ミソの家庭料理
大学2年春、キャンパスにほど近いアパートで段ボールから色々と取り出し中。
そう、結局強制的に寮を引き払わされて、アパート暮らしにさせられてしまった。
あのワル会長たちとの合コンの後、何度か別のメンバーで合コンを試みたんだけれど、何故か途中からウチの幼馴染たちが来てしまう。
そうするとあのルックスなので、女の子たちが幼馴染たちに集中しちゃって、元々のメンバーである男子はシラけるし、幼馴染は女子メンバーを無視するしで、段々と誰も私を誘わなくなってしまった。
寮生活は私にとって唯一彼氏を作るチャンスを与えてくれる手段と思っていたから、段々と合コンに誘われなくなったのはショックだったし、だからこそ余計に寮にしがみ付いていたかった。アパート暮らしだけは絶対に避けたかったのに・・・・。
それにしても何故毎回、私が合コンをするとあいつらに分かってしまうのか、その仕組みを解明する事に成功した。
カオがガオにチクっていたのだ。
カオはガオに恋しているらしく、猛アタックしたらしい。
だけど女の子に興味のなさそうなガオは速攻で恋人には出来ないと断ったらしい。
断りはしたんだけれど、同時に自分の姉の動向を知りたい、特に合コンに参加する時は直ぐに連絡を入れて欲しいと頼んだらしい。
そこは複雑な乙女心。
恋人になれなくても、ガオの電話番号を教えて貰えるだけで嬉しかったんだと。
このままでは寮にいても『君に囁きたい』ライフは期待できない。
でも、アパートなら絶望的な恋を見つける事が、寮なら1%、いや、0.1%でも可能性があるなら寮に居たかったのに、ああ、それなのに、それなのに・・・・。
アパートに引っ越さないとガオがマジで不機嫌になりそうだったので、泣く泣くアパートへ越して来たのだ。
「タマ、食器、これでいいかぁ?もっと数増やす?」
「ナルさぁ。私料理は出来ないよ」
「知ってる~」
「なら、食器っていらなくない?」
「料理はタマパパ仕込みのオレがするから大丈夫。お前は皿とかがこれで良いかどうかだけ言ってくれ」
「どれでもいいよ~」
「後で文句言うなよ~」
本当にしょうもない会話を続けながら、段々とアパートが生活の場として整って来る。
このアパートは結構大きくてダイニングキッチンと寝室が3つ。
ミソと私が一部屋づつ。
ガオとナルが同室。
これってさぁ、男子3人で借りたら一人一部屋だんじゃねぇ?と思わなくもない。
でも、これでいいと3人が言い張るから、しょうがない。
ここに住んでやるかぁ。
お引越しの晩は鍋!春なのに鍋!文句ある?
だって4人共疲れちゃったんだもの、引っ越しで。
外に食べに行くのすら面倒くさくて、ナルとミソで買い出しに行った具材をただ切って土鍋に放り込んだだけの鍋。
でも美味しいよね。
〆はうどん。
「ナル、卵も入れて~」
そう頼むと、私好みの半熟の卵が鍋の中に浮いている。
ぱぱっとナルが装ってくれて、私はパクリと2口で卵を食べ終わる。
ちょっとだけ零れた半熟の黄身がうどんに絡まり、めっちゃ美味しい。思わず笑顔になっちゃう。
ガオは自分の卵を半分に箸で切り分け、ポンと私のお皿に入れてくれる。
うん、良いかもしれない。アパート暮らし。
翌朝もお粥の上にとろ~りと餡がのっかっていて、見るからに美味しそうな朝食。
お父さんが作ってくれるのと同じお粥だ。
トッピングも色んなのが用意されている。
あ、これ私好き。焼き魚を解して胡麻や分葱と和えてあるやつ。
こっちの海苔も好き。
お浸しや卵焼きも美味しそう。
全部、ナルとガオが用意してくれたんだ。
私が用意したのはフルーツだけ。
りんごにはところどころ皮が残ってるけど、味は一緒。気にしない、気にしない。
ってかりんごの栄養は皮と身の間にあるんだからね。
「タマ・・・・お前、りんごがこんなに角々になる様に切るのって、逆に難しいぞ」なんてミソが言っているけれど、食べても死なない物を提供してるんだからありがたく思え。
ってか、実はミソも料理はからっきしなのだ。
でもね、私としてもミソに家庭料理を食べさせてあげられるのは嬉しい。
例え料理したのが私でなくてもだ。
だって母親のネグレクト、酷かったもんね。
それなのに弟にはちゃんと料理をしてあげてたって言うんだから、鬼の様な母親だと思う。
小さな時から菓子パンとか即席麺とかばっかりだったから、出来るだけウチでご飯を食べさせ様と、お父さんもナルたちもあの手この手だったよね。
でも、こうやってアパートをシェアすれば、毎日、少なくとも朝と夜は家庭料理を食べさせてあげられるもんね。
朝からみんな機嫌が良い。
やっぱ4人で食べると美味しいよね。
「タマ、ミソ、夜は何を食べたい?何かリクエストある?」
「う~んと、辛いやつなら何でもいいよ」
「俺は白身魚の餡かけ・・・・」
「ウチのお父さんの白身魚の餡かけは美味しいよね。ナル、再現できる?」
「もちのろん」
皆、昔ウチのお父さんがミソに食べさすために料理した白身魚の餡かけをちゃんと覚えていた。
ミソには不足がちな魚を食べさせてやりたいけど、子供が食べやすい様にと白身の魚にしたってお父さん言ってたなぁ。
ミソが恥ずかしそうににこっりして、「白身魚があったらでいいよ。なければ何でも」なんて殊勝な事を言っている。
でもみんな分かっている。
ミソはウチで初めて食べた家庭料理の白身魚の餡かけが食べたいんだって。
それがミソの中にある家庭料理の代表なんだって。
あれからお父さんは事ある毎におやつと称して肉まんだの粽だの、家庭料理風のおやつを作って私たちに出してくれた。
それはもちろん私達3人の子供に食べさせたいのと同時に、親の手料理を食べる機会の少ないミソのためでもあったんだと思う。
ワザとらしくならない様に、週一くらいだったけど、たぶんあの数々のおやつも、ミソにとっては家庭料理になってると思うよ、お父さん。




