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おやすみなさいのちゅーは基本だよ?
「寝る前にすることがあるでしょ?」
これが彼女の口癖だ。
初めて言われたときには何かまったくわからなかった。
「これよ」
と言って彼女は僕の身体を引き寄せた。
そして唇同士を重ね合わせた。
「おやすみのちゅーは基本でしょ?」
彼女はそう言って布団の中に潜り込む。
最近はそう言われる前に僕からする。
彼女は満足そうに笑みを浮かべて布団に入るようになった。
しかしそんな彼女の笑顔は見れなくなってしまった。
無差別殺人犯に殺されてしまった。
腹部を刺されて呆気なく逝ってしまった。
僕は彼女に寄り添って泣いた。
朝が来ても泣いた。
知り合いが来ても気にせず泣いた。
だんだん涙が枯れてきた。
涙が枯れてキレイに眠る彼女が目に入る。
そこで僕は思い出す。
『おやすみのちゅーは基本でしょ?』
彼女の口癖だった。
僕は冷たい彼女を抱き寄せて唇を合わせる。
「おやすみ」
永久の眠りに付いた彼女を送り出す。




