ガオの提案
ガオがいつも横に居る事になし崩し的に慣らされてしまった気がする。
ソノマ国からガオの片腕と言う男が各種書類等と一緒にウチの国に入国して来た。
パリと言うその男はガオよりかなり年上に見える。
ソノマ国の人で、ガオより背が高く、金髪に赤い目。一目でウチの国の人でない事がその外見から分かるのだが、好戦的な気質と言われているソノマ国において、これほど落ち着いた表情で無口な人もいるのかとみんなが驚くくらい大人しい。
「パリ、君の住まいはもう用意できた?」
「はい。後、ガオの住まいはどちらに用意するつもりですか?それによって事務所の場所が決まりますから・・・・」
「それはタァ~マ次第だなぁ」
「ふぁっ?」
ううっ!変な声が出ちゃった。
「はははは。ごらん、この人が僕のタァ~マ。ビックリした顔をしちゃって。クスクス」
「ガオ!私はあなたと一緒に住む心算はないよ」
「タァ~マ、今回タァ~マに拒否されたら僕の精神的な健康は地に落ちるよ」と脅して来る。
地味にガオの後ろでパリさんが頷いているのが見えて怖い。
気まずい沈黙が広がった。
「タマさん。ガオさんは実際にタマさんが御結婚されてからずっと通院されていらっしゃるんですよ」
思い切った様に一歩前に出たパリさんが言う通院とは、何科の病院のことなの?
ニヤリと悪い笑みを浮かべたガオが、「タァ~マ、僕にとってタァ~マが僕の事を気に掛けていてくれる事や、側にいてくれる事が精神的安定に繋がるんだ」といけしゃぁしゃぁと言ってくる。
「何言ってるの?勝手に国外に出たのはガオだし、気に掛けていてくれって言いつつも連絡を絶ったのはそっちじゃない」
「だって、仕事で成功する足掛かりを作らないとタァ~マがお嫁さんに来てくれても貧しい生活をさせてしまうだろうしって外国で頑張っていたのに、ミソと結婚してからは二人が一緒の所を想像するだけで僕は息も出来ないくらい苦しかったんだよ。連絡して二人の仲睦まじい所を想像するのなんて生きて行く気力さえなくなっちゃうよ」
何!?その状態。重い!重いよぉ。
百歩譲って姉として見てもらえなくて、女性として見られていたとしても、失恋なんてそこら中に転がっているじゃん。何でそれが病院案件になってしまうの?
その気持ちが顔に表れたんだろう。普段は無口なパリさんが「ガオさんは基本的に女性が苦手です。本人は言いませんが、御母堂が原因だと私は思っています。そのガオさんが唯一女性として一緒にいられるのがタマさんの様です。それだけでなく、幼い頃から彼の根幹を成す部分にあなたが住み着いている状態なんです。だから、あなたが結婚したと言う連絡が来てからのガオはボロボロでした。会社は私がサポートする事も出来ましたが、彼の心の中のサポートは誰も出来ませんでした。ここ数年は漸く立ち直り掛けていた所ですが、それでも通院は必要でした。仕事には打ち込む様になってくれましたが、個人の時間を作りたくないとワーカーホリックになっていました。恐らくあなたの事を考えるのを避けるため、仕事に没頭していたんだと思います」と長々と説明してくれた。
それを私の真向かいに立ち聞いていたガオが一切否定しなかったので、恐らくそれは本当の事なのだろう。
でも、重いよ。ガオ・・・・。
それに病院ってもしかして精神病院なの?
「タァ~マ、僕にはタァ~マが本当に嫌がる事は出来ない。だから聞かせて。僕を受け入れる事は本当に出来ない?」
縋る様な目で聞いて来たガオに、即答なんて出来ないよ。
私はミソを亡くしたばっかりで、まだまだ私自身の将来の事なんて考える事が出来ない。
そう言うと、「なら、タァ~マ、絶対タァ~マを追い詰める事はしないから、首都で僕と一緒に住んでくれる?タァ~マが嫌がる事は絶対やらないから。同じ家の中に住んで、食事を一緒にして、口をきいてくれれば、他は何も望まないから僕と一緒に首都に来て」ととんでもない事を言い出した。
結婚も婚約もしていない男女が、いくら家族同然に育ったと言っても同じ家の中で暮らすって言うのは無しだよね?
ガオは私が断る事が分かったのだろう。
暗い顔をして俯いた。
私を視野に入れたくないかの様に・・・・。
ポタポタと俯いたガオから雫が落ち、床に小さな小さな水たまりをたくさん作った。
段々とガオの肩が震えて来た。
「ガオっ!」
慌てて呼び掛けたけど、ガオは俯いたまま顔を横に振った。
「ガオ!!どうしたの?何でそんな風に?」
「タァ~マ・・・・。僕じゃダメなんだね。タァ~マは受入てくれないんだね・・・・」
ガオが後ろを向いて出て行きそうになったので、思わずガオの二の腕を掴んでしまった。
「ガオ!どうしたの?何時からそんな風になったの?」
こんなの本当に病気だよ。
放っておけない!
「タァ~マが僕を捨てて、ミソと結婚したから。僕の今までの頑張りは全部意味の無いモノになったんだ。生きている意味が無いんだ・・・・」
「違うよ、ガオ!ガオは他人のためではなく、自分のために生きるべきなんだよっ!」
ガオに届く様に一生懸命、ガオは大事な人間なんだから、自分で自分の価値に気付いて欲しいと言葉を重ねても、全てはガオを通り過ぎて私たちを取り巻いている空気に空しく溶けて消えて行っている。
「ガオっ!」
思わず私はガオに両腕を回し、ぎゅっとした。
それが決定打になってしまった。
なし崩し的にガオと首都で一緒に住む事をいつの間にか承諾させられていた。
一緒に住める事が決まった瞬間からガオは極端に明るくなった。
これも病気の症状なのかもしれない。
それでもガオが苦しそうではなくなったので、一緒に住む事は悪手ではないと思いたい。
勿論、寝室は別々だよ。




