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首都に残ったもの

 2年間で終了する声優学校の卒業を目の前にしている私の横で、ミソはしっかり司法修習も終え、司法修習生考試にも合格し、弁護士の資格をちゃんと取った。凄い!現役バリバリ合格だ!

 司法試験に一発合格って周りが本当に驚いていたので本当に凄い事なんだなと私にも分かった。

 そして今はとある法律事務所で経験を積んでいる。


 ナルは新入社員ではないがまだまだ下っ端で一生懸命仕事に打ち込んでいる様だ。

 住んでいるのは相変わらずサンマルだ。


 今年のお正月に礫里地区に戻った時、ガオ以外の4人、そうパフも含めた4人で久し振りに顔を合わせたのだが、息子の生まれたパフの親ばか加減をしっかり見せつけられただけだった。

「ウチの子は賢い」

「ウチの子は丈夫だ」

「ウチの子は妻に似て顔が良い」

 もう本当にウザイくらい親ばかしていたよ。

 でも奥さんは遠慮してなのか、顔を見せなかった。


 お父さんもガオパパも私たちの顔を見ると嬉しそうで、「もっと頻繁に帰って来い」と言うけれど、私はこれから就職探しだし、ミソも弁護士としての経験を積む下積み生活なので忙しい。

 ナルだってまだまだ覚えないといけない仕事が多いのと、首都からよりも実家に戻るのが大変なサンマルからの移動となると、こういう正月くらいのタイミングでしか戻って来れない。

 ソノマ国で働いているガオは、あれから一度も国に戻って来ていない。


 いつものお正月と違う事は、ガオが居ない事と、私としょっちゅう一緒に居る事になれたミソが抵抗なくウチの家で食事をする様になった事ぐらいかな。首都は今私とミソの2人だけしかいないものね。


 お正月が終り、ミソと一緒に首都に戻った後、程なくしてちゃんと卒業前に私の就職先が決まった。

 何とワル先輩の口利きで先輩のお父さんのTVが契約している声優事務所に登録する事が出来た。

 もちろんちゃんと試験を受けて合格したよ。

 でも、人脈って本当に大事なんだね。今回、それを実感したよ。

 ワル先輩、ありがとう!


 まだまだ声優の数の少ない声優黎明期だからかあっさりと入社できたし、入社と同時に小さな仕事をちょこちょこ回してもらえる様になった。

 TV番組のナレーションが多いのは意外だったなぁ。


 たまぁにアニメのアテレコもあるけれど、まだ外国映画の吹き替えは担当した事が無い。

 つまり私の仕事はTV業界に大きく関わっているけれど、映画業界は皆無なのだ。

 TV局中心なのもワル先輩の伝手が利いている気がする。

 ありがたや~。


 顔を出す仕事ではないので華やかさは無いけれど、顔を出さなくて良いからこそ落ち着いた環境で仕事や生活が出来る。

 マネージャーなんて付いてなくて、事務所から月初めに一か月のスケジュールが郵送され、突発的な仕事の時は何月何日にどこどこへ行って収録して下さいと電話されるのでそれに従って働いている。

 台本は私が事務所に寄って貰って来たり、事務所が郵送してきたりだ。

 どっちかというとギリギリまで訂正が入る可能性が高いので、私が事務所まで決定稿の台本を取りに行く事が多い。

 これがベテランになると事務所の人が声優の家へ持って来てくれるらしいが、ペエペエの私では、自分が事務所に取りに行かざるを得ない。まぁ、しょうがないね。

 

 勤務時間も普段は所謂オフィスタイムで仕事が動くのだけれど、緊急で作られる番組の時なんかは遅くまで仕事がある時がある。

 そういう時は決まってミソが迎えに来てくれる。


 ミソの方も2年間法律事務所で弁護士として下積みをした後、念願の虐待された子供たちを救う事を目的としたNGOに就職する事ができたのだ。

 ミソが勤めていた法律事務所の先輩弁護士からは、このままその事務所で弁護士として働いて、そのNGOを顧客にすれば良いのではないかと言われたらしいが、政府からの援助金も少ないそのNGOが弁護士を雇う事など無理な話なのだ。

