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後ろ姿のもたらすもの

「ご愁傷様です」

「お力落としの無い様に・・・・」


 ナルとお父さんが私の横に立ち、参列者の挨拶を受けてくれている。

 私は誰が私の目の前に立ち、何を言っているのか興味を持てなかった。

 この国の葬儀での習慣となっている、故人がとても慕われていた人物だと言う事を表す為に雇われた泣き女たちのむせび泣く様な声すら耳に入っていなかった。


 ミソの家族、いや、家族は私なんだけれど、要するに実家からは誰も葬儀に参加しなかった。

 私はミソに子供を抱かせてあげる事が出来ないまま、先に逝かれてしまった。

 何もしてあげられなかった感でいっぱいだ。

 葬儀にまで実家から人が来ない事の埋め合わせをミソにしてあげられない事が悔しかった。


 悩む私を横でじっと見ていたからだろう、お父さんは実家に戻って来いと言ってくれているけれど、今の私は何も考える事が出来ない。


 焼き場へ着くとここ数年見掛ける事の無い人物がタクシーを飛ばして来た。

 ミソと同じ様な髪色で、ミソと同じくらいイケメン。

 ガオだ。


「タァ~マ・・・・」

 そう言ってガオは両手を広げハグをする姿勢なったが、何となくそれを躱した私を見て悲しそうな顔をし、すぐさま私の両手をぎゅっと握った。

「ガオ、連絡してからすぐに帰って来たのか?」

 ナルがそう聞くと無言で頷いていた。

「葬式に間に合う様に帰った心算だったけれど、ちょっとだけ間に合わなかった」

「まぁ、海の向こうから戻って来るんだから、このタイミングでも帰って来てくれたんなら最後に顔だけでも見てやってくれ」

「ああ」


 久し振りにガオを見ていても、後ろを向かれると、ミソと似た身長で、似た髪色、どうしてもミソを思い出してしまう・・・・。

 涙がポロポロと零れてしまう。


 無。正に無。そんな心持ちでずっとナルやお父さんに言われるままに、立ったり座ったりしていたら、いつのまにかミソは小さく白い骨壺の中に納まってしまった。

 あれだけ背が高かったのに、最後にはこんな小さな壺に納まってしまうのか・・・・。


 ガオが何くれとなく気を使ってくれて、ソノマ国へ行く前の雰囲気になっているのだけれど、私はガオを見るのが辛いのだ。

 特にその後ろ姿が・・・・。


 ナルも気を使ってくれて、自分のスポーツジムを軌道に乗せるのに忙しいだろうに、ずっと付き添ってくれている。


 専業主婦だった私はミソが居なければ一人で家の中にポツンと佇む事になる。

 それを心配したお父さんが実家へ戻って来いと再度言ってくれる。

 ナルも今はそうした方が良いと言う。

 

 お父さんが私の家から私の服とか当面必要になるものを纏めてくれた。

 ガオやガオパパと一緒に4人で礫里地区へ戻る。

 ガオが帰国してすぐに購入した高級車に乗せてくれたのだ。


 実家に戻ると今やお父さんが独りで暮らしている居住スペースに、食事の時は毎日来るガオパパ。そんな所へ私が元の部屋へ戻った形だ。


「なぁ、タマ。元気を出してくれよ」とパフは言うけれど、パフだって自分の工場が忙しいので、偶に会いに来てくれるだけだ。相変わらずパフの奥さんは顔を見せないけどね。


 ガオはあれからずっと上の階のガオパパのアパートで暮らしている。

 そして、食事の時だけではなく、何かある度に私たちのアパートに来て、私に何かと話し掛けてくれたり、私を外に連れ出そうとしてくれるのだが、私は今ガオには会いたくないのだ。

 でも、それをガオに言う事は憚れる。

 ミソと似た後ろ姿を見る度にドキっとさせられるから嫌なのだ。

 ガオは前よりも可成り痩せていて、それだからこそ後ろ姿がミソにそっくりになっている。

 元々ガオも太っていたわけでは無く、スラリと背の高いイケメンなんだけど肩幅があるからミソと比べてちょっとだけがっしり見えていたのだけれど、今も肩幅はあるのだけど一回り縮んだ様に見える程度には痩せているのだ。

 だからこそ、後ろ姿がミソに余計に似ている・・・・。


 私がガオを避けようとしている事をガオは気付いているんだと思う。

 それでもしつこく私の傍に来る。

「タァ~マ、辛いとは思う。僕の後ろ姿を見るとミソを思い出すんだよね?」

 ビクっと肩が跳ねたのを、肩にぐるっと腕を回していたガオは気づいたと思う。

 そうか、私がガオを後ろ姿にミソを重ねていたのをガオも知っていたのね。

 この人、背中に目でも付いているのだろうか?


「タァ~マ、僕はこれを機会にこの国に戻るよ。母国だしね。実はあっちで会社を立ち上げているんだけれど、本社をこっちに移すつもり。これからはタァ~マの傍にずっと居るよ」

 全然嬉しくない。

 ガオ、あなたがあっちの国へ行って直ぐの時は、早く帰って来いと思ってたよ。

 その後も数年はそう思ってた。

 でも、何年もほとんど音信不通になってしまい、私は私でミソと家庭を築いたし、もうガオは遠い思い出になってしまって、今、ミソを想起させるあなたに側にいて欲しいとは思ってないのよ。


 そう思っている事が無意識に態度に出た様で、肩を抱かれているのを外す様にガオと反対側にちょっと体が動いてしまった。


「タァ~マ。今度は逃がさないよ。僕は絶対離さないよ」

 ガオは何を言っているんだろう?

 怖いよ。目が座っているよ。


「タァ~マ。僕がタァ~マを好きだってずっと知ってたよね?」

 何を言っているんだろう?

 昔は姉と弟の様だったし、家族だったから好きに決まっている。

 今だって嫌っている訳じゃない。ただただ遠い人になってしまい、日常的に自分の近くに居る事が不思議に感じてしまうくらい心も体も距離が離れただけだ。


「僕が将来の為に技術と人脈を求めてソノマ国へ行っている間にミソと結婚して・・・・。どれ程嘆いた事か。全然関係の無いその辺の男だったのならまだしも、ミソとだなんて。ミソも大事だから恨むに恨めない。全然知らないぽっと出の奴なら、いくらでもタァ~マを取り戻す為に頑張ったのに・・・・。それなのに・・・・。人生の目標がなくなってしまった時の僕の気持ちがタァ~マは分かるだろうか?」


 私はガオに返事をする気になれない。

 まだミソがいなくなった事に戸惑いが大きく、他の事はどうでも良いのだ。


「タァ~マ、今はまだ落ち込んでいるだろうけど、今度こそ、僕は絶対タァ~マの手を離す事は無い。何事も何人も、タァ~マでさえ、僕からタァ~マを取り上げる事は出来ないと思ってくれ」

 ガオが意味不明の事を言いおいて2階の実家へ戻って行ったけれど、あの意味不明の宣言をしてからは遠慮が亡なくなったのか、毎日ウチに来て私の横から離れない。

 会社をこちらへ移すと言っていたのに、ガオ本人はずっとぴったり私に張り付いている。

 いつ手続きとかをするのだろうと思っていたら、「優秀な部下がいるからそいつに任せてる。後少しで必要な手続きは終わるよ」と言っていた。

 ガオがこっちに帰って来るとして礫里地区に住むのだろうか?

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