第50話 インパクト
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稽古初日の朝、僕は完璧だと思っていた自分の作戦に、落とし穴があることに気付いた。
僕がうっかりしていたのは、インフィニティが30日間の公演に出演した場合、帝都から皇后様の追手がかかり、僕とリゼが見つかってしまう可能性についてだ。
「エル、もし僕たちがメーベルト劇場で公演に出演した場合、皇后様の追手に見つかったりしないかな?」
「大丈夫だと思うのだわ。そもそも追手すらかからないと私は思うけど」
エルが小首を傾げて僕を見つめている。
「どうして?」
「クリス君とリゼの顔を知る人が極めて少数だからなのだわ。その中で敵対しているのは、皇后様と第一第二皇子殿下、それと魔術訓練場の事故で偶然救助活動を見ていた一部の者しかいないのよ」
「たしかに。でも救助活動を見ていた軍人に、皇后様が追手を命じている可能性は?」
「あのとき魔術訓練場にいた軍人は、魔術師団と近衛騎士隊でお父様と剣聖様の部下なのだわ。ほとんどが皇帝派で占められていて、もし皇后様に命じられて追手になる場合、職を辞さないといけないの。そういう者が出れば、お父様が見逃すはずがないし、逆に追手に監視をつけて泳がせるまであるのだわ」
「なるほどね、ありがとうエル」
「どういたしましてなのだわ」
エルが僕を見て微笑した。今日も美しい金髪ロングウェーブがキラキラと輝いている。
どうやら追手の心配は、杞憂だったようだ。僕は、ほっと胸をなでおろす。
そして皆で朝食をとった後、僕たちは風力車で、メーベルト劇場へ向かった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
劇場へ到着すると僕たちは、昨日と同じように裏口から、フランクさんの居る事務所へ移動する。
「フランクさん、おはようございます」
「やあ、おはよう。早速、台本を見せてもらえるかな?」
僕は、昨夜書きあげた台本を、フランクさんに渡した。
「よろしくお願いします」
「はいよ、サッと読ませてもらうね」
フランクさんはソファーに座ると、台本をパラパラとめくっていく。
僕たちはその間に、カルラが考えた日替わりケーキについて議論する。
30種類必要なところ、カルラが頑張ってくれて、40種類の案を出してくれた。
ケーキ好きな女性陣が活発な意見をぶつけ合って、厳選された30種類のケーキが決まる。
そして、フランクさんが台本を閉じて、テーブルの上に置いた。
「良く書けていると思う。必要があればその都度、修正を加えていこう」
「了解です。とりあえず、5人分の台本をコピーしますね」
僕はリゼに手伝ってもらい、コピー魔法を使って5冊の台本をコピーした。
「おお、魔法って凄いな」
フランクさんが驚嘆している。
「まあ、全てを作り出すことはできないので、紙とインクと糸が別途必要ですけどね」
父上に、帝城の倉庫から2割持っていくのを許可されたので、紙とインクと糸もしっかり貰ってきたのだ。
収納ボックス様様である。
「よし、早速稽古を始めようか。劇場の舞台へ移動してくれ」
自分で劇場を所有する強みからか、僕たちの稽古を本物の舞台でやるようだ。
僕たちは、フランクさんの後を追って、舞台を目指す。
階段を昇ったり降りたりしながら、しばらくすると舞台に到着した。
「舞台から見る景色って、凄いですね」
舞台の上から観客席を見つめて、リゼが感激している。
「それでは、君たちの実力を見たいので、台本の最初からやってみようか」
う、昨夜書きあげたばかりで、まだ女性陣に見せていない。
僕は、エルに冒頭部分だけでよいので、台本を読み込んで練習するようお願いした。
後は、時間を稼がないといけないな……ふむ、ここはインパクトで勝負するか。
「フランクさん、その前に大聖女役の振付を見てください」
「振付?」
フランクさんが不思議そうに僕を見ている。
僕は、収納ボックスから大聖女の杖を取り出して、リゼに渡した。
「リゼ、エリアヒールとか、広範囲に光が降り注ぐ感じのをお願い」
「はい、お兄様」
