第64話 新風力車
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デス砂漠の夜が明けて、砂漠合宿2日目の朝を迎えた。
朝食が終わった後に皆で作業部屋へ移動し、僕は昨日作成した砂漠用の新風力車を披露する。
「お兄様、運転席がないようですが」
「昨日は運転席が暑くてどうにもならなかったので、運転席を中に設置してみた。皆、乗ってみて」
全員で砂漠用の新風力車の中へ移動した。
「前よりすごく広いのだわ」
「ソファーがあって、まるでリビングのようだ」
「車というより、部屋っすね」
エル、クラウ、カルラの順に感想を述べている。
「12畳のLDKを箱に詰めた感じかな。前方の2畳分が運転席、後方の10畳分がLDKになっている。砂地は走れないだろうから、空を飛ぶことだけ想定した結果、部屋ごと飛ばそうと思ってさ」
「うひょー、キッチンがあるっすよ」
カルラが両手をあげて喜んでいる。
「飛行中にカルラが料理して、皆で食事をすることも可能にしてみた」
「隅の方にあるドアは、何かしら? 気になるのだわ」
エルが不思議そうに首を傾げている。
「ああ、トイレだよ。女性用、男性用一つずつある」
「凄いな、お風呂以外何でもあるじゃないか」
クラウが驚嘆している。
「お兄様、今回は座席の方にも窓があるのですね」
「うん、皆が日焼けしないように窓は無くそうと思ったけど、どこから砂嵐が来るかわからないし、安全面に考慮して小窓を、左右後方に各一つ計三つ設置した」
リゼが運転席の方へ移動する。
「運転席からだと外の景色が、バッチリ見えそうです。しかも、外に大きな屋根が付いていて、日よけになっているのですね」
「そうなんだよ、これなら運転中眩しくないからね」
「座席のソファーで寛ぐもよし、運転席でお兄様と一緒に外の景色を眺めるもよし、砂漠用の新風力車最高ですね!」
リゼが気に入ってくれたようで良かった。
「よし、早速使ってみようか」
僕は、一旦新風力車を収納ボックスへしまい、皆と一緒に平家の外に出た。
「「「「「暑い!」」」」」
あまりの暑さに、皆の言葉がシンクロする。
「今、灯りをつけるね」
僕は、光魔法で周囲を明るくする。
そして平家を土に戻し場所を確保してから、新風力車を収納ボックスから取り出した。
「さあ、皆乗ってね」
僕は最初に乗り込むと、魔法で氷を出し大きめの容器へ入れた。
それを部屋中に配置して、溶けて水になったらまた凍らせる予定である。
「クラウ、冷たい空気は下に溜まるから、定期的に風魔法で室内の空気を循環させて。風魔法の訓練にもなるからさ」
「承知した」
「皆、とりあえず好きな場所に着席してね。この後、すぐに飛ぶので」
僕は一旦外に出て、平家を守っていた外壁を土に戻す。
すると、景色が完全にデス砂漠となる。
照りつける日光が、肌を刺すように暑く感じた。
四方360度どこを見ても地平線まで砂である。
もし僕が魔法を使えなかったら、一日を生き抜くことすら叶わないだろう。
この過酷な環境のどこかに、かつて大聖女リーゼロッテが滞在したオアシスがあるはずだ。
そこに、リゼを大聖女にする手掛かりが、あるかもしれない。
僕は、必ず探し出して見せると決意して、新風力車へ乗り込んだ。
「じゃあ、行こうか!」
皆が揃って頷いたので、僕は運転席に座り新風力車を魔法で浮かせる。
するとリゼが近づいてきて、運転席にある別の椅子を僕の椅子にくっつけて、左隣に座った。
「砂漠の景色を見たいので、隣に居ても良いですか?」
「うん、いいよ」
「ありがとうございます、お兄様」
リゼがにっこりと微笑み、僕に抱きついてきた。
「日焼け止めは、塗ってあるのかな?」
「はい、しっかり塗ってきました」
僕は、新風力車を前に進める。
「リゼは前方から左方向を見て。もし、オアシスを発見したら教えてね」
「はい、お兄様。任せてください!」
リゼが張りきってキョロキョロと周囲を探す。
「アタシも手伝うぞ」
クラウが、リゼの左隣りに椅子を持ってきて座った。
「あれ? 僕の隣じゃなくていいの?」
「出来ることならそうしたいが、今は護衛任務中だからな」
あー、そういえばクラウってリゼの護衛だったね。
ハチミツ事件とかの印象が強すぎて、すっかり忘れていた。
