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ソノマ国でのガオ

「僕が壊れたのはタァ~マと知り合う前からだよ。そんな僕が落ち着いたのはタァ~マが常に横に居てくれたからなんだ。だから、タァ~マとずっと一緒にいるための手段としてソノマ国で知識や技術を学び人脈を作りに行ったのに、その間にミソと結婚して僕の手の届かないところに永遠に行ってしまったと思ったんだ。色んな事が僕の中で再び壊れたんだ・・・・」

「ガオ・・・・」

「事業の方はパリが上手い事やってくれていたので衣食住に困る事は無かったけれど、僕の心からは常に血が流れていたんだ。だからタァ~マに繋がる人と連絡を取る事さえ苦痛だった。父さんとだけは連絡が途切れてしまうと、無理やり国に連れ戻されるかもしれないと思ったので、要所要所で連絡は取っていたけどね・・・・」


 ガオが首都に購入した億ションのペントハウス、その強化ガラスに囲まれた角部屋を家族専用の居間として使っており、そこに据えられた柔らかい皮で覆われているソファに私たち二人は並んで座っている。

 そこから見える風景は摩天楼だ。

 昔の話をしつつ、目の前にあるのは近未来的な風景。ある意味シュールだ。


「母親が僕の全てを常に否定している中、僕にはそれに対抗する方法が分からなかった。息をひそめ死んだフリをしながら生きるくらいしかやり様が無かった。そこへタァ~マが現れて僕の世界に色が差したんだ。それまで白黒な世界だったのにね。で、母親に殺されかけて、母親が居なくなり、タァ~マとタァ~マパパが常に一緒に居てくれる様になって、漸く生きよう!と思えたんだ。数年のソノマ国での滞在も我慢できると思っていたんだ。でも、ソノマ国で母親と彼女が、再婚相手との間に設けた子供たちと会うとは思ってもみなかったんだ・・・・」

「え?どういうこと?」


「アイツは再婚していて、相手はソノマ国の人だったんだ。僕がソノマ国入りする前から僕の動向を人に探らせていたみたいだ。ソノマ国で働き始めたらすぐに会いに来た。何度も何度も色んな理由を付けて会わない様にしていたんだけど、仕事場と住んでいる所がバレていたから、引っ越ししたんだけど、職場に来られたらそれまでだったよ」

「ガオ・・・・」

「アイツは僕にアイツの新しい子供たちと兄妹だから仲良くする様になんて言って来たけど、無視をしてたんだ。でも、ある日、僕のアパートの前にアイツの娘2人を置いて行ったんだ。半分ソノマ人の血が混じっていて、外見も似たところが全く無くて全然親しみを感じ無いのに、妹たちだって言われても親しみなんて沸くはずもないし、そうでなくてもあの女の子供ってだけで拒否反応が出てしまったのは自分でもしょうがないと思ったんだよね。で、直ぐに帰ってもらおうと、その子たちから電話番号や住所を聞いてアイツに連絡しようとしたんだけれど、旅行をしていたみたいで連絡が取れなかったんだ。それから、アイツは子守りが必要な時は僕のアパートの前に娘たちを置いて行く様になって、何かと連絡して来る様になって、僕の感情はまたぐちゃぐちゃになったよ。でも、タァ~マと一緒になる事だけを夢見て歯を食いしばっていたところに、ミソとの知らせが来たんだ」


 ガオは伏目のまま、出来るだけ感情を見せない様に話している心算なのだろうけれど、肩の辺りにすごく力が入っていて、瞬きの回数が尋常ではなくなっている。

「ガオ・・・・」

 家族だと思っているガオをこんな状態で放置等出来る訳がない。

 思わず膝の上で固く握っている拳を優しく手で包んだ。


「タァ~マ」

 漸くガオは顔を上げ、私の顔を覗いて来る。

「その頃、僕はもう自分の会社を立ち上げ、ソノマ国でも新興の会社として結構有名になっていたんだ。でも、僕が壊れてしまって母親のせいで仕事なんて出来なかった・・・・。その間もパリが会社のあれやこれやをやってくれていたんだ。パリは元々自分の会社を持っていたんだけど、僕の会社に入る前に倒産しちゃったんだって。で、僕がパリの亡くなった弟と似た雰囲気だったから、放っておけなかったって言ってた。で、段々と僕は仕事に復帰したんだけれど、今度はタァ~マの事を考えたくなくて体を壊すまで仕事に没頭していったんだ」

「で?体まで壊していたの?」

「だって、食事も全然摂らなかったし、睡眠だって短かったし、仕事しかやらなかったしね。気づいたら病院のベッドの上だったよ」

「ガオ!」


 ガオはクスクスっと自嘲気味に笑って、「だから僕にはタァ~マが必要なんだ。だから、タァ~マ、ずっと僕と一緒にいて」と小さな声で呟いた。

 それは小さな小さな声だったけれど、ガオの心が発した大きすぎるSOSだと私には分かった。


 それにしてもガオママ、いやあの女でいいや!あの女は絶対許さない!

 ガオをどれだけ虐待すれば気が済むのだろう?

 まぁ、ガオがソノマ国を出る頃には、彼女本来の気質が災いして夫や娘2人からも心底嫌われて無視されていたみたいだが、ざまぁだね。


 半年の同棲生活を経た後、私たちは結婚をする事にしたが、披露宴は行わなかった。

 ミソが亡くなってからまだ半年しか経っていなかったし、ガオは結婚式に思い入れは無い様だったから。

 私の心の中にミソが占める割合が大きくて、結婚をしたいとは思っていなかったけれど、私にとってガオも大事なのだ。

 結婚する事でガオの気持ちが軽くなるのなら、私に嫌は無い。

 それくらいはガオを愛しているしね。


 披露宴はなくても、結婚指輪だけは絶対に着けてとガオがとても拘った。

 ガオの結婚指輪は私が選ぶ様にと強く希望され、二人で宝石店へ行き、お揃いの結婚指輪を私たち2人で選んだ。


 人を呼んでの結婚式はしなかったけれど、ガオと二人で小さな教会で神父様に結婚式を挙げてもらった。

 後からガオパパには出席したかったと何度も恨みがましく言われたけれどね。

 あの時は取り敢えず結婚しなければガオの精神が落ち着かない状態だったのだ。

 結婚してからのガオはソノマ国へ行く前のガオに戻った様に落ち着いていて楽しそうだった。

 私の傍を離れないのは以前から変わらないしね。

 そうやって私はガオとの新たな形の家族生活を始めた。

書き溜めましたので、本話から毎日アップに戻します。

毎日アップになったり週一アップになったり、目まぐるしいですが、引き続き拙作をどうぞよろしくお願い申し上げます。


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