それぞれの道
「タマ、お前はなりたい仕事があるなら、専門学校へ行っても良いぞ。こうやってちゃんと専門学校のパンフレットや掛かる学費に関しても調べているところを見ると本気なんだろう?」
実はこれらの資料はガオが集めてくれたのだ。
タァ~マパパを説得するには材料がいると言って、国内にある声優学校2校のパンフレットを入手してくれたのだ。
一つはアニメ学校に併設されている声優学校で、もう一つはとある劇団の中にある声優部門だ。
劇団の方は学校ではなく、民間の劇団なのできちんとしたプログラムがある訳ではないが一応は専門学校としてウチの大学が紹介してくれた。
また、アニメ学校の方はアニメを作る事に力を入れているので、声優学校の方は本当に小規模だ。
ただ大きく違うのは劇団の方はそのまま劇団の団員になり、就職としてはちょっと弱いのに比べ、アニメ学校の方はアニメ方面に限り就職がほぼほぼ確約されているのだ。
「私、アニメ学校の声優学校で学んでみたい」
「お前はアニメ業界で働きたいのかい?」
「ううん、お父さん。私は外国の映画の吹き替えを仕事にしたいの」
「なら、劇団の方が良くないか?」
「う~ん、でも劇団の方は仕事があるとは限らなくて、劇団員になると会費を払わなくちゃいけなくなるから、就職って面から見ると弱いんだよね」
「なるほど。お前なりに将来の事を考えているんだね」
私は黙って頷いた。
お父さんはやさしく頭を撫でてくれる。
「専門学校だから入学するのに試験らしい試験はないんだな」
「うん」
「分かった、学費は心配しなくていい。後は住む所だな?」
「うん」
「タァ~マパパ、僕も首都の会社に就職する心算だから、今のアパートにそのまま一緒に住む事もできると思う」
「え?」
卒業してからもガオと一緒に住むの?
それって・・・・私が彼氏を作る機会は諦めろって事?
フルフルと頭を左右に振って、「いや、専門学校の近くにワンルームを借りる心算なのっ」と勢い込んでお父さんに縋った。
「そうだなぁ。今、お前たちの同居を許しているのは4人で一緒に住んでいるからだけれど、男女2人だけなら許可は出せないなぁ」
お父さんナイス!
ガオはナルの方を見たけど、ナルはまだ自分の就職先が決まっていないので、直ぐにどうこう言えない様だ。
もちろんガオの就職先も決まっていないのだが、ガオは最終的に気に入った就職先がなければ自分でプログラミングの会社を起業すれば良いと思っているので考えが柔軟なのだ。
でもスポーツ用品の会社を希望就職先としているナルは、スポーツ用品会社が首都だけでなく地方にもあるし、元々数そのものがそんなに無いので、希望通り就職できたとしてどの町にある会社になるか分からないのだろう。
だから容易に首都で一緒に住もうとは言えないのだ。
ありがたい事に今夜の夕食にはミソが来ていなかったので、更なるガオの援軍は無かった。
私だって年頃なので、彼氏も欲しいし、いずれは結婚もしたい。
そうなるといつまでも過保護な幼馴染とばかりいっしょにいる場合ではないのだ。
お父さんの助力をめいっぱい受けて専門学校行きと一人暮らしは決定事項となった。
希望はアニメ学校併設の声優学校だ。
大学の就職説明会直前に、父親のTV局に就職したワオ先輩が大学まで顔を出し、「タマ、お前は真っ先に俺の所へ就職の口利きを頼みに来ると思っていたんだがなぁ~」なんて失礼な事を言っていた。
どうやら会社に頼まれ、後輩の中で見込みのある者の青田買いをしに来た様だったが、音響を担当していたファミという子以外を青田買いする事はなかった。
「まぁ、専門学校を出た後、就職先がなかったらウチに来てみるか?」なんて冗談とも本気ともとれそうな口ぶりで、いつの間にかフラッと大学に顔を見せなくなったワル先輩。会社命令の青田買いが終ったのだろう。
うん、本当に就職先が見つからなかった時は頼むよ、先輩。
そして大学卒業前に私は希望の声優学校への入学を決め、ミソは司法試験を受け合格したので首都で司法修習を受ける事になった。
ナルは無事サンマルと言う大きな都市にあるスポーツ用品の会社に就職が決まった。
そして・・・・ガオはプログラミングで世界一と言われているソノマ国のコンピューターメーカーに就職が決まった。
そう、ガオは国外で働く事になったのだ。
「自分で会社を起業するならば、本場でプログラミングについて学んでおいた方が良いし、人脈も作っておいた方が良いから、数年だけ行って来る」と私にべったりのガオが急遽国外に住む事になってしまった。
ガオパパは「頑張って来い!鼻が高いぞ」と大喜びでガオを送り出した。
首都には私とミソの2人だけが住む事になり、パフも含め、残りの幼馴染は全員がバラバラになった。
私は無事、専門学校の近くにワンルームを借り、ミソも別の地域にワンルームを借りて別々に新生活をスタートさせた。
ナルも新入社員として忙しいらしくサンマルから首都に来る事も無く、滅多に顔を見る事はなくなったし、パフは家族持ちだから近況すら大きな動きがない分、何をしているのか細かい事は分からず、ガオからは時々メールが届くだけ。
あっちでどんな生活をしてるのかも分からない中、ミソと私はお互い気心が知れている事もあり、しょっちゅう会って、一緒に食事したりする仲になっていた。




