クラブ活動で学校中の羨望の的(真)
美術教室は校舎の端っこにある。
なんか備品が色々と寂れた感が激しい。
カーテンも染みだらけ。
画材の置いてある木棚の端々の角が取れて、場所によっては何時も陽が当たっているから、そこだけ白っぽくなっていたり・・・・。
床にも椅子にも絵具かペンキか知らないが色んな色が染みついている。
これはもう濡れ雑巾で拭いても絶対に取れないと思う。
授業の時は使わないけれど、クラブ活動の時は一人1台イーゼルを使わせてもらえる。
なんかイーゼルの前に立っただけでプロの画家になった気になる。
ふふふふ。
クラブ活動では顧問の先生からお題を貰って、それに沿って自由に絵を描く。
いいねぇ、ノルマも無いし、多少先生のお題からズレた絵でもそんなに怒られない。
先生が出したお題は『好きな人』だった。
こりゃぁもう、私の将来の恋人ルタ様しかないでしょう。
ここで旦那様と言わず、恋人あたりで止めている所に私の奥ゆかしさを感じちゃうよね。
先生が言うには親とか兄弟、友達でもいいんだぞとのこと。
いやいや、私はもうルタ様一択だよ。
私の脳内劇場では颯爽と描き上げたルタ様の肖像画にたくさんの人が見入って、「これは世紀の天才画家だ!」と私を褒めたたえているの図が浮かんでいる。
妄想で弾みをつけ、良い気分のままイーゼルに向かう。
いよいよプロの画家気分が最高潮!
木炭で簡単に輪郭を取る。
最初の絵はデッサン力をつけるために木炭画と言われたので、黒一色でルタ様を表現せねばならず、ちょっと難しい。
木炭画の木炭部分に照りと言うか、濃淡をつけたい時どうするか知ってる?
ふふふふ、正解はパン、それも食パンを消しゴムの様に使うのじゃよ。エッヘン。
食べ物を捨てる様に使う贅沢さに一瞬クラクラと来て、その後は食べ物をおもちゃに出来ちゃう罪悪感が快感に代わり意味も無く木炭を消しては描き、消しては描きを繰り返した後、なぁ~んだコレ、つまんないに落ち着いた。
落ち着いたは落ち着いたんだけど、パンの残りは後わずか。
う~む、もっと消さなくちゃいけなくなった時、どうしよう・・・・。
ルタ様って任侠映画やコミック映画に良く出演するんだけれど、その麗しい皺の多い笑顔にバキューンと撃ち抜かれたんだよね。
若いのに、笑った時だけ深い皺がたくさん出るんだよね。
短髪で一重の目。
う~ん、格好いい。
怒った時の演技はその一重の目で鋭い視線を向けてくるので、テレビの画面越しでも「ごめんなさいっ」と速攻で謝ってしまう自信があるくらい、迫力があるのだ。
なのに笑うとシワシワな顔になる。
ね!カワイイでしょう?
あれ?あれれ?
う~ん、困った。
笑ったルタ様の顔を描いていたら、どうみても82歳のおじさんにしか見えない。
何故だ?
雑誌の切り抜きを見て描いているのにぃ~。
解せぬ・・・・。
「ガラっ」
美術室の戸が開いて、背の低い地味な印象の眼鏡男子が入って来た。
「おっ!タマさん、もう来てたんだね。感心、感心」
エネ美術部長だ。
私は6時限目が終ったと同時に美術室に来たから一番乗りだったのだけれど、たった5人しかいない美術部部員はみんな結構のらりくらりなのだ。
エネ部長が来たのは、私がここに来て優に一時間以上経った後だ。
他の部員さんたちは、毎日はここに来ない。
その点、エネ部長は毎日来るから優秀?あれ?あれれ?
1時間しかクラブ活動をしていなくても優秀なのか・・・・。う~ん。
「タマさん、それ君のおじいさん?豪快な笑顔だね」
むむむ!
なんですとぉぉ。
タマ画伯の名作、『麗しのルタ様』になんというケチをお付けになりやがるっ!
私が答える前にエネ部長はイーゼルの右上に留められた雑誌の切り抜きを見て、「え?あっ、俳優のルタ?」と正解に行き着いた。
そして何とも言えない、思ってもみなかった酸っぱい物を口に入れてしまった様な顔になった。
「先輩!この皺!この皺を表現したいんだけど、白黒だとなんか全体にどす黒くなっちゃっておじいさんにしか見えないんですけどぉ~」
3年だし、部長だし、毎日部室に来ているから、きっと私よりは上手なハズと、何とか私のルタ様をどうやってもルタ様に見える様に改ざんしてもらおうと必死に縋った。
「えっとぉ・・・・。タマさんさぁ、これ、カラーでないと年寄りっぽくなるから、次回、先生がカラーのお題を出した時に描いてみては?木炭画の時はう~んと子供か、う~んと年寄りを描くと雰囲気出やすいかもよ?」
ってかさぁ、先輩、語尾が何故疑問形?
WHY?
私の部活動はこんな感じで、ほぼ一人で美術教室を占有しつつ、数々の迷作を描き上げて行った。
恐らく世界でも有数の多作家だと自負している。コホン。
もちろん顧問の先生からカラーの水彩画へGOサインが出た時、真っ先に描いたのはルタ様だよ。
でもね、問題は色じゃなかったみたい。
だって、カラーで描いてもおじいさんにしか見えなかった・・・・。
そしてガオったらバスケ部で花形選手として活躍し、チームメイトからは尊敬の眼差しを、学校の女子からは憧れと恋する熱い眼差しを注がれ、クラブ活動で学校中の羨望の的となっていた。
あう~。それは私の立ち位置だったはず。ガオめぇぇ~。




