第58話 モーリッツ・フォン・オルレアンの苦悩
たくさんある作品の中から
見つけてくれて、ありがとうございます♪
通常は、クリストハルトの視点で物語が進行していますが、
今回はモーリッツ・フォン・オルレアンの視点となっております。
【モーリッツ・フォン・オルレアン視点】
私は、オルレアン伯爵家の次男として生まれた。
一つ年上の兄フォルカーと、一つ年下の妹クラウディアがいる。
私たち3人は、幼少期から剣を握り、剣聖である父から剣術を教わってきた。
小さい頃から現在まで、強さの序列に変化はない。
一番が兄、二番が妹、三番が私だ。
そして最近は、その差が顕著になり、私と妹の差は大きく開いている。
3年前に貴族学校で、兄妹全員が通う年があった。
三年生の兄、二年生の私、一年生の妹、剣聖の3人兄妹として注目が集まる。
その年に開かれた剣術大会では、兄が2年連続優勝していたので出場を辞退した。
大会は盛り上がりをみせたが、結果は妹が優勝、私は2位となる。
その後貴族学校では、私の噂もよく耳に入るようになった。
『妹にすら勝てないオルレアン伯爵家の落ちこぼれ』とか『本当は剣聖の子ではない』などヒドイ言われようである。
ふざけるな! と私は言いたい。
自分よりも弱い奴らに、なぜそこまで言われねばならないのだ。
お前らが戦ってみろと言いたい。
理不尽なまでに強い兄、戦いになると別人のように強く速くなる妹。
同じ兄妹なのに、強さの次元が明らかに違うのだ。
気持ちが折れて、何回か剣術を辞めようと思ったこともある。
しかし、それでも私は剣術を諦められず、毎朝剣を振り続けているのだが、3年前に武力と剣術の適性がピタリと止まった。
武力70の剣術A、これが3年前の私の実力であり、現在の実力である。
剣聖である父が武力99の剣術S、兄が武力98の剣術S、妹が武力97の剣術S。
そして、この3人が帝国剣士の第1位、第2位、第3位を独占しているのだ。
父、兄、妹の3人に集まる称賛の声。
一方私には、嘲笑や同情の声が聞こえてくる。
仕事面でも兄妹間での差が出始めており、私の気持ちは、さらに複雑だ。
私の仕事は、帝都で仕事をする父と兄の代わりに領地を守ること、いわゆる留守番である。
兄は、帝都で第一近衛騎士隊長を務めるエリート中のエリートだ。
妹も貴族学校を卒業してすぐに、第三皇子殿下と第一皇女殿下の護衛任務に就いたと、父からの手紙に書いてある。
そんな第三皇子殿下と第一皇女殿下が今、私の目の前に居られるのだが、リゼット殿下は妹クラウディアの部屋へ移動されたようだ。
「大事な話があるので、人払いをお願いします」
クリストハルト殿下が私の母に、ティールームにいたメイドと執事を、部屋から退出させるよう命じられた。
「これから二人には、僕の秘密についてお話します。知っているのは、皇帝陛下とインフィニティのメンバー、リートベルク侯爵家の方々、それと剣聖様とフォルカー殿だけですので、内密にしてください」
「はい、口外しないと約束いたします」
殿下のお言葉に、母が約束を誓った。
「私も決して口外いたしません」
私も殿下に約束を誓う。
秘密とは一体何だろうか?
皇族の秘密を私などが聞いてしまって本当に良いのか、今さらだが不安になってきた。
「実は、僕には女神パラスからもらった、特別な力があるんだ。まあ見てもらった方が早いから、二人とも僕の手に触れてもらえるかな」
「殿下、失礼いたします」
私は、畏れ多いが殿下の左手に触れさせていただいた。
すると、教会で見た人物鑑定のようなものが表示される。
【ロジーネ・フォン・オルレアン】
ファルケ帝国 オルレアン伯爵家夫人 35歳 女
知力 89/91
武力 55/55
魅力 90/90
剣術 F/F
槍術 F/F
弓術 G/F
馬術 D/D
火魔法 A/A
話術 A/A
算術 A/A
芸術 B/A
料理 C/C
これは、母の人物鑑定結果のようだが、なぜ数値が二つあるのだろうか?