まあ、あれは休憩中のことだから、クラウの中では護衛任務のオンオフが、しっかり出来ているらしい。
僕はクラウのことを、ちょっと見直した。
「あら、私も手伝うのだわ」
エルが僕の右隣りに椅子を持ってきて座る。
「じゃあ、エルは前方から右方向を見て。もし、オアシスを発見したら教えてね」
「承知したのだわ」
「自分も手伝うっすよ」
カルラが、椅子に座る僕の真後ろにやって来た。
「じゃあ、カルラは全方位をよろしく。たまに左右後方の小窓も見てね」
「了解っす」
そして僕の頭上に何か柔らかい物が乗っかる。
こ、これは! カルラの下乳が僕の頭に、ふにゅふにゅと当たった。
下からというのは、レアな感触かもしれない。
おっと、いかんいかん。僕は、砂漠のオアシスを探しているんだった。
いや、心のオアシスなら僕の頭上にあるじゃないか……
「クリス君! 右側に魔物を発見したのだわ」
「へ?」
僕は意識を切り替えて、右側を見る。
すると、大きなエビみたいな赤黒い魔物がいた。
「鑑定してみるね」
【巨大サソリ】
魔物 4歳 オス
知力 25/30
武力 80/85
魅力 30/30
特徴……尻尾の先に毒針を持っている。猛毒であり、刺されたら死を覚悟すべし。獰猛で接近戦には、めっぽう強い。火を唯一苦手としており、火魔法を使える魔術師がいるときに戦うと有利である。決して迂闊に手を出してはならない。遠距離からの攻撃がオススメである。焼いたり茹でたりすると、海老のような味で美味。肉以外の部位も様々な素材として使われ、巨大サソリに捨てるとこ無しと言われている。死後は毒が無効化されるので、毒針に触れても問題ない。
皆が僕に触れて、巨大サソリのステータスを確認する。
「お兄様、猛毒は危険ですね」
「見なかったことにするのだわ」
「今まで迷惑を掛けたからな。今回アタシは、クリスの指示がなければ動かない」
リゼ、エル、クラウの順に皆が警戒モードである。
まあ、無理して戦う理由もないけどね。
「焼いたり茹でたりすると、海老のような味で美味らしいっすよ。是非、味わってみたいっすね」
カルラのこの一言で、女性陣の表情が一変する。
「火魔法Sのお兄様なら余裕ですね。いざとなれば、風魔法で逃げられますし」
「クリス君に見つかるとは、何て不運なのかしら。魔物倒すべしなのだわ」
「旦那様すまない、アタシは海老が大好物なんだ。ここでいい子にしてるから、ご褒美よろしく」
リゼ、エル、クラウの順に全員が警戒モードから殲滅モードへ移行したようだ。
「はいはい、ちょっと夕飯のおかずを取ってくるね」
僕は、新風力車を地上に着陸させて、戦う準備を整える。
「リゼ、念のため新風力車の周囲に結界を二重に張って」
「了解!」
「クラウは、このまま車内で女性陣の護衛をよろしく」
「承知した」
「じゃあ、ちょっと行ってくるね」
皆が笑顔で僕を送り出す。
さて、丁度試したいことがあったのだ。
僕は、今まで思い切り火魔法を使ったことがない。
火災の心配があったり、周囲に配慮が必要だったり、理由は色々だが。
でも今ここは、砂しかない砂漠なのだ。
初めて周りに気を遣わずに火魔法が使える。
僕が歩いて近づいていくと、巨大サソリが気付いたようだ。
体長4メートルくらいの魔物が、一直線に僕へ向かってくる。
ここで僕が使うのは、複合魔法だ。
ドライヤー魔法の効果を、反対にしたもの。
風魔法を火魔法で温めるのではなく、火魔法を風魔法で飛ばすのだ。
相手は討伐すべき魔物である。手加減は必要ない。
僕の魔法は無詠唱だけど、何か技の名称を言った方が格好良いかも。
爆発的な炎が出る火魔法……『爆炎』で行ってみようかな。
そんなことを考えていると、巨大サソリが射程内に入ってきた。
僕は右手を前に出して、掌を相手に向ける。
「爆炎!」
僕の掌から直径1メートルくらいの、炎のビームが放たれた。
それは巨大サソリの頭に命中し、そのまま体内を貫通すると、背後の砂に黒い直線が遠くどこまでも続いている。
そして、唯一残った毒針付きの尻尾が地面にポトリと落ちたのだ。
「あれ? この威力ヤバくない!? まるで人間兵器じゃないか」
思い切り火魔法を使ってスッキリするはずが、何とも複雑な気分になるのだった。




