本番!
商業高校の校舎はとても古くて装飾の一切ない外壁に雨水の跡がいくつもあるちょっと陰気な建物だったのに、流石進学校、萬髭高校はオレンジ系のレンガ壁の素敵な校舎だった。
私は前もって萬髭に下見に来るなんて考えた事もなかったけれど、ナルとミソは2人で経路確認も兼ねて来た事があったみたい。
安心だね。
私たち4人は一緒に願書を提出したからか、同じ教室での試験となった。
「タァ~マ。大丈夫だから。僕を信じて、ねっ」
ガオが前の席から振り返ってニッコリ笑って、それを見た周りの女子受験者が「きゃぁきゃぁ」言っている内に、試験監督官が入って来た。
国語、まぁ問題ないかな?
得意な教科ではあるからね。
数学は計算が遅いからちょっと不安。
回答用紙を全部までは埋めれなかったけれど、80%は埋められたと思う。
社会は勉強カードのお陰で楽勝。
科学はちょっと難しかった。
でも、数学よりは早く問題を解く事ができたので、一応は全部の解答欄を埋める事が出来た。
「タマ、忘れ物するなよ」
全ての試験が終わってお昼になったので、ナルが私を急かす。
学食が閉まっているので、この辺りで昼食を食べないと家まで我慢すると昼にはちょっと遅すぎる。
なので、この辺りの食堂で食べる事になるのだけれど、これだけの受験生が居ると、どこの食堂も混むと予想されるのだ。
だからナルは早く行こう行こうと急かしているのだ。
「いいよ。行こう!」
私が自分の鞄を持って席を立ったら、後ろの席だったミソが、「おい、お前、これ、忘れてるぞ」と私の受験票を差し出した。
「え?もう受験は終わったんだからいらないんじゃ?」
「あふぉぉ!合格発表の日までちゃんと受験番号覚えてられるのかよ?その鳥頭で」
むむむ。失礼な奴めぇ。
でも、そうだね。覚えてられないと思うよ。
受験票を鞄に入れて4人で急いで校門へ。
人気のハンバーガー屋さんなどは既に受験生でいっぱい。
私たちは裏道にあるお好み焼き屋さんに入った。
ぎりぎり1つのテーブルが空いていたのだ。
私達が入ると、店の中に居た女性客が「きゃぁきゃぁ」と姦しい。
いつも見てる光景だけれど、こいつら、どうしてこんなにモテるのだろう?
顔が良いだけやん?
「豚玉うどん」
「イカ力そば」
ミソとナルは直ぐに注文した。
私は壁に貼られているメニューを見て、うんうん唸っていた。
魚介ミックスと豚イカのどちらにするか悩んでいたのだ。
「タァ~マはどれとどれで悩んでいるの?」
流石ガオ。
私が2つのメニューのどちらにしようか悩んでいる事を言い当てた。
「魚介ミックスと豚イカのどっちがいいかなって」
「じゃあ、僕が豚イカ頼むからタァ~マは魚介ミックスで」
割烹着を着たおばさんがアルミのお椀に入ったお好み焼きの材料を持って来た。
私の前に座って居たナルとミスはすぐに麺から焼き始めた。
ガオは私と自分のアルミ椀をシャカシャカと混ぜて、それぞれの前に「じゅわわん」と広げた。
上手い具合に熱せられた鉄板からちょっと香ばしい匂いが上って来る。
みたら、ミソとナルが炒めていた麺にちょっとだけソースを掛けたみたい。
いいよね、この匂い。
お好み焼きをひっくり返すのやってみたかった私は大きなヘラ2本を両手に持った。
料理の苦手な私でも混ぜて焼くのはガオがやってくれたので、ひっくり返すのは私がやっても味は落ちないと思ったのだ。
「おいおい、お前がひっくり返すのか?」
ミソが怪訝そうな顔をしてこっちを見て来る。
「もちのろん!」
「やめとけっ」
「え?なんで?」
「ひっくり返そうとして床に落としたり、誰かの顔にぶつけたりするのが目に見える」
「なんですとぉぉ」
ほっんとぉぉに、ミソって失礼な奴だよね。
私がムキになってひっくり返そうとしたら、「タァ~マは女の子なんだから、こういうのは男の子にひっくり返してもらった方がスマートなんだよ」と言う謎理論を持ち出し、あっと言う間に私とガオの前にあるお好み焼きをぱぱっとひっくり返してしまった。
「ぐぬぬぬ。儂の技をとくと見せてやろうと思ったのにぃぃ」と武芸の達人の真似をして言ったら。「ガオ、ナイス。これでこの店の安寧は守られた」なんて、ナルまで言ってるのには頭に来た。
まぁそれも、豚玉うどんを数口分くれたから、許してやろう。
ミソは罪が大きかったから、半分取ってやったぜ!
でもイカ力そばだったので、お餅が入っていて、ちょっと余ってしまった。
そしたら私の食べ掛けをささっとミソが回収していた。
食い意地の張った奴め!
昼食が終ると歩いて団地へ帰る。
パフは団地の外側の瓦工場前に住んでいるけど、私たち4人は団地の住人だからね。
で、私はミソの夕食が気になった。
なったので、「答え合わせ会をウチでやろう!」とミソを誘った。
今夜もなし崩し的にウチのお父さんの美味しくて栄養満点の夕食を食べてもらわないとね。




