第76話 スタンピード
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一日だけで見ると、今までの人生で一番魔力を消費していることに気付いた僕は、魔力切れを心配した。
そういえば検問所を出て、100メートルくらい離れた最前線に移動する間も、不吉なことが起きている。
まずは検問所を出た所で、僕の目の前を黒猫が横切った。
まあ、これは前世でも迷信とされていたから、そこまで気にすることもないのだが。
でもその後、トリック独立国の兵士たちの会話が聞こえてきて『俺、このスタンピードが解決したら、彼女に求婚しようと思う』と盛大に死亡フラグを立てていたのだ。
「まあ、全力を尽くすしかないのだけど」
僕は、正面を見て現実を受け入れる。
予想の100頭を遥かに超える200頭くらいの巨大サソリが、スタンピードを起こして僕の前方約100メートルまで迫っていた。
僕の後方には、10メートルくらい離れた所に、トリック独立国の歩兵隊約千人が控えている。
丁度本隊が地方遠征に出ており、手薄なタイミングだったらしく守る人数が不足ぎみだ。
尻尾に猛毒の針を持っているため、巨大サソリ1頭に歩兵20人で対処するのが普通らしいが、200頭に増えたことを考えると心もとない。
それと2人の歩兵が僕の専属になっている。
不測の事態が起きたときに、僕を抱えて退避するらしいのだが、出来ればお世話になりたくないものだ。
ちなみに巨大サソリの足は、それほど速くない。
一般人がするジョギング程度の速度だが、人が歩くよりは速いので油断大敵だ。
そろそろ攻撃を始めないと、僕が大群に飲み込まれてしまう。
あともう少し、50メートルくらいの距離なら、巨大サソリの弱点である頭部を、複合魔法の爆炎で狙い打てる。
とにかくムダな魔力を消費しないように注意して、魔力切れを回避したい。
まあ、心配しすぎなのかもしれないが。
今まで僕は、魔力切れを起こしたことがないのだから、きっと今回も大丈夫なはずだ。
あと70メートル……60メートル……50メートル、今だ!
「爆炎!」
僕が右手を前に突き出すと、直径1メートルの円がビームのように発射された。
自分から見て一番左側の先頭から、爆炎を当てていく。
そして、徐々に右側へスライドさせていくと、爆炎に触れた巨大サソリがどんどん消滅している。
「よし、いける!」
やっと半分くらい討伐しただろうか、残りあと100頭くらいだ。
大群の前列中央付近まで爆炎のビームが当たっている。
前列との距離は、あと40メートルくらいあるので良いペースだ。
僕は、そのまま攻撃を続けようとしたのだが、突然目の前がチカチカする。
「なんだろうこれ?」
まるで前世のときに経験した、貧血の症状みたいだ。
……もしかして、これが魔力切れの兆候なのか!?
念のため、急がないといけないね。
僕は慌てて右腕をスライドさせて、ビームの横移動を速くする。
これで前列は全て消滅した……終わったか?
視線を中央に戻して戦況を確認すると、右後方にまだ50頭ほど残っている。
ビームの横移動が速すぎて、後方まで届かなかったようだ。
でも前方部分を討伐したことにより、僕との距離は再び60メートル以上ある。
「う、視界がぼんやりしてきた」
僕は、フラついてしまい地面に右膝をつく。
少し呼吸も苦しくなってきたようだ。
あ、視界がグルグルと回っている。
うう、気持ち悪くなってきた……
あれ? 僕は何をしていたのだろうか……思い出せないや……とりあえず横になろう……もう眠りたい……
「おに……」
ん? 何か聴こえる……
「おに……」
誰? もう眠らせて欲しい……
「お兄様ーーー!!」
リゼ!? あれ? 僕は、なぜ地面に右膝をついているのかな? ん? 何か来る……巨大サソリ!
そうか、僕は気を失いかけていたのだな。
リゼの声が聞こえなかったら、危なかった。
しかし、リゼとは100メートル以上離れているはずだけど、なぜ声が聞こえたのだろうか……いや、後で確認しよう。
こうしている間にも残った約50頭の巨大サソリが、どんどん近づいてくる。
距離は……あと50メートルくらいか。
気持ち悪いのは変わりないが、視界はグルグル回っていない。
視界がチカチカしてぼんやりするが、あと一発だけなら撃てるかもしれない。
「クリス殿! これ以上は危険です。事前の打ち合わせ通り退避します」
ああ、お迎えが来てしまったようだ。
でも、国王陛下とレオナに1頭でも多く討伐して欲しいと、お願いされている。
まだ50頭くらいいるのだ、このまま僕が退避すると、歩兵隊に多数の死者が出るかもしれない。
「あと一発だけ撃てるかも……」
「……わかりました。こちらで危険と判断したら、即刻退避しますので」
前列との距離は、30メートルくらい。
視界は、ひどくチカチカして、ぼんやりしているけど、目は回っていない。
目が回る前に早く撃たないと……僕は、一度深呼吸をした。
よし、行ける!
「爆炎!」
右側に残った巨大サソリの前列左側から炎のビームを当てていく。
持ってくれよ僕の魔力!
突き出した腕を右にスライドさせていくと、ビームに触れた巨大サソリが次々に消滅している。
よし、あと半分だ!
そう思ったときに、突然視界がグニャリと歪む。
そして目が回るような予感がした。
仕方ない……僕は最後の力を振り絞って、前に突き出した腕を右に素早くスライドする。
その瞬間に目の前がグルグルと回り、僕は意識を手放した。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
あれ……?
何だろうか……?
ポカポカと暖かい感じがする……
僕が目を開けたら、リゼと目が合った。
「お兄様!」
リゼが寝ている僕の胸に飛び込んでくる。
「ぐはっ!」
まるでプロレス技のように、リゼの全体重が僕の胸にのしかかって、一瞬息ができなかった。
「あああ、お兄様ごめんなさい! 嬉しくてつい、飛び込んでしまいました」
リゼが瞳に涙を浮かべて、僕を見つめている。
そして僕の頬に、優しくキスをしてくれるのだった。




