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家族

「お父さん、そろそろ御節を並べても良い?」

「ああ、並べておいてくれ。お屠蘇の準備も頼む」

「は~い」


 実家の居間で家族でお正月を祝う為に、お父さんと一緒に作った御節のお重を並べ、取り皿やお屠蘇の準備をしている時に、私の部屋からガオが起きて来た。

「明けましておめでとう、タァ~マ、義父さん」

「おめでとう、ガオ。2階のお父さんを呼んで来て~」

「明けましておめでとう。今年も良い年でありますように」

「義父さんにとっても良い年でありますように。上には歯磨きが終ったら直ぐに行くよ」

 

 ガオはニコニコと洗面所の方へ行き、その後2階の実家へガオパパを呼びに行った。


 私たちの結婚は二人の父親からはちゃんと認めてもらえた。

 特にガオパパはとても喜んだ。まぁ、教会の2人だけの式に呼んでもらえなかった事に関しては、思い出した様に何度も文句を言われたけどね。


 結婚の報告に礫里地区に顔を出した時、「ウチのガオがタマちゃんを切望していたの知っていたからね。これで俺も安心したよ」といたずらっぽい笑顔で「娘よ~」とちょっとふざけてハグをしてくれたのは今でも忘れられない。

 ガオパパってこういうノリだったっけ?


 お父さんは私の中にまだミソを懐かしんでいる気持ちがある事を知っているので、ちょっと複雑な顔だったけれど、帰国してからのガオの事も見ていたので受け入れてくれたみたいだ。

 ガオはお父さんにとっても息子の様なものだものね。


 パフも「やっぱりお前らくっついたかぁ~」と特に問題なく受け入れてくれた。

 でも一人だけ受入てくれなかったのはナルだった。

 今年のお正月もナルは実家に帰って来ない。

 私たち夫婦が実家に戻る時は来ないのだ。

 もう何年顔を見てないだろうか?

 ナルの家は首都にあるから私たちと同じ町に住んでいるし、実家だって同じなのにね。


「ママ!パパがまだお爺ちゃんを連れて来てないよ。僕が呼びに行った方が良い?」

 そう、ガオとは直ぐに子供が出来たのだ。

 ミソとはなかなか子供が出来なかったので、私が子供を持つ事は無いと思っていただけに、生まれてきてくれた時はとっても嬉しかった。未だに私たち夫婦には息子一人しかいないけれど、もう安全に子供を産める年じゃなくなったので、多分子供はこの子一人だけになると思う。

「ガル、直ぐに降りてくると思うから、あなたも顔をちゃんと洗って来てね」

「は~い」


 ガルはガオの小さい時そっくりだ。

 髪や目の色もガオと同じだし、顔の良さも受け継いでいるけど、背だけは当時のガオよりも幾分高い。

 ガオ自身が当時から背の高い方だったけれど、最近の子供は背が高くなってきているので、ガルは当時のガオより背が高い。


 ガオは小さな頃から実母の事とかでどこか影のある子だったけれど、私と結婚したからか、はたまた二人の間に子供が出来たからか、ガオは落ち着いたと言うか、とっても明るくなった。

 ガルはそんな明るくなったガオに比べても突き抜けて明るい子だ。

 天真爛漫とはガルのためにある言葉の様だ。


 ガオの会社は国内でも有数の会社になり、ソノマ国の支店も順調らしく、「ワールドワイドだろう?」って言うのがガオがガルに言っている口癖の様なものだ。だからガルも良くこの決まり文句を使う。

 ガオの影響でガルは幼い頃からソノマ国の言語を勉強している。

 頭は私に似なかった様で、成績も優秀だ。ちょっとほっとしたよ。


 今の心配はソノマ国に居た時にガオ自身が雑に扱っていたガオの体だ。

 ここ数年、時々入院している。

 あ、精神病院ではなく一般病棟だよ、もちろん。

 独身時代の不摂生が祟り風邪をひきやすいのだ。

 一旦風邪をひくと長引くし、重症化してしまうので、私もガオの食事や睡眠時間にはとても気を使っている。

 それでも良く風邪をひいてしまうのだ。


 冬だけじゃなく夏風邪もひくので、気を抜ける時が無いのだけれど、結婚してからガオはいつも穏やかな笑みを自然と浮かべているので、私はガオと一緒になって良かったと心の底から思っている。

 大事な大事な息子の父親でもあるし、小さな時から一緒の幼馴染だし、弟の様に思っていたし、兄の様に私の面倒を見てくれるし、ガオは私にとって大事な大事な人だ。

 でも、やっぱり心の中にはミソが住んでいるスペースがある。

 それは私が死ぬまでミソだけのためのスペースとなるんだろう。

 もちろん私の心の中にはガオだけのためのスペースもあるよ。

 夫としてのガオがそこに住んでいるんだよ。


 それをガオに言う事は出来ないけれど、薄々感づいてはいるんだと思う。

 私のワードローブの奥にミソのシャツが1枚だけ吊ってあるのを見ても何も言わなかったからね。

 まぁ、その後しばらくは手が付けられないくらい甘えん坊になったけれど、子供が居たから甘えん坊病は二人の寝室の中だけに留めてくれていたので大事には至らなかった。

 そんな風になりながらも、「あのシャツを捨ててくれ」とは言って来なかったし、こっそりシャツを捨てたり隠したりすることもなかった。

 ガオなりの私への思いやりなんだと思う。

 これでナルが私を許してくれたら何の問題も無いんだけれど、そういう訳にはいかないのが世の常よね。

 はぁ~。

 


「おお!ガル、起きたのか?明けましておめでとう!」

 お雑煮を載せたお盆を持ったお父さんが台所から出て来た所でガルと行き会ったのだろう。

 お父さんは初孫にデレデレなのだ。

 それはガオパパもだけれどね。


 こうやって家族団らんでみんな居るのに、ナルが居ないのがとても寂しい。

 恐らく、私がミソの死後、1年も待たずガオと再婚したのが気に入らないのだろう。

 ガルも直ぐに生まれちゃったしね。

 私がミソを蔑ろにしていると怒っているのだろう。

 パフやミソと最初に友達になったのはナルだったからね。

 思い入れがあるんだと思う。


 私たち家族が実家に戻るとナルが戻って来ないので、お正月への帰省は隔年にしている。

 ナルがちゃんと実家に帰って、お父さんたちに顔を見せる事が出来る様にだ。

 血が繋がらない家族しかいないこの家に、ナルがちゃんと帰って来れますようにと毎年祈る思いだ。

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