第41話 自分にできることを
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このままじゃダメだ……巨大蜂の大群を討伐する、起死回生の作戦を考えねば……。
待てよ、魔物鑑定の特徴に記載されてた、軍隊の出動を要請する手は?
巨大蜂に囲まれて、アリのはい出る隙もない状況で、誰が呼びに行けるというのか。
じゃあ、4人が乗った風力車を、リゼの結界で守りながら撤退する手はどうだろうか?
う~ん、風力車は結構重量があるので、巨大蜂を振り切れるほどの速度が出せないな。
それに、巨大蜂を引き連れて移動すると、町に住む民が襲われるかもしれない。
となると、ここで討伐する以外に方法はないのか。
何か必殺技的な上級魔法は、ないかな?
そもそも僕は、戦闘用の魔法訓練を受けていない。
リゼのお世話をしたり、喜ばせたりするための魔法を磨いてきた……。
そうか複合魔法だ!
巨大蜂が苦手な水を使った複合魔法は、ないだろうか?
シャワー、流れるプール、ウォータースライダー、洗濯……。
ん? 洗濯はどうだろうか。
巨大蜂を洗濯すると、羽が濡れて飛べなくなり、機動力を奪える。
1匹ずつ洗っている時間的余裕はないので、全部まとめて洗えないだろうか。
やってみる価値はある、というかこれ以外に思いつかない。
「クラウ、大掛かりな複合魔法を使うから、一旦引いてくれ」
「承知した」
クラウが剣を鞘にしまった。
「リゼは大丈夫?」
「はい、大丈夫です!」
「じゃあ、リゼはそのまま二重結界を維持して」
「了解!」
いつもの甘えん坊なリゼからは、想像もつかないくらい凛々しい表情だ。
そして瞳からは、決して負けないという強い意志を感じる。
「エル! 無理せず、自分が楽な体勢にしてね」
「私だけ戦えなくて、申し訳ないのだわ」
「そんなことないよ、エルは自分にできる最善を尽くしてくれた。元々攻撃陣ではないのに、不慣れな水魔法を連発させた僕の責任だ。すまなかった」
「クリス君……」
僕も自分にできる最善を尽くそう。
勇者のような一撃必殺のチート能力は、僕にはない。
でも、元はGだった適性を努力してSまで上げた。
しかも四大魔法すべてを。
僕の複合魔法で明確にイメージさえすれば、できないことはないはずだ。
「いくよ~!」
僕は意識を集中させて、巨大蜂すべてを洗濯するイメージを明確にする。
リゼの結界内部から、外に張り付いている個体を、引きはがすように水の膜を押し上げていく。
「おお、巨大蜂が全部、結界から離れたぞ」
クラウが驚駭している。
僕は、そのまま水の膜を押し上げつつ、地面にも水の膜を作った。
そして地上にいる個体を、全部持ち上げることに成功する。
さらに空にも水の膜を作り、下降させて空中を飛ぶ個体を追い詰めた。
最後に四方の側面に水の膜を作り、中心へ向けて移動させ水の膜による箱が完成する。
箱の中には、最初に作って押し上げた水の膜も詰め込んだ。
僕は完成した水の箱をさらに小さくする。
箱の中では、自由に飛べなくなった巨大蜂が、うごめいていた。
僕はここぞとばかりに、箱の中に大量の水を作り出し満杯にすると、風魔法で一気にかき回す。
巨大洗濯魔法の完成である。
「できた! このままいけば窒息する可能性もあるね」
「クリス、これって洗濯魔法?」
「そう、良く気付いたね、リゼ」
「こんなふうに応用ができるなんて、すごいわクリス!」
リゼが僕のことを褒めてくれた瞬間、洗濯中だった水の箱に亀裂が入る。
嘘だろ……まだ洗濯開始から1分と経っていない。
複数の巨大蜂が嚙み砕いたか、毒針で刺しまくったのか……。
そしてついに水の箱は破壊され、中から300匹前後の巨大蜂がボトボトと地面に落下する。
「う、うそ……」
リゼが驚いて目を見開いている。
「大丈夫、これで飛べないはず。機動力さえ奪えば、後はトドメを刺すだけだ」
僕は、地面に落ちてうごめいている巨大蜂を観察する。
飛べる個体は、1匹もいないようだ。
しかし、全部の個体が諦めることなく、リゼの結界を目指してズルズルと前進してくる。
まるでゾンビのようだ。
「信じられないのだわ。飛べなくなっても戦意を喪失しないなんて」
「な、なんか怖いですね」
エルとリゼもドン引きである。
さあ、仕上げと行きたいが、どうしたらよいものか。
火魔法は、森林火災になる危険がある。
水魔法は、これ以上使っても無駄だろう。
土魔法で叩き潰すとかは……クラウの剣ですら、固くて切り裂くのが大変そうだったのだ。
となると風魔法で、剣のように切り裂くしかないか。
「風魔法で切り裂いてみるよ。効果があれば良いのだけど」
「良い作戦だと思う。頑張れよ、クリス」
僕は、クラウの応援に頷いて答えると、初級の風魔法ウインドカッターを試してみた。
すると、あっさり固い外皮に弾かれてしまう。
これは、上級風魔法の連打しかないな。
特に技の名前があるわけではないが、上級風魔法でもう一度切り裂いてみた。
「おお、真っ二つじゃないか。いけるぞクリス!」
クラウが歓喜を爆発させていた。
「クリス! 頑張れ!!」
そしてリゼが、大きな声で僕を鼓舞する。
すると僕の中に、温かく優しい何かに包み込まれるような心地よさを感じた。
力が湧いてくる!
僕は、リゼの瞳を見つめて頷いた。
こうしている間にも、少しずつ巨大蜂が近づいてきている。
僕は先ほどと同じように、上級風魔法を使う。
一つや二つではない、巨大蜂の真上から下へ向けて、縦に横にと連打した。
まるで、まな板の上に巨大蜂を置いて、包丁で縦に横にと乱打する感じで。
すると巨大蜂の大群は、だんだんと姿を変えていく。
僕は、原形をとどめている個体が無くなるまで、ひたすら上級風魔法を撃ち続けた。
「ハア、ハア、ハア……動いている個体は?」
こんなに魔法を連打したのは、初めてだ。
胸が苦しい……。
皆が前方を見つめている。
前方の景色に、一切の変化がない。
「やったみたいだね」
どうやら巨大蜂の大群を、討伐できたようだ。
その瞬間、皆が集まってきて、僕は揉みくちゃにされる。
インフィニティのメンバーが、誰一人欠けることなく戦いを終えられて、僕は安堵したのだった。




