第84話 3年後の約束
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クラウの頭部袈裟切りにより、巨大ミーアキャットが地面に倒れて力尽きた。
僕が念のため鑑定すると、画面に赤い文字で死亡と表示されている。
「クラウ! 巨大ミーアキャットを剣だけで倒すなんて、凄いじゃないか!」
僕がクラウに近づいて声をかけると、クラウの様子がおかしい。
何だかフラフラしている。
奇麗に避けたように見えて、相手の攻撃が掠っていたのかもしれない。
僕は、慌ててクラウの背中を左腕で支えた。
「クラウ! どこをやられた!?」
「あ……」
「足? それとも頭?」
僕は、クラウに外傷が無いか確認する。
出血は……していないようだが……
「あ……暑い……」
う、熱中症か!? ここはデス砂漠の中央付近、現在の気温は40度を超えているかもしれない。
魔法使いと違い、剣士は動く。
しかもクラウは、パワータイプではなくスピードタイプだ。
素早く動くことで相手を翻弄し、間合いに飛び込み仕留める。
先ほどの戦闘でも、極度の緊張状態であるにもかかわらず、常に動き回っていた。
いくら剣聖様に幼少期から鍛えられていても、クラウは人間である。
人間が気温40度前後の環境で、激しく動き続けるのは不可能なのだ。
「クラウ、気休めだけどヒールをかけるね」
僕の右手から淡い光が流れ出し、優しくクラウを包み込む。
「クリス……ありがと……」
クラウにいつもの元気がまるで無い。急いで処置しないとマズイな。
僕は巨大ミーアキャットを収納ボックスへ入れて、クラウをお姫様抱っこした。
そして風魔法を使い浮上し、低空飛行で新風力車へ移動する。
「ただいま」
「お兄様、お帰りなさい。クラウは、大丈夫ですか?」
リゼが心配そうにクラウを見つめている。
「もしかすると、熱中症かもしれない。リゼ、エクストラヒールをお願い」
「はい! クラウ、いきますよ。エクストラヒール!」
リゼが右手をクラウに向けると、掌から眩い光が飛び出して、クラウの全身を包み込んだ。
「うう……リゼ、ありがとう……少し楽になったかも」
そう言いつつも、クラウが辛そうに顔を歪めている。
光魔法Sのエクストラヒールでも完治しないだと!?
リゼも予想外の結果に困惑している。どういうことだ……
そうか! ヒール系の光魔法は、体力の回復やケガの治療、体内にある病原菌などを死滅させる効果がある。
しかし、熱中症は病原菌によるものではなく、高温な環境に長時間いることで、体温調節機能がうまく働かなくなり、体内に熱がこもった状態だ。
つまり、体を冷やして体温を下げる必要がある。
だけど新風力車には浴場が無いので、平家に移動しなければならない。
「皆、クラウの体を冷やすため平家に移動するから、急いで外に出て!」
僕はクラウをお姫様抱っこしたまま先頭で外に出た。
周囲を確認すると魔物の気配は無いので、複合魔法で平家を作る。
「皆、急いで平家に入って! リゼは結界と認識阻害をお願い!」
「はい、お兄様!」
僕は皆が平家に入るのを確認すると、新風力車を収納ボックスへしまい、クラウを抱っこしたまま平家に入った。
「エル! 浴槽に水を張って!」
「承知したのだわ!」
エルが急いで浴場へ走って行く。
水風呂の準備ができるまでの間に僕は、大きな容器に複合魔法で作った氷を入れて、リビングにいくつか配置した。
「カルラ、ハチミツ入りのフルーツジュースを準備しておいて!」
「了解っす!」
カルラが素早い動きでキッチンへ移動した。
「リゼは、後でもう一度エクストラヒールをかけてもらうから、よろしくね」
「はい、お兄様」
僕がクラウをお姫様抱っこしたまま浴場へ行くと、丁度エルが浴槽へ水を張り終えたようだ。
「エル、ありがとう。クラウの服を脱がせたいのだけど、大丈夫かどうか見てくれる?」
「ええ、少し待ってね」