私がいつも教会で見ているものは、数値が一つしかなかったはずだけど。
「これは、伯爵夫人のステータスです。僕が女神パラスからもらったのは、『可能性は無限大』という素質を見抜く力なんだ」
素質を見抜くとは、どういうことだろうか。
「左が現在の実力で、右が素質です」
「あら、ということは私の知力は、あと二つ上昇の余地があるのかしら」
「そうです」
「逆に火魔法は、これ以上は上昇しないのですね」
「その通りです。ですが、女神パラスが言うには、『限界突破』というのがあって、鍛え続ければ稀に上昇することがあるそうです。適性が高くなるほど難しいそうですが、AがSになる可能性はありますよ」
殿下と母のやり取りから、私は殿下の秘密を理解した。
これは、すごい力だな!
効率よく鍛錬して、自分の力を最大限に引き出せるわけだ。
私のステータスは、一体どうなっているのだろうか。
「次は、モーリッツ殿のステータスですね」
「はい! 殿下、よろしくお願いします」
【モーリッツ・フォン・オルレアン】
ファルケ帝国 オルレアン伯爵家次男 16歳 男
知力 70/90
武力 70/70
魅力 90/90
剣術 A/A
槍術 C/B
弓術 F/C
馬術 C/B
火魔法 A/A
話術 B/A
算術 B/A
芸術 F/A
料理 F/C
これが私のステータスか……どれどれ武力と剣術の素質は……あれ?
そうか、殿下が本当に見せたかったのは、母のではなく私のステータスだったのですね。
武力と剣術が3年間なかなか上昇しないので不思議だったが、すでに上限に達していたのか……。
私は、無駄な努力をずっと続けていたのだな……毎朝、手のマメがつぶれても、がむしゃらに剣を振り続けて……バカみたいじゃないか……。
気づいたら、私の目からとめどなく涙があふれている。
「殿下、申し訳ありません。みっともない所を見せてしまい」
「そんなことないよ。あなたは、3年間必死に頑張ったのでしょう?」
「はい……」
「どんなに結果が出なくても、決して諦めずに努力を続ける。これは、なかなか出来ないことなんだ。普通の人なら、すぐに辞めてしまうからね」
「ですが……こんな無駄な努力……」
ああ、殿下の御前なのに、拭っても拭っても涙が止まらない。
「モーリッツ殿、あなたの3年間の努力は無駄なんかじゃないよ。女神パラスの言うように限界突破があるのなら、明日剣術がSに上昇するかもしれないし、武力が71に上がるかもしれない。無駄な努力なんて無いと思うよ」
「殿下……」
「モーリッツごめんね。フォルカーやクラウディアみたく、父親似に産んであげられなくて」
母の瞳から涙が溢れている。
「そんな、母上は何も悪くない!」
「でも……」
「母上には感謝の気持ちしかありません。私を産んでくれて、ありがとうございます」
「モーリッツ……」
母が抱きついてきたので、私も抱きしめ返す。
結局、私はその後もずっと泣き続けてしまい、殿下に迷惑をかけてしまった。
そして今、ようやく気持ちが落ち着いてきたところである。
「殿下、お見苦しい所を見せてしまい、大変申し訳ございませんでした」
「いいよいいよ。それにね、僕がモーリッツ殿に伝えたかったのは、武力70で剣術Aが上限ということだけではないからね」
殿下が私に微笑んでいる。
「え? そうなのですか?」
「うん、僕が本当に伝えたかったのは、あなたの知力の高さだよ。右に表示されている素質だけを見たら、あなたがどれほど素晴らしい人物かわかる」
「私が素晴らしい?」
オルレアン伯爵家の兄妹で、剣術が最下位の私が? どういうことだろうか……
「知力90で魅力90は、領地経営にすごく向いている。しかも武力70で火魔法Aと防衛にも向いているから、国境付近の領地を任せられる貴重な人材だと僕は思う」
「私が貴重な人材……」
「勿論、知力が90になったらの話だけどね。これからは勉学に力を入れて、知力90話術A算術Aを目指すと良いかも」
「はい!」
「良かった、モーリッツ殿が前を向けたみたいで」
殿下が満面の笑みを浮かべている。
それにしても、今日は殿下にお会いできて本当に良かったと思う。
もし会えていなければ、私はずっと剣をがむしゃらに振り続けていただろうから。
これからは、知力90話術A算術Aを目指して頑張っていこうと思う。
あ、毎朝の剣術稽古は続けたいな。
だって、限界突破して剣術Sになる未来が、あるかもしれないから。
優秀すぎる兄と妹に挟まれて、辛い幼少期を過ごしたモーリッツ。
貴族学校でも常に兄妹と比較され続けます。しかも自分が一番得意とするわけでもない剣術で。彼は本来、教養学科へ進むべき人材ですが、その才能に気付けるわけもなく、剣術学科で苦しい3年間を送りました。
卒業後クリストハルトに出会えたことで、不遇だったモーリッツの人生が輝き始めます。




