第46話 アメリア・メーベルト
たくさんある作品の中から
見つけてくれて、ありがとうございます♪
僕たちは、大聖女リーゼロッテ様の演劇を見るため、メーベルト劇場へ入った。
この劇場は、シアターの町で最初にできたものらしく、長い歴史と伝統を感じさせる、荘厳なつくりとなっている。
運営する劇団メーベルトも、少し前までは人気ナンバーワンだったそうで、僕たちは期待に胸を膨らませた。
一番良いS席のチケットを5枚購入し、いざ入場である。
「思っていたより人が少ないですね」
「そうだね」
リゼが不思議そうに首を傾げている。
今日は千秋楽のようで、僕も満員に近い状況を想像していたのだが、肩透かしを食らった感じだ。
座席は指定席となっており、僕たちは前方の中央に、5人が並んで着席する。
さすがS席である、ここからなら役者の表情などもよく見える。
しばらくすると上映開始のベルが鳴り、いよいよ演目『大聖女リーゼロッテ』の開演だ。
「わあ、大聖女役の女優、すごく奇麗な人ですね」
「本当っすね」
リゼとカルラが感嘆の声をあげている。
確かに、エルにも引けを取らないくらいの奇麗系美少女だ。
これだけの女優が主役を務めているのに、なぜ観客が少ないのか、本当に不思議に思う。
だが、すぐにその理由が分かった。
演技が普通なのだ。決して下手ではないが、良くて中の上といった感じ。
演目自体は、大聖女関連の情報を集めている僕にしたら、興味深いものであったが、一般の観客にはどう見えたのだろうか。
「う~ん、なんか消化不良みたいな感じなのだわ」
「そうだな、なんかこうスッキリしない感じだ」
エルとクラウが不満そうにしている。
結局僕たちは、最後まで観劇してから劇場を後にして、今はメインストリートをゆっくりと歩いているところだ。
気になる店舗があれば立ち寄って、欲しいものがあれば購入する。
美味しそうな出店があれば、試しに買ってみて皆でかぶりつく。
知り合いに会うこともない、シアターの町だからできることだ。
「皆のどが乾かない? そこの公園で、ジュースでも買おうか」
皆が頷くので、公園の出店でフルーツジュースを人数分購入して、ベンチに腰掛けた。
皆でジュースを飲んでいると、一人の美少女がベンチに座り、遠くの森を見つめているのが目に入る。
「あれ? あの人って、さっきの女優さんじゃない?」
「本当ですね、なんか元気がないようですが」
僕の問いに、リゼが心配そうに答えた。
すると、二人組の男がやって来て、何やら声をかけているようだ。
この世界にもナンパがあるのかと見ていると、誘いを断られて逆上した男が、女性の腕を掴んで離さない。
嫌がる女性を強引に引っ張っていくので、これは助けねばと僕が一歩目を踏み出した瞬間に、クラウが飛んで行った。
あっという間に男の間合いに入ると、女性を掴んでいる男の右腕に、手刀を浴びせる。
「痛たた、何しやがるこの野郎! ん? おお、あんたもかなりの美人じゃねえか。ちょうど2対2だし、あんたも一緒に来いよ、可愛がってやるからよ」
口説き文句としては、最悪である。センスのかけらもない。
「絶対にお断りだな。目障りだから、早くどこかへ行ってくれ」
「なんだと! コイツ調子に乗りやがって、痛い目見せてやるぜ!」
ああ、あろうことかナンパ男の一人が、クラウに殴りかかった。
軽傷で済むといいけど……クラウも手加減してね。
ナンパ男の右ストレートがクラウを襲うが、難なくかわすと流れるような動作で、右足を振りぬいた。
これがサッカーの話ならナイスシュートで終わるのだが、今はケンカ中だ。
クラウの右足は、見事にナンパ男の股間を捉えていた。
「ぐあ!」
最後にその言葉を残して、ナンパ男は倒れこみ、泡を吹いている。
クラウの蹴りが股間を捉えた瞬間、鈍い音がしたけど大丈夫だろうか?
「フン! たわいもない」
う~ん、正当防衛のように見えなくもないが、結果を見ると過剰防衛な気がする。
衛兵がきて事件になっても困るので、僕は光魔法を使って、ナンパ男の股間を治してあげた。
すると、もう一人の男がペコペコ頭を下げながら、ナンパ男を引きずって逃げて行く。
「大丈夫だったか?」
「はい、ありがとうございます」
クラウが声をかけると、美少女が微笑みながら答える。
そして、離れた場所で見ていた、リゼとエルとカルラもこちらへ合流した。
「大丈夫っすか? 有名人が、こんな所に一人で居たら危ないっすよ」
「ごめんなさい、ちょっと考え事をしていたもので」
カルラの心配する声に女優が答える。
僕は、女優を鑑定してみた。
【アメリア・メーベルト】
ファルケ帝国 平民 15歳 女
知力 70/82
武力 50/52
魅力 90/90
剣術 G/F
槍術 G/F
弓術 G/F
馬術 F/C
話術 A/A
算術 C/A
芸術 C/S
料理 D/C
あれ? 演劇の舞台で主役を務める女優が、芸術の実力Cっておかしくないか?
まだ、演技を始めて間もないとかなら、わかるけど……。
「考え事とは、演技のことかな?」
「どうして分かるの!?」
僕の質問がビンゴだったようで、アメリアがビックリしている。
「いや、さっき劇場で僕たち見ていたから」
「なるほどね、私の演技にガッカリさせてしまったのなら、ごめんなさい」
「えっと、演技は普通だったと思うよ」
「それは、私たち女優にとって、褒め言葉ではないのだけれど」
あああ、アメリアが下を向いて落ち込んでしまった。
「ええと、アメリアが演技を始めたのって、最近なのかな?」
「いいえ、私が5歳のときからだから、もう10年は演技の勉強をしているわね」
10年演技の勉強を続けて芸術がCなら、おそらく演技の素質はCが上限なのだろう。
この先どれだけ頑張り続けても、演技の実力はCのまま。
前世の僕が高校野球で体験したあの苦しみを、今まさにアメリアは感じているのかもしれない。
前世の自分と同じように不遇な彼女を、僕は放っておけないと思うのであった。




