続く流れ(ガル視点)
ナル叔父さんは母さんが亡くなってから1年と経たずに鬼籍に入った。
スポーツジムを複数抱えていたので人一倍健康には気を使っていたはずなのに、大きな病気にも罹っていなかったのに何故?
段々と元気がなくなって、気付いたらもうガタっと力が抜けていて、ガンになったと思ったらアッと言う間に逝ってしまった。
お爺ちゃんたちはまた悲嘆に暮れた。
僕も安心して寄り掛かれる人が居なくなった様に感じて、寂しさと不安がどっと被さって来た感じだ。
お爺ちゃんたちは母さんが亡くなった辺りから、急に老け込んでしまい、礫里地区へ顔を出す度に体が一回りも二回りも小さくシワシワになっていくのが目に見えて、とっても不安だ。
年を取ったのだと言ってしまえばそれまでなんだけれど、一緒に住んでいないからこそ、偶に見る祖父たちの老いは顕著で、いつまで一緒に居られるのかという大きな時計が僕たちの頭の上にある様な、そんな切羽詰まった気分にさせられる。
勿論、しばらく会話をすればそんな気分は霧散していくのだが、やっぱり老いは隠せない。
それにしても父さんは亡くなる前、母さんを置いて行く事を心配し、亡くなったら亡くなったで、力づくで母さんをあの世に掻っ攫って行った様に見えた。元々父さんの母さんへの執着は異常レベルだったからな。大人になった今だと良く分かるよ、父さんの異常さが。
突飛な考え方だと言う事は自分でも分かるが、それ程、母さんの死はあっけなく、何かの力でグンと連れて行かれた様な気がした。父さんが母さんと離れていたくなくて連れって行った感じだ。
ナル叔父さんもそれからアッと言う間だったなぁ。
年寄り夫婦で妻が先に逝くと、夫もすぐに逝くっていう感じだったなぁ。
結局、あの二人は結婚しなかったのにね。
「あなた。お弁当を忘れないでね」
妻が母さん譲りの弁当を用意してくれている。子供が生まれてから専業主婦になったってのもあるかも。
仕事の会食もあるから毎日ではないけれど、「お弁当を作るくらいしか、やってあげる事がないから」といつも弁当を作ってくれていた母さんを真似て、母さんの料理を入れてくれる。
もちろん母さん程美味しくは出来ていないんだけれど、それなりに美味しいし、一生懸命作ってくれている気持ちが嬉しいから、いつも残さず食べる様にしている。
ミルもそろそろ幼稚園入園が目前で、すくすく育っていて、まだ家に居るくせに、「パァパと同じ!」と言って、自分にも弁当を作る様に妻におねだりしている。
そう言う所が本当にカワイイ。
それにしても母さんと結婚できなかった事を最後まで悔やんでいたナル叔父さん。
母さんと結婚しなくてもモテモテのハズなのに、一度も結婚しなかったなぁ。
隠し子が居るとも聞いていないし、叔父さんの血を引く子供がいないのは寂しいなぁ。
僕もミルが出来てからだけど、子供って言うのがどれくらい力を与えてくれるのか漸く知る事が出来た。
お爺ちゃんから母さんへ、母さんから僕へ、僕からミルへと流れが続いている事に感謝だよ。
ナル叔父さんは他の事ではスパっと物事を決めて有言実行の人だったから、恋愛にあれ程臆病だとは思わなかったなぁ。
母さんに「結婚しよう」の一言が言えなかったんだものなぁ。
それにしても母さんは幸せだよ。
幼馴染から求婚され、請われ、大事にされ。
良い人生だったんじゃないかなぁ。
以前にそんな事をお爺ちゃんに言ってみたら、「うんうん。あの子はお山の大将で、幼馴染全員を尻に敷いていたなぁ」と懐かしそうな目をして、母さんたちの子供の頃の話をしてくれた。
僕は母さんも父さんも満足な人生を送れたと思う。
どっちも最後の時の表情は穏やかだったしな。
母さん、僕は爺ちゃんたちが長生きできる様にこれからもしょっちゅう様子見をしに行くし、妻も大事にするし、ミルも健康に育つ様に家族を守るよ。
だから、あっちから僕たちを見守ってくれな。
そう心の中で独り言ちすると、どこからか不意に花の香が漂って来た。
えっ?急に強い花の香?これはもしや母さんの返事?見守ってくれてるって返事?
ちょっと鳥肌が立った。
でもその後直ぐ、妻が洗面台で水切りした綺麗なヤマユリを花瓶に入れて僕の後ろを通り、居間へ運んで行った。
「ぶふーっ!」
何んなん?このタイミング。壮大な肩透かし?
母さん関係では良くこんな感じだったなぁ。らしいっつ~か、最後までしんみりとならないのが母さんだよな。
母さんはあっちでもみんなを尻に敷いて、父さんやナル叔父さん、母さんの最初の夫さんも一緒に、今頃みんなあっちで楽しくワイワイやっているんだろうなぁ。
僕は明日にでも「じいじ、ちゅき~♡」と言うミルと妻を連れて礫里地区へ様子見に行ってみるかぁ。
こっちは僕に任せてくれよ、母さん。
何となくだけど体がほんわかと温かくなり、今度は本当に母さんが応えてくれた気がした。
今回で最終回です。
今までどうもありがとうございました。
礫里地区、行ってみたいなぁと思いながら書いた作品でした。
今の画素が多いくっきりすっきりした画像ではなく、境界線がボンヤリしている古い映像の様な、そんなテイストの作品を目指しました。そんな雰囲気がみなさんに伝わって、且つ楽しんで頂けたなら本望です。
読専だったのが書き始めて意外にも嵌ってしまい、試行錯誤しながらいくつか作品を書いております。
別の作品でもお会いできたら嬉しいです。
本作品を最後まで読んで下さり、ありがとうございました。またどこかで~。