第73話 おんぶ
たくさんある作品の中から
見つけてくれて、ありがとうございます♪
オアシスの村に宿泊して、一夜が明けた。
僕たちは、朝食を済ませて出発の準備を整える。
「さあ、準備が出来たら最後に、大聖女リーゼロッテのお墓にお別れをしよう」
僕たちは、皆で石碑の前に立つ。
そして手を合わせて、各々がその思いを心に念じる。
僕は、新しい光魔法ブレス、ハイブレス、エクストラブレスを手記に残してくれたことに感謝した。
そして、必ずリゼを大聖女に至らせ、その活動を僕が支えて、守ると誓う。
リゼは一番最後になるまで、石碑の前で手を合わせていた。
たくさん伝えることがあるのだろう。
しばらくして、リゼが手を離して目を開けたので、僕たちは石碑から離れる。
「お兄様、すみませんでした。皆を待たせてしまったようで」
リゼが頬を濡らしながら、申し訳なさそうに僕を見ている。
「いや、問題ないよ。リゼの気持ちを、皆が理解しているからね」
「皆、ありがとう。リーゼロッテ様に、きちんとお別れができました」
リゼが涙を拭いながら切なそうに笑うと、皆が黙って頷く。
僕は、収納ボックスから新風力車を出した。
「さあ、出発するよ。皆、乗ってね」
僕は、先頭で乗り込むと、複合魔法で氷を沢山作り、車内各所に置いていく。
「では、これより北上してデス砂漠を通過し、トリック独立国の首都ストークを目指す」
「「「「了解!」」」」
女性陣の声が揃った。
「あ、でもその前に試したいことがあるんだ」
「クリス君、試したいことって?」
エルが首を傾げて僕を見ている。
「昨日クラウの武力が98になってたでしょ。僕の予想では、魔物を討伐する最後のトドメを刺すと、経験値が沢山入って能力が上がり易くなるのではないかと」
前世で僕がプレイしていたゲームとかでも、そういう設定が多かった。
試してみる価値はあるだろう。
「確かに、その通りかもしれないのだわ」
「それでね、今回試したいのは限界突破なのだけど」
「たしか適性の上限を超える、というものだったような」
さすがエル、以前話していたのを覚えていたようだ。
「うん、今回は上限に達しているエルの火魔法Dが、限界突破をしてCに上昇するかどうかを実験したい」
「カルラも私と同じ状態だけど?」
「ああ、カルラは火魔法の上限であるDに、上がったばかりだからね。それよりも、6年間Dのままだったエルの方が、限界突破が発生し易いと思って」
「なるほど、承知したのだわ。もし限界突破して、私の火魔法がCになったら、あの辛い6年間が無駄にならずに済むのだわ」
エルが微笑んで僕を見ている。
「巨大蟻地獄を討伐しようと思う。火魔法に弱いし、巨大サソリのように獰猛でもないから危険性も少ない」
「そうね、理にかなっていると思うのだわ」
「よし、まずは砂嵐を突破しないとね。リゼ、結界を二重に張って、新風力車の前面と底面以外の防御をお願い」
「はい、お兄様。任せてください」
僕は、昨日と同じように新風力車の前面と底面に上級風魔法を使い、砂嵐への突入に備える。
そして僕たちは、オアシスの村を北上して砂嵐に突入した。
だが、アオシスの村に来るときと違って、視界も倍の20メートル以上ある。
まるで僕たちのことを送り出すように、砂嵐が弱まった感じがする。
「ふう、無事に砂嵐を突破できましたね。お兄様」
「うん、お疲れ様。リゼ」
一度も外側の結界を破られること無く、無事に砂嵐を突破したようだ。
「では、これより上空を飛び、巨大蟻地獄を探す。リゼは一旦、結界を解いてね」
「はい!」
うん、良い返事だ。いつもの元気が戻ってきたみたいだね。
僕も新風力車の前面と底面に維持していた上級風魔法を解除して、車体を複合魔法で上昇させる。
しばらく北上すると、巨大蟻地獄の落とし穴を大量に見つけた。
僕は、少し手前に着陸して外に出る準備をする。
「エル準備は良いかな?」
「いつでも行けるのだわ」
お、エルが滅茶苦茶やる気になっているな。
是非とも限界突破して、火魔法をCにしてあげたい。