リゼが舞台中央へ移動し深呼吸をする。
そして、大聖女の絵本に出てくる有名な場面の呪文を唱えた。
その後、右足をくの字に曲げながら上げると、右手に持った杖を前方斜め45度に突き出す。
「傷ついた民の身も心も、私が癒します。エリアヒール!」
リゼがキメポーズをしながら、満足そうに破顔した。
すると、劇場内にキラキラと優しい光が降り注ぐ。
「おお! まるで絵本から、大聖女が飛び出してきたみたいだ!」
フランクさんが大絶賛している。
「しかし、このキラキラ光る演出は、一体どうやっているんだ?」
「あー、これは本物の光魔法です」
「本物!?」
フランクさんが驚いて素っ頓狂な声をあげている。
「はい、リゼは本物の聖女ですから。でも、内緒でお願いしますね」
「あ、ああ、分かった」
「では、次は聖騎士役の演武をご覧ください」
僕は、収納ボックスから木剣を取り出して、クラウに渡した。
「クラウ、何か見栄えのする演武をお願い」
「承知した」
「ああ、劇場を壊したり傷つけたりしないように、気をつけてね」
「心得た」
クラウが舞台中央へ移動し、軽く息を吐く。
「参る!」
宣言と同時に動き出すと、瞬時に最高速度に到達する。
僕は、クラウと一緒に剣術の稽古をしているから速さに慣れているが、素人には消えたように見えるだろうな。
「き、消えた……」
案の定フランクさんがクラウの姿を見失い、驚愕している。
その後、緩急を繰り返した動きで、鋭い剣さばきを披露した。
「ふ~、こんなところだろうか」
クラウが動きを止めて、つぶやいた。
「クラウ、お疲れ様。素晴らしい演武だったよ」
「ああ、満足してくれたのなら何よりだ」
僕はクラウと片手でハイタッチする。
すると、劇場内に乾いた音が響く。
「フランクさん、どうでしたか?」
「どうもこうも、こんな動き見たこと無いぞ! まるで剣の達人……剣聖のようじゃないか!」
惜しい、正解は剣聖の娘でした。
「クラウは、本物の凄腕剣士ですからね。では次に、大聖女の料理人役が作った、ケーキをご賞味ください」
「ケーキ?」
以前、ハチミツケーキを作りすぎたときに、収納ボックスへしまっておいたのだ。
そしてこのケーキも、先ほど決まった30種類のケーキにノミネートされている。
僕は収納ボックスから、皿に乗ったハチミツケーキを取り出した。
きちんとフォークも添えられている。
「ほお、良い香りだ」
フランクさんが、一口だけ味見した。
「ふお、焼きたてじゃないか! そしてこの上品な甘さ、いくらでも食べられるぞ!」
「公演中このケーキを、前半と後半の間にある休憩時間に、観客へ振舞う予定です」
「それは名案だが、コスト的にどうなんだ? このケーキは、かなりの高級品とみるが」
フランクさんが、心配そうに僕を見ている。
「材料はたくさんあるので、気にしないでください」
「いや、そういうわけには、いかないよ」
「まあ、僕たちが本当に公演に出ることが決まったら、相談するということで」
「分かった」
「あ、言い忘れてましたが、ケーキは30種類あるので、日替わりで毎日違うケーキを出す予定です」
「凄いな、ケーキだけでも充分話題になるぞ」
よし、インパクト3連発で、かなり得点を稼いだはず。
あとは、肝心の演技力を認めさせれば、いける!
「クリス君、いつでもいけるのだわ」
丁度良いタイミングで、エルが台本の冒頭部分を読み終えたようだ。
「では、最後に第二王子役と家庭教師役の演技をご覧ください」
僕とエルは、冒頭部分を二人で演技する。
僕は思っていたよりも上手くセリフを言えたのだが、それ以上にエルの演技が凄かった。
やっぱりエルの芸術Sは演技の可能性が高い。
「ほお、家庭教師役は素晴らしい演技だ。容姿端麗でスタイル抜群、すぐにでも看板女優になれる逸材だな」
「ありがとうございます」
フランクさんのべた褒めに、エルが照れている。
「第二王子役も悪くなかったぞ」
「はい」
どうやら及第点だったようだ。
稽古初日、インフィニティは最高のスタートダッシュを決めたと思う。
そして初日の勢いそのままに、一週間を乗り切った僕たちは、次の公演に主演することが決まったのだった。




