ。いつまでも呆けていちゃぁいけないよ」

 ガオパパがそう言った時、初めてお父さんは私をはっと見つめた。


「タマ、ごめんよ。お父さんは腑抜けてた。明日からはちゃんと食事も用意する。不甲斐ないお父さんを許しておくれ」

 お父さんはそう言って、私をひしっと抱きしめた。

「お父さん、私いい子にするから、もう泣かないで」

 私には死と言うものが良く分からなかった。

 お母さんたちが家に居ない事は不思議ではあったが、お父さんの状態が普通でない方に気を取られていた。


 だけど、お父さんが落ち着いて私の食事を作ってくれたり、お店も開ける様になると、徐々にお母さんやミルが居ない事が心に響いて来た。

 寂しい。

 何でいてくれないの?


 でも、お母さんたちが亡くなって直ぐのお父さんを見ているから、私は声に出してそう言う事が出来なかった。

 そんな事を言って、またお父さんがボーっとしているだけになる事が怖かったのだ。


 でも、小さな子供の胸の中にいつまでも重い塊は留めておけなくて、夜中一旦寝た後、私は夜泣きをする様になった。

 それこそミルが夜中に泣き出したかの様に・・・・。


 その様子を心配したお父さんは、ウチの居間でガオパパに相談した。

 その横では私たち3人がガオの積み木で遊んでいた。

 お父さんたちは私たちが聞き耳を立てているとは思ってもいない様だ。

 だから、私たち3人は特等席でお父さんたちの話を聞いていた。

 

「この子がウチのや妹を思って、夜泣きをする様になってしまって・・・・。どうしたら良いのか。こういう事って医者の所に連れて行ったら治るものなのか?ねぇ、ヤマさん、そっちは子供が2人もいるが、大丈夫かい?」

「ウチは2人だからお互いに支え合っているのか大丈夫なんだけれども、食事とか洗濯とか、中々手が回らなくて・・・・。ウチは心の面と言うよりは、生活面の方で問題が山積みだよ」


 工場で働いているオジサンに、家事全般も熟せというのは難しい話だった。


「ヤマさん。食事くらいなら、私がタマに毎日作っているので、お宅の分まで作れるよ」

「本当かっ!?」

 ガオパパは必死になって、身を乗り出した。

「タオさん、それならウチの子たちもタマちゃんと一緒の部屋で寝させれば、夜泣きも納まるかもしれないよ」と言う話になり、私の部屋のベッドは子供3人が寝れるくらい大きなベッドになった。


 毎朝、毎晩、お父さんは5人分の食事を作り、全員がウチの居間で食べるのが普通になった。

 私の夜泣きは3人で寝始めて数日で止まった。

 何が功を奏したのかは分からないんだけれどね。

 そして数週間後にはガオもナルも本来の自分の部屋で寝る様になったので、ウチの居住スペースは夜になるとお父さんと私の2人だけになったが、日中はガオもナルも、それにパフやミソも来てワチャワチャしているので、寂しさが段々と薄れて行った。


 口の悪い常連さんの中にはお父さんに、ここは幼稚園に早変わりした様だなんて言ってた。

 噂スズメのおばさんの中にはお父さんやガオパパにお見合い話を持って来る強者もいたが、二人とも強固に断っていた。

 なんだか下手に女房がいるより今の方が良いとかなんとか言ってたなぁ。

 大丈夫か?お父さんズ!

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