「リゼ、大変だけど新風力車の全面を覆うよう、結界を二重に張ってくれる?」
「了解です、お兄様」
リゼが微笑みながら柔らかな表情をしている。
「クラウは、女性陣の護衛をよろしく」
「承知した」
クラウがクールビューティーモードで返事をした。
「では、皆少し待っていてね。実験が終わったらすぐに戻るから」
皆が頷いて、笑顔で送り出してくれる。
外に出て、僕とエルはデス砂漠に立つ。
「うう、凄い日差しなのだわ」
「エル、日焼け止めは塗ってきた?」
「勿論、問題無いのだわ」
エルが自信に満ちた表情で僕を見ている。
「じゃあ、僕がエルをおんぶして飛行するから、火魔法で最後のトドメを刺してね」
「承知したのだわ」
僕は、しゃがんでエルをおんぶする体勢を整えた。
「はい、どうぞ」
「よろしくなのだわ、クリス君。重かったらゴメンね」
「エルが重いわけないじゃない」
僕は、エルをおんぶして立ち上がる。
「ふお!」
「ど、どうしたの!? やっぱり重かった?」
エルが僕を心配して、声をかけてくれた。
いや、変な声が出てしまったのは、僕の背中にエルのHカップが、これでもかってくらい当たっているからだ。
微かにHカップが触れる社交ダンスとは、比べ物にならない。
ぐにょんとしたHカップの弾力が、直接僕の背中に伝わってくる。
おんぶ、最高じゃないか!
「いや、全然重くないよ。少し日差しが目に入ってね」
「そうなの?」
「うん、大丈夫だよ。じゃあ、行くよー」
僕はエルをおんぶして、巨大蟻地獄の落とし穴上空を風魔法で飛ぶ。
「落ちないように、ギュッと掴まってね」
エルが僕の背中に掴まり直すと、Hカップがぐにゅんと当たる。
こ、ここは天国かな? 砂漠の酷暑と背中に伝わる弾力の幸せに意識が遠のく。
……ハッ! いかんいかん! 僕は皆を守らないと、いけないのだ。
砂漠の猛暑になんて負けない! 背中の弾力には、負けるかもしれないけど……
「じゃあ、行くよー爆炎!」
「……消滅したのだわ……」
複合魔法の威力が強すぎて、巨大蟻地獄が一撃で消滅した。
うーん、力加減が難しいね。
火魔法Cの超火あたりで様子を見て、微調整するしかないかな。
「次、行くよー超火! お、良い感じにダメージ入ったね。エル、火魔法Dの業火でトドメを刺して」
「承知したのだわ……業火!」
エルが見事に、業火で巨大蟻地獄にトドメを刺した。
「エル、お見事」
「ありがとう……私が火魔法で、魔物を討伐するなんて……」
「さて、ステータスはどうなったかな」
僕がエルのステータスを表示すると、火魔法はDのままだった。
「ダメなのだわ」
「さすがに1回では難しいね。どんどん行ってみようか」
しかし2回目、3回目、4回目と試してみたがエルの火魔法はDのままだ。
「クリス君、酷暑で意識が朦朧としてきたのだわ」
実験するには、環境が過酷すぎるよね。
僕の背後で、エルの息が荒い。
「よし、これで最後にしようか。エル、あと1回だけ行ける?」
「ええ、あと1回だけなら」
「じゃあ、ラスト行くよー超火! エル、トドメを」
「ラスト行くのだわ……業火!」
「お見事、さてステータスは……おお!」
「うそ! 上がってる! 火魔法の適性上限がDからCになってる!」
【エルネスタ・フォン・リートベルク】
ファルケ帝国 リートベルク侯爵家長女 15歳 女
知力 97/99
武力 45/53
魅力 95/95
剣術 F/F
槍術 G/F
弓術 G/F
馬術 D/D
火魔法 C/C限界突破! (DからCへ上昇)
水魔法 B/S
話術 S/S
算術 S/S
芸術 S/S
料理 E/D
「エル、おめでとう」
「ありがとう、クリス君……」
僕の背中がエルの涙で濡れている。
「あのムダに努力していた6年間が、これで報われたのだわ……」
僕の予想どおり、魔物を討伐する最後のトドメを刺すと、経験値が沢山入って能力が上がり易くなるようだ。
今後、積極的に試しながら検証を重ねていこうと思う。
女神パラスの言っていた限界突破は、本当に存在したのである。
そしてエルは、記念すべき限界突破第1号となった。




