第48話 メーベルトの書架
たくさんある作品の中から
見つけてくれて、ありがとうございます♪
アメリアの演奏が終わり、人がまばらになってから、僕たちもバイオリンに挑戦してみた。
結果は、エルがそこそこ弾ける以外全滅だった。
エルは幼少期にレッスンを受けていたそうで、アメリアほどではないが、きちんと音が出ていた。
幼少期に僕とリゼは魔法の訓練、クラウは剣術の稽古、カルラは料理の修行を中心にしていたので、弾けないのは仕方ない。
「実際にやってみると難しいものだね。アメリアはすごいよ」
「ありがとう。久々に弾いたけど、楽しかったわ。やっぱり私、バイオリンが好きかも」
アメリアが屈託のない笑顔を見せていた。
先ほど公園で泣いていたのが、噓のようにスッキリした表情をしている。
彼女が毎日心から笑って過ごせる日が、来るといいな。
「アメリア、君には演技よりもバイオリンの才能があると思う」
「そうね、あなたに言われると、本当にそんな気がするから不思議よね。ああ、まだあなた達の名前を聞いていなかったわ。危ない所を助けてもらったのに、私ったら」
僕たちとアメリアは、自己紹介をして打ち解けあった。
そして、楽器屋を出て今は、メインストリートをメーベルト劇場方面へ歩いている。
「そう、全員が冒険者だったのね。その若さでAランクパーティーなんてすごいわ。やっぱりクラウディアがリーダーなのかしら?」
「いや、アタシじゃなくてクリスがリーダーだ。ちなみに、アタシよりクリスの方が強いぞ」
「嘘!? 本当に?」
「まあ、剣術勝負ならクラウディアが一番強いけどね。僕は、剣より魔法が得意だから」
そんな話をしていると、メーベルト劇場の前に到着してしまった。
「事務所に寄っていかない? 父も居ると思うし、公園で助けてもらったお礼がしたいわ」
「お礼は、さっきのバイオリンの演奏で充分だよ」
「そうはいかないわ。きちんとお礼はしないとね」
「じゃあ、君の父上と話をさせて欲しいかな」
「父と? 一体何を話すのかしら?」
アメリアが不思議そうに僕を見ている。
「君が演劇を辞めて、バイオリン奏者としての道を歩めるよう説得したい」
「ええ!? 私、女優を辞めるなんて、言ったかしら」
「では、明日からまた苦しくて楽しくない演技の勉強を、続けたいのかな? これからもあの舞台に、立ち続けたいのかな?」
「う、それは……でも、父が納得してくれるかしら」
「何事もやってみないと、分からないでしょ? アメリアが、余計なことをするなと言うなら、何も言わないけど」
アメリアは、少し下を向いて考え込むと、やがて何かを決心したように僕を見た。
「私からも父に話してみるわ。もしダメだったときは、助けて欲しいかな」
「分かった」
僕たちは建物の裏手から中に入り、事務所へ向かった。
そしてアメリアがドアをノックすると、中から声がする。
「お父さん、ただいま」
「ああ、おかえり」
アメリアがドアを開けて中に入ると、ソファーに座る父親が出迎えた。
「ん? そちらの方たちは?」
「実はね、さっき公園で二人組の男に絡まれてしまって。私を助けてくれた、Aランク冒険者パーティー『インフィニティ』の皆さんよ」
「アメリア、ケガはしていないか?」
「うん、私は平気」
「そうか、なら良かった」
アメリアの父が、ほっと胸をなでおろしたように微笑む。
これから説得するなら、相手のことを知っておかないとね。
僕は、アメリアの父を鑑定してみた。
【フランク・メーベルト】
ファルケ帝国 平民 40歳 男
知力 68/68
武力 70/70
魅力 90/90
剣術 C/B
槍術 G/F
弓術 G/F
馬術 D/C
話術 A/A
算術 C/C
芸術 S/S
料理 D/C
茶髪茶眼でショートヘア、身長170センチメートルくらいで、体型は少しやせ型のイケメンだ。
芸術Sは、演技Sを意味していると予想する。
「インフィニティの皆さん、娘を救ってくれて、ありがとうございます。私は、アメリアの父でフランク・メーベルトと申します」
フランクさんが、ペコリと頭を下げた。
僕たちも5人がそれぞれ自己紹介を済ませて、全員がソファーに座る。
「お父さん、私の話を聞いて欲しいの」
「ん? どうしたのかな?」
アメリアは、フランクさんをジッと見つめている。
おそらく、最初の言葉がなかなか出てこないのだろう。
そして、アメリアが大きく深呼吸をした。
「お父さん、私女優を辞めてバイオリン奏者になりたいの」
いきなりの告白に、フランクさんが目を見開いている。
「そうか、もう限界だよな。アメリア、舞台に立つのが怖いのだろう?」
予想していない返答だったのか、今度はアメリアが目を丸くした。
「なんでわかったの!?」
「俺も役者だからな。それくらい、見ていればわかるさ」
「私ね、やっぱりお母さんみたくは、なれないよ。似ているのは顔だけで、どんなに頑張っても、お母さんみたいな演技は、私にはできないの」
アメリアの頬が涙で濡れている。
「私が無理を言ったばかりに、アメリアには辛い思いをさせてしまったな。すまなかった」
「お父さん……」
「わかった。アメリアは、自分の好きな道を行きなさい」
「いいの?」
「ああ、どうせ次の公演を最後に、劇団メーベルトも解散する予定だしな」
フランクさんが、諦めたように苦笑した。
「解散!? どうして?」
アメリアが驚愕している。
「劇団の借金が膨れ上がってしまい、2か月後に返済できなければ、先祖代々守ってきたこの劇場も手放すことになる」
「どうして言ってくれなかったの?」
「演技で苦しんでいるお前に、こんなこと言えないさ」
「う、それはそうかも……」
アメリアとフランクさんが、黙り込んでしまった。
「え~と話をまとめると、フランクさんはアメリアが女優を辞めて、バイオリン奏者を目指すことに賛成で良いでしょうか?」
「ああ、これからは自分の好きなように生きて欲しい」
「ありがとう、お父さん」
アメリアがフランクさんに抱きつく。
「いいんだ、今まで辛い思いをさせてごめんよ、アメリア」
フランクさんが、アメリアをギュッと抱きしめ返す。
とりあえず、偉大な母を持ち同じ道を強要され、苦悩していた不遇なアメリアを、救済できた。
後は劇団の借金問題か……すると僕は、テーブルの上に置かれた、大聖女関連の本を複数見つける。
どれも今までに見たことのない本ばかりだ。
「これは、大聖女の本ですよね?」
「ああ、今回の演目は、この本を参考にしたんだ」
「見せていただいても、よろしいですか?」
「いや、これはメーベルト家に代々伝わる物なので、そういうわけには……」
「見せてあげて、お父さん。私を助けてくれた人たちなのよ」
アメリアの言葉にフランクさんは、しばし目を閉じて考えているようだ。
「わかった。では、決して口外しないと、約束してもらえるなら」
「勿論です。約束は守ります」
僕は、本を手に取りパラパラとめくっていく。
大聖女に関する絵本が2冊、文献が3冊で、役に立ちそうな記述がちらほら見受けられる。
「フランクさん、これらの本を書き写させてもらっても、良いでしょうか?」
「いや、見るだけならまだしも、さすがにな……」
この旅の重要な手掛かりになりそうな気がする。
どうしても本の内容を写させてほいしが、一体どうすれば……僕は何か名案がないか、思案するのだった。




