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『君に囁きたい』ライフ

「お前らさぁ、いつもいつも食べ物を人の皿に載せるけどさぁ、それってマナー違反って知ってるか?」

 安い化粧板を使った白い学食のテーブル。

 床から椅子が少し浮く様に白いアジャスターが付いていて、私たちは4人で一つのテーブルを囲む。

 大学生になってから4人全員が揃って学食でランチと言うのは珍しくなっていた。

 それぞれ受けている講義が違うから、しょうがないよね。


 で、ミソが何を言っているかと言うと、お肉とかカニとか海老とかセロリとか、私が大好きな物は必ず自分のお皿から私のお皿に入れてくれる、ウチの弟2人の所業についてだ。

 確かに自分のお皿の物を他人のお皿に入れると言うのは行儀が悪いとされているんだけれど、ウチの食卓では誰が一番力を持っているかというと、まずは料理を作るお父さん。

 次に我儘を言い出したら決して他人に譲る事をしない麗しい姉。つまり私だ。

 

 小さな頃から何度言ってもお姉ちゃんと呼んでくれない弟たちだけれど、私が好きな物は大抵譲ってくれる。

 ただ、ガオは食いしん坊だから、牛肉に関しては絶対に譲ってくれない。プンスカ。


 そこへ行くとナルは何でも私が好きそうな物はくれる。


 今もナルのBランチからメインの手羽先から揚げを所望した私の為に、4本中1本を貢いでくれた所で、ガオもAランチの回鍋肉を少し分けてくれたところ。

 私とミソはイカとセロリの炒め物がメインのCランチ。

 労せずして私のトレイの上には、学食のAからCランチのメインが鎮座しているのだ。


「お前らなぁ、家の中でそれをするのはいいけど、人目のある所でやるのはよせ!俺が恥ずかしい」と言いながら、ミソもデザートのみかんゼリーをそっと私のトレイに載せてくれた。

 うむ、苦しゅうないぞ。


 ナルもガオも、ミソが私のトレイにこっそり貢ぎ物をしたのを片目で確認して、ミソの発言はスルーした。

 私からみんなに白米をちょっとずつお返しだ。ニヤリ。

 おかずの量が多くなっているから、ご飯までは食べ切れないもんね。

「で、学生寮はどんな感じなんだ?」

 ナルが聞いて来たけど、私もそれはみんなに聞きたかったんだよね。

 何でもミソとナルは202号室で同室、ガオも2つ先の206号室らしい。

 あ、寮の部屋は廊下の左右で偶数部屋と奇数部屋に分かれているんだよ。

 これは男子寮も女子寮も一緒だよ。

 全員同じ学年の子と一緒の部屋で、ミソとナルの所には食品会社の息子が居て、しょっちゅう差し入れをしてくれるそうだ。

 

 ジャンボチップスという大きなポテトチップスがヒット商品らしく、色んな味のジャンボチップスを持って来てもらって、全ての味を制覇したらしい。

 こらっ!お裾分けがなかったぞ。


 ガオの部屋は科学系の学科に所属している子ばかりで、部屋の中にいろんなガラクタが置かれているらしい。

 でも、ガオはそれはそれで楽しいみたい。

 ガラクタのジャングルの中を進みながら窓際の自分のベッドまで移動するのが大変ではあるけれど、色んな発見があって飽きないらしい。


「私の部屋はね、やっぱり全員同じ学年なんだけど、2年浪人してから入学した子が一人いて、年はバラつきがあるかな?」

「女子で浪人は珍しいなぁ」

「でしょ?」

 ナルは女子寮に憧れがあるのかな?

 随分寮の話に食いついてくるなぁ。


「で、お前、いじめられてないか?」

 ああ、ナルがしつこく私の寮生活を聞き出していたのはそれを聞きたかったのね。

「うん。いじめられてないよ。その2年浪人した子はちょっととっつきぬくいけど、みんなに対してそうだし、もう一人の子は漫画を描くのが好きで、トーンの切れ端があっちこっちに散らばるから、もう一人の同室の子、綺麗好きの文学部の子にしょっちゅう怒られてるよ。2浪の子は一緒には出掛けないけど、他の子と3人で夜はカフェテラスに行く事もあるよ。あ、漫画好きな子は3人に是非デッサンさせてって言って欲しいってちょっとシツコイかな?でも、さっぱりした気性の子なので、ダメって言っても問題ないはず」

「そうか、何かあったら早めに言えよ。来年から4人で暮らすアパートはこれからも探すから、寮生活は今年1年だと思っておけよ」

「え?」

 ナルが爆弾発言をした。


「前にガオが言ってただろう?4人でアパートって」

「うそぉ」

「父さんたちもアパート暮らしの方がお前がいじめられないから安心だって言ってたぞ」

「ええええ!?でもさぁ、そのいじめるいじめないって、原因はあんたたちじゃない」

「まぁ、それは否定しない」

 ミソが途中で参戦してきたが、ミソはアパートに幼馴染と言えど女の子が一緒に住んでもいいのかよ?


 そう聞いたら「え?女?どこ?」と宣わった。

 こ・ろ・〇!


「冗談抜きでアパートの方が俺も安心だ。みんな受ける講義が違うからこうやって全員で食事することも稀だし。だから、アパートなら最低でも朝晩は一緒に食事できるし、体調はどうだとか、勉強はどうだとか心配しなくて済むしなぁ」

「ちょっと待ったぁぁ!そのミソが心配しているってのは私だけじゃなくてナルやガオもだよね?」

「何言ってるんだか。ナルは寮でも同じ部屋だし、ガオは2つ先の部屋だから様子見ようと思ったら何時でも見れるけど、女子寮は立ち入れないからな。お前はさっさと寮生活に満足して、来年からはアパートに切り替えろよ!」


 なんてこと言うんだ!

 私は『君に囁きたい』ライフを楽しみたいが一身で中3からずっと勉強漬けだったんだぞぉ。

 今元を取らなくて、何時取ると言うのだ?

 でも、学食のテーブルを囲む3人にとっては4人でのアパート暮らしは規定の路線の様で、私の抗議には耳を貸してくれなかった。

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