お受験地獄 その2
「ねぇ、ミソはどうして瑞穂希望なの?」
帰宅途中に思い切って聞いてみた。
ミソはぎょっとした様で一瞬固まった後に、「なんでお前がそれを知っているの?」って逆に聞いてきた。
「ん?そっちの担任にどうして瑞穂希望なのか聞いて欲しいって頼まれたのよ」
「え?なんでお前に?」
「それは私の方が知りたいよ。態々職員室まで呼び出されたんだよ。もぉ~」
ミソは何か小声でブツブツ言っていたけど、今度はみんなの方を向いて「お前らどこの高校を希望した?」と質問した。
「僕も瑞穂」
「オレも瑞穂」
「私も瑞穂」
「なんだ全員瑞穂じゃん。俺もみんなが瑞穂に行くだろうって思ったから一緒の学校にしたかったんだよ」
「えええ?どうしてみんなが瑞穂を希望するって分かったの?」
そう聞いたら残念な子を見る様な目で見られてしまった。
何故だ?解せぬ・・・・。
翌日再び職員室へ行き、ガオたちの担任に昨日の聞き取りについて回答すると、「なら全員で萬髭を目指せばいいじゃないか」と宣われた。
そりゃぁ、3人は萬髭に合格できると思うけど、私はどうひっくり返っても無理。
そう先生に言うと、残念な子を見る様な目で見られた。
最近、このパターンが多い・・・・。クスン。
「タァ~マ、勉強会しよう。今年1年だけの事だから、出来るよね?」
イケメン男子がクゥ~ンと子犬が甘えてくる雰囲気で言ってこられると嫌と言うのは難しい。
なんか気付いたら頷いていたよ。
「でも、なんで勉強?」
「萬髭、受けてみない?だって、タァ~マの夢の大学寮生活、萬髭で勉強した方が実現性が高くなるよ?」
はっ!そうだね。
瑞穂なら楽しい高校生活を過ごせるだろうけれど、大学進学率はかなり低い。
そこへ行くと萬髭の方は進学校だけあって、殆どの生徒が大学へ進学するのだ。
「タァ~マは大学の寮に入りたいんだよね?それもドラマの舞台の暁空大学に」
「うん」
「あそこは国一番入るのが難しい大学なんだよ?僕もタァ~マと一緒に勉強するから頑張ろう!」
う~ん、ガオって最近できた新しい職業、ホストになったら№1になれると思うよ。
甘~い声でじっくりかどわかす感が強いよ。
お姉ちゃんはあなたの将来が心配だよ。
まぁ、今回の提案は私の憧れの暁空大学の学生寮に行くためには必要だものね。
その話乗った!
その後、ガオの甘い言葉に乗ってはダメだって事が証明された。
頷いたその時から今までのどの先生より厳しい先生に早変わりしたガオに、集中的に講義を受け、寝てても夢の中で勉強するまで追い詰められた。
「ガオォォォ。もう勉強は嫌ぁぁぁ」
「タァ~マ、よく考えてごらん。『君に囁きたい』生活したいんじゃないの?たった1年勉強するだけで実現するかもしれないんだよ?一生勉強じゃなくってたったの1年、お得じゃない?」
ううううう。
ガオって口が上手いんだよね。
そんなこんなで夏休みも冬休みも返上して私たちは吐く程勉強した。
5人一緒に勉強するんだけど、講師はいつもガオ。
一番頭が良いからね。
夏休みと冬休み前の期末テスト、私は散々だったけど、それでも夏よりは冬の方がぐ~んと順位が上がっていたので、またまたガオにおだてられたり、なだめられたりで未だに勉強会は続いている。
ガオたちの担任からはこの勉強会が始まった時に、とっても感謝されたけれど、これって自分の担当でない私が受験に失敗しても自分には関係ないからだよね?
ウチの担当だったら絶対私に萬髭へ行けなんて無茶は言わないと思う。
うがーーー!
3人の成績?
ガオとミソは最初っから安全圏。
ナルは勉強会のお陰でとっくに安全圏に入ってたよ。
だから未だに合否のボーダーラインをウロウロしているのは私だけ。
「タァ~マ、商業高校は受験日が違うから僕も一緒に受ける。だから、滑り止めとして受けよう」
またまたガオの甘言に惑わされて商業高校の受験を先に済ませた。
いつ声を掛けていたのか知らないけれどナルとミソも一緒に受けた。
萬髭の受験はその一週間後。
私が風邪をひかない様に4人とお父さんがとても神経質になり、もし、ウチの4人の幼馴染にお嫁さんが来て妊娠でもしようなら、こんなみんなで寄ってたかって大事にする攻撃に晒されるのかな?なんて思っちゃったよ。
でも、みんなにお嫁さんが来ると考えるとちょっと気持ちが沈んちゃうなぁ。
私はもちろん将来ルタ様や『君に囁きたい』に出ていたイケメン俳優陣の様な旦那様と結婚して、幸せな結婚生活を送る予定だけれど、5人一緒にいられないってとっても寂しいよね。
いやいや、今はそんな事を考えている暇はない!
ガオ先生はとっても厳しいので、一つでも多く過去問を解いて受験に備えなければ滅茶苦茶怒られるよ。
そんなこんなでアッと言う間に1週間が過ぎ、4人揃って萬髭高校へ受験に行く日になった。
「タァ~マ、早く朝ご飯食べて」
「タマ、受験票は持ったか?」
「筆記用具を忘れるなよ」
「頑張って来い」と家を出るまで家族みんなに心配されまくれ、ミソとの待ち合わせ場所に行くとピタっと額に手を当てられ、「うん、熱はないから体調は良いな?」と体調管理までされてしまった。
さぁ、萬髭高校へ乗り込もうかっ!!