エルがクラウの服の中を確認している。
「大丈夫、水着を着ているのだわ」
「了解、服を脱がせて水着だけにして」
「承知したのだわ」
僕がお姫様抱っこをした状態で、エルがクラウの上着を脱がしているのだが、汗で濡れた服が肌にくっついて苦戦しているようだ。
ようやく上着を脱がせると、ライムグリーンのビキニトップが現れる。
次にエルがホットパンツを脱がせにかかると、すんなり成功したようだ。
そして僕は、水着になったクラウを浴槽に入れて、溺れないように頭を浴槽の縁の上に置いた。
頭の下にはタオルを敷いて枕の代わりにする。
これで準備が整った。僕は右手を前に出して複合魔法で氷を作り、そのまま浴槽の中にどんどん落としていく。
「よし、氷風呂の完成だ」
「クリス君、こんなに沢山氷を入れて大丈夫なの?」
「大丈夫、高温になった体温を一瞬で冷やすだけだから」
さらに僕は、クラウの額に氷風呂で絞ったタオルをのせる。
少しするとクラウの症状が回復してきたようだ。
「クリス、エル、ありがとう。だいぶ良くなってきたかも」
クラウの表情が少しやわらいだように見える。
「クラウディア、心配したのだわ」
エルがクラウの頬に優しく手を添えた。
「う、寒いかも」
「おっと、冷やしすぎたかもしれないね。すぐに出るよ」
僕はエルにクラウを任せて、空いているスペースに複合魔法で浴槽を作り、ぬるま湯で満たす。
「クラウ、こっちのぬるま湯に入って」
エルに支えられて、クラウがぬるま湯に浸かる。
「おお、温かいな」
しばらくして体温も上昇し、クラウの調子が戻って来たのでリビングへ移動してソファーに座らせた。
「クラウ、大丈夫っすか? はい、ハチミツ入りのフルーツジュース。美味いっすよ」
クラウがゴクゴクと一気に飲み干す。
「ふう、カルラありがとう。元気になったよ」
「いえいえ。ところで、クラウは食欲あるっすか?」
「ああ、お腹空いてきたかも」
「了解っす。今日の夕食は、巨大サソリの肉を使うっすよ~」
大好物の肉と聞いて、クラウが笑みを零した。
「じゃあリゼ、念のためエクストラヒールをお願い」
「はい!」
僕は収納ボックスから、大聖女の杖を取り出してリゼに渡す。
「では、クラウいきますよー。エクストラヒール!」
今日も完璧なキメポーズをリゼが披露し、そして満足そうに破顔した。
「おお、まるで絵本に出てくる大聖女のようじゃ!」
レオナがリゼの光魔法に賞賛を送った。
「ありがとう、リゼ。お陰でアタシの体調も、すっかり良くなったみたいだ」
クラウがリゼの頭をイイコイイコして感謝すると、リゼも気持ち良さそうにしている。
「リゼは聖女だったのじゃな。しかもエクストラヒールを使えるとなると光魔法Sじゃろ? 我が国には、光魔法Aまでの聖女しかおらんから羨ましいのじゃ」
レオナが微笑みながらリゼを見つめていた。
「しかしインフィニティは、凄い冒険者パーティーなのじゃ。クリスの複合魔法、リゼの光魔法、エルの知性、クラウの剣術、カルラの料理、どれも一流じゃな。妾も皆に負けないよう、もっと頑張るのじゃ!」
レオナがやる気に満ちた顔で宣言する。
「レオナたん、自分が得意なのは料理だけじゃないっすよー、裸エプロンなら誰にも負けないっす!」
「裸エプロン?」
レオナが首を傾げてカルラを見た。
「裸エプロンは……」
カルラがそこまで言ったところで、僕たちは急いでカルラの口を塞いだ。
「ちょっ、皆で何するんすか!」
「変なこと教えて、後で国際問題になったら、どうするのさ!」
「へ?」
「レオナは、トリック独立国の第一王女だぞ」
「……あー、すっかり忘れてたっすよ」
僕の説明にカルラがようやく納得したようだ。
この後レオナには、15歳になり大人になったら教えてあげるから、このことを誰にも話さないと約束してもらう。
そして3年後に会う頃には、レオナが忘れていることを祈る僕なのであった。