 だからミソは弁護士資格を持つ職員と言うことで、このNGOでは法律関係だけじゃなく、普通に子供たちの対応や事務仕事まで仕事内容を選ばず仕事をしている。


「タマ、昨日のランチは申し訳なかった。緊急に保護しなくちゃいけない子がいたんだ」と言って、約束を反故にされる事も偶にあったりするけど、何よりミソが活き活きと仕事をしている様子がうれしくて、今の仕事になって良かったねと思う。

「それで昨日はちゃんとした物を食べれたの?」

「あ、まぁ、うん」

 これはまた即席麺か菓子パンを食べただけなのねとミソのバツの悪そうな顔を見て思っちゃったよ。


 首都にはミソと私だけだから必然的に2人でいる事が多い。けど一緒に暮らしているわけじゃないからね。

 ミソも私も仕事が忙しいのだが、食事は出来るだけ一緒に摂る事にしている。

 だってそうしないとミソの食生活は壊滅的なんだもの。

 幼い頃からちゃんとした食事を摂る習慣が無いので、放っておくと毎食即席麺や菓子パンで済ませてしまうのだ。

 お陰で私はわざわざ料理教室にまで通って、家庭料理をマスターする羽目になった。

 だって、ミソにちゃんとしたご飯を食べて欲しいから。

 特に仕事終わりの時間が日によって良く変動するミソと一緒に食べるには、ミソのアパートで私が料理をしてミソの帰りを待ってから食べる方が確実なんだもの。

 だから私たちがしょっちゅう食事を共にする様になってから、ミソは私のアパートの近くに引っ越して来た。

 毎回、ウチまで送ってくれるのに、遠くだと結局遅い時間に再度の帰宅となるから面倒らしい。


 ミソってちょっと自分を軽視すると言うか、自分はどうなっても良いって考えているんじゃないかと思わせる時があるんだよね。

 首都にいる幼馴染は私だけだから、ミソが頼れるのも私だけになる。

 だから私も出来るだけミソの健康なんかを気遣う様にしてるんだぁ。


 そんなある日、偶にやる様にミソのアパートで食事を作っていたら、ミソが仕事から帰って来た。

 なんかミソに似合わずモジモジしてるなぁ~なんて思いつつも、食事をダイニングテーブルに並べ、いざ実食となった時に、「タマ、これ・・・・」と両手で上下を覆った何かを差し出した。


 受け取って見ると小さな箱で、開けてみると指輪が入っていた。

「え?」

「結婚しよう」

「え?」

「返事は?」

「うっ」

「Yesしか受け付けないから、そこんとこよろしく!」と不良っぽくニヤリと笑うミソ。

 社会人になってからミソは責任感みたいな物が出て来て、そりゃあ良い男って感じなんだよね。

「うううう」

「タマ、返事」

「うん」

 そう答えた途端、ミソが「やったぁぁ!」と大きな声を出し、両腕を上に付き上げた。

 隣の家の人が「ドン!」と壁を叩いて来たのはご愛敬。


 その週末、ミソのたっての望みで私たち二人は礫里地区へ戻った。

 ウチのお父さんに挨拶したいみたい。

「おじさん、タマと結婚の約束をしました。タマを大事にします。・・・・俺を息子として受け入れてくれますか?」

 ミソは緊張で強張った顔をしたまま、ウチのお父さんに頭を下げた。


「いやぁ、勿論だよ。漸く本当に私の息子になるんだね。大歓迎だ。タマは我儘な所もあるけれど、思いやりに溢れる娘だ。大事にしてくれよ。これから私の息子として私の作った料理もバンバン食べてもらうからな」と言われ、がちがちだったミソの表情が漸くいつもの表情に戻った。

 

 私たち二人が揃ってガオパパにも報告した所、しばらく俯いていた顔を漸く揚げ、「・・・・そうかぁ。ウチの息子たちはがっかりするかもしれんが、俺は喜ばしい事だと思うよ。おめでとう!」と祝福してくれた。


 パフも普通に「おめでとう!」と言ってくれ、一緒になって喜んでくれたけれど、ミソの家に行って挨拶をしても「・・・・そう」と言う力の無い返答がミソママの口から出て来ただけだった。

 ミソパパはもう完全に愛人宅で暮らしており、結婚の挨拶をしたいと言っても、「勝手に結婚してくれていいよ。挨拶は不要」と電話で言われただけだった。


 家族に恵まれなかったミソに温かい家庭を作ってあげたいと改めて思った。

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