帽子の話
『さぁさぁ、皆様、こんばんは!私は何でも願いを叶える帽子でございます。皆様、今宵はどのような願いを聴かせてくれるのでしょうか?どんな願いも叶えてみせます!寄ってらっしゃい、見てらっしゃい!きっと、ここを離れた途端、後悔しますよ。さぁ、そこのおねえさん!何でも願いを…………っと、いけない。言い忘れてた。叶えられる願いはお一人につき、お一つまでとさせていただきます。"料金をちゃらにして"なんて言われたら、この商売たまったものじゃありませんからね』
"占い"の看板がかけられた店。喋る黒い三角帽子。近道しようと入り込んだ、薄暗く人気のない路地裏に、帽子の早口で甲高い声が響いていた。
「えぇ、きもちわる」
旅人である私は、ぼそりと呟いた。
『ちょっとちょっと!おねえさん!もしかして、私のことが信じられないと!?』
「あ、っと、私、近道しようとしただけなので…………」
帽子は必死になって私を呼び止めた。
『なら、当ててさしあげましょう。初回得点!お代は結構!あなたは道に迷ってここへ来た!違いますか?』
「べっ、別に!そんなわけ…………!」
ある。
『一目瞭然!明らかな旅人が、知らない町で"近道"なんて、するわけが………』
「ん?"占い"どこいった?」
どうにも、この帽子はツッコミどころが多すぎる。
『ともかく、金貨三枚で願いを叶えてさしあげましょう。さぁさぁ、ほれほれ。あっ、"願いを増やす"も、受けつけておりませんので』
金貨三枚!?ぼったくりか!しかも言葉に遠慮がなくなってきた。
無視して行ってしまおうか、と爪先を進行方向へ傾けた途端、慌てたように帽子が言った。
『ま、まって!トーク料金もらってないよ!あと、願いも聴いてない!ほ、ほら!言うだけ言ってみたらどうだい?あなたの願いは!?』
こいつ、何がなんでもお金をとるつもりか?願いを勝手に叶えて、そしてお金を請求する。詐欺の常套句じゃないか。
私が絶句している間にも、帽子はぺらぺらと言葉を重ねる。
煩い。がめつい。胡散臭い。
そんな帽子に、私は止めの一言を放った。
「黙りなさい」
◇
これは三角帽子を手に入れた魔女のお話。