第52話 絶望
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僕は、シアターの町郊外に作った平家で公演8日目以降の秘策を考えている。
エルの試算で、千秋楽まで満員御礼が続いても、劇団メーベルトの借金は完済できないらしい。
これ以上座席は増やせないので、それ以外の方法で、何か売り上げる必要がある。
うーん、カルラのケーキを、お土産にして販売するのはどうだろうか?
ケーキに包装が必要になって、手間とコストがヤバそうだ。
コストを意識するなら、僕が土魔法でグッズを作って、販売するのが良さそう。
となると、大聖女のステッキと杖が良いかもしれない。
森で土魔法を使って作れば、僕の魔力量に問題がない限り、タダで大量生産が可能だ。
後は、公演後キャストによる握手会を開くのも良いかもしれない。
ただ、前世でも問題が多く発生したイベントなので、注意が必要だろう。
不審者に攻撃されても困るので、自分の身を守れる武力の高い人が適任か。
となると、クラウしかいないな。
若い女性に大人気だから、ウケルかもしれない。
「クラウ、ちょっと森まで行ってくるから、皆の護衛をお願い」
「それは構わないが、何しに行くんだ?」
クラウが不思議そうに僕を見ている。
「公演のグッズ販売用に、大聖女のステッキと杖を大量生産しようと思ってさ」
「それなら私が一緒に行って、品質を確かめないといけないですね」
リゼがソファーから立ち上がり、出かける準備を始めた。
カルラは、日替わりケーキのことで頭がいっぱいのようで、ずっとレシピとにらめっこしている。
エルも公演8日目以降の売上問題で、悩んでいるようだ。
「エル、明日から公演終了後に、キャストによる握手会をやろうと思うのだけど」
「握手会?」
僕はエルに握手会の内容、問題点、注意点などを説明した。
「なるほど、そうなると適任者はクラウディアしかいないのだわ。貴族学校でもファンクラブがあったくらいだし」
「本当に!? 握手1回で銅貨1枚の値段設定を考えているけど」
ちなみに、銅貨1枚は前世でいうと千円くらいの価値がある。
銅貨10枚で銀貨1枚になる計算だ。
「良いと思うのだわ。でも私なら女性限定で、ハグ1回銅貨2枚にするわね」
「クラウがやってくれるかな?」
僕とエルがクラウに視線を向けると、微笑したクラウが僕を見ている。
「女性限定のハグなら構わないぞ。でも男はダメだ。アタシがハグをする男は、旦那様だけなんだからね!」
クラウが片眼を閉じて、僕を指さしている。
「どうだ、アタシの魅力にキュンとしただろ? アメリアが教えてくれたんだ。ツンデレとかいう高度なテクニックらしい」
へえ、すでにこの世界には、ツンデレが伝わっているのか。
だが先ほどのクラウは、口調はツンデレっぽいけど、内容についてはもう少し練習が必要かもしれない。今後に期待しよう。
「クラウ、僕にハグして」
「おお! ついにアタシの魅力に気付いたか。ツンデレ最高だな! アメリアありがとう」
クラウが僕をギュッと抱きしめてきた。
まあ、ハグの感触を確かめておかないと、明日の握手会でケガ人が出たら大変だし。
あ、今日は固くないな……中に防具をつけていないからか、Eカップがふにゅふにゅと僕の鎖骨にあたる。
と思ったら、クラウが急に僕を力一杯抱きしめてきた。
「イテテテ! 折れる折れる!」
「ああ、すまない。つい、愛おしくなって力が入ってしまった」
「ハグでケガ人が出ると大変だから、この後エルと一緒に練習しておいて」
「承知した」
僕は、エルにウインクして合図を送ると、エルも僕の意図を察してウインクを返してきた。
後でご褒美に、エルにもハグをしてもらおうかな。
そんなことをしていると、リゼの準備が整ったようなので、僕とリゼは森へ向かった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
風力車で数分移動すると、森の入口に到着した。
僕とリゼは、風力車を降りて少し歩く。
夕方前で、まだ周囲は明るいが暗くなる前に帰りたい。
するとリゼが、僕の左腕にギュッと抱きついてきた。
だが、左腕にいつもの極上な感触がない……もしかしてブラを着用し始めたのか!?
そう言えば、この前エルと一緒に何やら熱心に話をしていたような……
僕は絶望し、心の中でガックリと膝をついた。
「お兄様、二人きりになるのは、久しぶりですね」
「へ? ああ、最近賑やかになったよねえ」
リゼの表情に笑みがこぼれている。
「賑やかなのも楽しくて好きですけど、たまには二人きりで甘えさせて欲しいです」
ぐはっ! リゼが切ない表情で、僕をジッと見つめている。
演技の指導を受けているせいか、一つ一つの仕草がとても魅力的なのだ。
僕は、我慢できずにリゼをギュッと抱きしめた。
「お兄様?」
「たまには二人きりの時間を作って、一緒に出かけるのはどうかな?」
「はい! 約束ですよ」
僕は抱擁を解くとリゼと約束の指切りをする。
そして、大聖女のステッキと杖を魔法で大量に作り、収納ボックスへ入れて平家へ帰った。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
翌日になり、公演8日目を迎えた。
今日も満員御礼で演劇も無事に終了すると、いよいよグッズ販売と握手会である。
「クラウ、握手会よろしくね」
「ああ、任せてくれ、クリス」
今のクラウは、クールビューティーモードのようだ。
大丈夫、いける!
「エルは、クラウの手綱をしっかり握っていてね」
「承知したのだわ」
エルがクスクスと笑いながら僕を見ている。
よし、後は僕とリゼで、大聖女のステッキと杖を販売するのだ。
「リゼは準備できているかな?」
「はい! いつでも大丈夫です」
僕とリゼは、劇場内のグッズ販売所へ移動した。
「大聖女のステッキと杖はいかがですかー! 劇で使用したものと同じ物ですよー!」
僕が大きな声で呼びかけると、4人家族が見に来てくれた。
妹が6歳くらいで、姉が10歳くらいだろうか。
「大聖女のステッキと杖、それぞれ銅貨2枚です。両方購入すると、銅貨3枚に割引しますので、大変お得ですよ」
姉妹が父親に、欲しいとねだっている。
「じゃあ、両方ください」
「ありがとうございます!」
僕は、父親から銅貨3枚を受け取り、妹にステッキを姉には杖を渡した。
二人とも満面の笑顔で、ステッキと杖を高々と掲げている。
「大聖女のステッキまたは杖を購入した人は、大聖女リーゼロッテの元に集まってください!」
リゼが大きな声で姉妹を呼ぶ。
そして、リゼ先生によるキメポーズの直接指導が始まった。
姉妹は楽しそうにマネて、キメポーズを両親に披露している。
それを見た他の子供たちが、親の手を引っ張りながら販売所の前にやってきた。
中にはお年寄りが、孫の土産にと買ってくれたりして、グッズ販売は大成功となる。
それから握手会は9割以上が女性ファンで、エルの予想どおり、ほぼ全員がハグを選択したそうだ。
さらに一度ハグを終えた後に、再び最後尾に並び直す女性も居たりと、大盛況だったらしい。
こうして8日目から千秋楽までの23日間、ずっと満員御礼が続き公演は大成功となる。
劇団メーベルトの借金も完済の目処が付き、僕たちインフィニティは、ほっと胸をなでおろしたのだった。




