第89話 国境
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僕たちは新風力車に乗り、トリック独立国上空を東へ移動して、アイビス独立国を目指している。
次の進路にアイビス独立国を選んだ理由は、五つの独立国全てを訪問するのに、引き返したりする無駄がないからである。この後、反時計回りに進めば一番効率が良いのだ。
あと問題があるとすれば、新風力車だろうか。風呂以外は何でも揃っているので快適だが、12畳のLDKが低空飛行をしていれば目立つのだ。今までは人の居ないデス砂漠だから問題無かったが、これ以降は普通に人が生活している区域である。
「皆、ようやく砂漠から解放されるので、新風力車から元の風力車へ戻そうと思うのだけど」
僕の一言に女性陣全員が驚いたようで、一斉に僕を見た。
「お兄様と一緒の空間に、居られなくなるは嫌です」
「トイレが無くなるのは嫌なのだわ」
「旦那様、冷気を循環させる風魔法の訓練ができなくなるのは嫌だ」
「キッチンが無くなるのは嫌っすね」
リゼ、エル、クラウ、カルラの順に反対意見を述べた。
風呂以外何でも揃っている新風力車が快適すぎて、ただの馬車である風力車へ戻るのは難しいようだ。
「うーん、新風力車のままだと、目立ち過ぎるような気がするけど」
そう言って僕は、女性陣の様子を窺う。
「お兄様、どのみち空を飛べば目立つので、どちらも一緒です」
「クリス君、Sランク冒険者パーティーになったのだから、新風力車といえばインフィニティと世界に浸透させれば問題無いのだわ」
「旦那様、エルの言う通りだ。何の心配もいらない」
「クリスっち、新風力車を知ってしまったら、誰も元の風力車には戻れないっすよ」
女性陣が必死に僕を説得している。
「分かった。もし新風力車が問題になるようだったら、そのときにまた考えようか」
「「「「賛成ー!」」」」
女性陣の声がハモって、皆で抱き合い喜びを爆発させている。
「エル、新風力車のまま国境を越えて、アイビス独立国へ入って大丈夫かな?」
「あー、それは問題があるかもしれないのだわ。元々一つだった国が五つの独立国へ分裂したので、独立国同士の仲は微妙なのよね」
「そうなの?」
「ええ。トリック独立国とアイビス独立国も昔は戦争をしていたから、新風力車で空から国境を越えると、侵攻してきたと勘違いされるかもしれないのだわ」
エルが真剣な眼差しで僕を見つめた。
「でも陸上を進むとなると、時間もかかるし山賊に襲われる危険性もあるよね」
「そうね。なら砂漠を使って、国境を越えるのだわ」
「砂漠を使う?」
「トリック独立国とアイビス独立国の国境の半分は、デス砂漠の中にあるのだわ。あの酷暑と魔物が居る過酷な環境を、普通の人間には生き抜けないでしょ?」
「あー、両国ともに国境警備隊が居ない場所なのか」
「そういうことなのだわ」
エルが僕を見て微笑んだ。
「よし、少し遠回りになるけど、デス砂漠を使って国境を越えようか」
女性陣全員が笑顔で頷いた。
「リゼ、トリック独立国で入手した3冊の本は、どうだった?」
「お兄様とレオナが火魔法の特訓をしていた2日間で、エルと一緒に全て読みました」
「トリック独立国でないと調べられない事とかある? このまま国境を越えてしまって良いかな?」
「はい、問題ありません」
リゼが微笑んで僕を見つめている。
「クリス君、トリック独立国の絵本に、リゼがまだ習得していないエクストラブレスに関する記述があったのだわ」
「大発見じゃないか!」
「それがね、そうでもないのよ」
エルが困ったように苦笑した。
「エクストラブレスは、大聖女にしか使えないらしいの。つまり光魔法がSSでなければ使えないのだわ」
「なるほど。残りのブレス、ハイブレスについて調査を続行しようか」
「お兄様、ブレスについてはトリック独立国の魔術書に呪文を発見しました」
リゼが嬉しそうに笑みを零す。
「おお、デス砂漠を抜けてアイビス独立国へ到着したら試してみよう」
「はい!」
リゼが満面の笑みで僕を見つめている。
「後は、ハイブレスか……トリック独立国の大聖女の伝記には、何か手掛かりがあったのかな?」
「お兄様、分裂前のスワロー共和国と、分裂後の五つの独立国では地名が一致しないものがあり、もう少し分析に時間が必要です」
「ふむ、じっくりと時間をかける必要がありそうだね。アイビス独立国に着いたら、僕も3冊の本を読んでみるよ」
その後何回か休憩を取りながら、目立たないように低空飛行でひたすら東へ進むと、夕方頃ついにデス砂漠を抜ける。
どうやら僕たちは、国境を越えてアイビス独立国へ到着したようだ。
何も無い草原に僕は、複合魔法で平家を作り皆で中に入る。
「リゼ、いつものように結界と認識阻害をかけてくれる?」
「はい、お兄様」
僕とリゼは一旦外へ出て、作業を済ませる。
皆、かなり汗をかいたので、先に風呂へ入ってから夕食となった。
野菜サラダ、鶏肉のスープ、2種類のパスタがテーブルに並んでいる。
僕たちは、無事国境を越えてアイビス独立国へ入国できたことを祝し、カルラ特製のフルーツジュースを飲む。
「「「「「乾杯ー!」」」」」
そして昼食を軽くしか食べていなかったので、皆あっという間に完食した。
慣れない砂漠での生活で、精神的な疲れがあったのかもしれない。
食後皆が眠そうにしていたので、早めに寝室へ移動し寝ることにする。
リゼが大聖女に至る日が、また一歩近づいたように思う。
僕は隣でスヤスヤと眠るリゼの頬に、優しくキスをして眠りにつくのだった。




