第37話 初めての依頼
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合宿を終えた翌日の朝、朝食を済ませて僕たちは、庭に集合している。
「クリス君、クラネルト公爵領への移動手段は、どうするのかしら?」
「旦那様、本来なら乗馬か馬車での移動になるが、ここには馬がいないぞ、どうするのだ?」
エルとクラウが、心配してくれているようだ。
「大丈夫だよ、風魔法を使うから」
「風魔法って、まさか空を飛ぶ気じゃないでしょうね!?」
エルが不安げに僕を見ている。
「それも考えたけど、途中で魔力切れを起こしたら、全員落下して大惨事になるからやめたよ」
「そう、ならいいのだわ」
エルがほっと息を吐いて、安堵しているようだ。
「そこで、僕が考え出した『風力車』を見て欲しい」
僕は、収納ボックスから風力車を取り出した。
リートベルク侯爵家の馬車を参考にして、合宿中に土魔法で作り、改造を繰り返したのだ。
帝国の書庫にあった乗物大全集の記述も、かなり役立っている。
「キャビンしかないのだわ?」
「馬に引かせるわけじゃないからね。キャビンの前方に運転席があるので、そこに僕が座って操作する」
「酔わないっすかね?」
「基本は、地面から30センチメートルくらい浮かせて移動するから、揺れたりしないよ」
エルとカルラも納得したようだ。
「さあ、乗って乗って、出発するよ~」
僕は、皆が風力車に乗り込んでいるときに、合宿中皆で暮らした平家を、壊して土に戻した。
「なんか勿体ないっすね」
「誰かが勝手に住みついても困るからね、仕方ないかな。じゃあリゼ、結界と認識阻害を解除して」
「はい、お兄様」
こうしてインフィニティの合宿地は、ただの草原へと戻った。
「皆、準備はいいかな?」
皆が頷いたので、いよいよ隣町のクラネルト公爵領へ移動開始である。
「出発!」
僕は運転席に座り、風力車を浮かせると徐々に加速して、大草原を駆け抜けた。
「旦那様、道路を走らないのか?」
「帝都の近くだから、馬車も通行人も多いからね」
「たしかにな」
「なので、行けるところまで、このままでいくよ~」
結局、クラウの心配をよそに、通常馬車で丸一日かかる行程を、わずか1時間ほどで走破した。
ちなみに、道路上を走ったのは最後の5分くらいだ。
僕たちは、検問所を通過してクラネルト公爵領の中心都市シーガルへ到着した。
検問所では、早速冒険者カードが役に立った。
あれこれと詮索されることもなく、通行税も無料、作っておいて大正解といえる。
僕は、全員が降りたのを確認すると、風力車を収納ボックスへしまった。
「皆、冒険者ギルドまで徒歩で移動するよ。途中の店で、不足している食料や雑貨を買い足そう」
「了解っす。クリスっち、生肉が無いので補充したいっすね」
帝城から持ってきた生肉は、初日のバーベキューで食べつくした。
それ以降は干し肉を食べていたが、11歳から15歳の少年少女である、皆焼肉が大好きなのだ。
ここで生肉を大量に確保したいところだよね。
それと、実験的に収納ボックスに保存しておいた生肉は、1か月経過しても一切劣化していなかった。
さすが女神パラスのお気に入り、大容量だけでなく高性能。
「大丈夫、生肉はこれから受ける依頼で手に入るよ」
「依頼っすか? まさか、いきなり魔物討伐とかしないっすよね?」
カルラがジト目で僕を見ている。
「大丈夫、僕たちはCランクパーティーだよ。難易度B以上とされる魔物討伐も受けられる」
冒険者ギルドのガイドブックは、全部目を通した。
Cランクパーティーなら一つ上のBランクまでの依頼を受けられる。
「いや、受けられるとかキメ顔で言われても困るんすけど。失敗したら死ぬっすよ」
カルラが心配していると、冒険者ギルドへ到着した。
もう昼前の時間なので、受付のある一階は閑散としている。
聞いた話では、朝と夕方は混雑するらしい。
僕は、一直線に受付へ進み、受付嬢に話しかけた。
「依頼を受けたいのですが」
「冒険者カードを拝見いたします」
僕は、Cランクパーティーの記載がある冒険者カードを提示した。
「Cランクパーティー!?」
受付嬢が驚いている。
まあ、こんな少年少女のパーティーなんて、普通は最低ランクのGか、よくてFくらいなのだろう。
「失礼しました、受付を担当しておりますヘルマと申します。難易度Bまでの依頼が受けられますが、あと2か月以内に達成できないと、Dランクへ降格となりますので、ご注意ください」
受付嬢のヘルマが丁寧に説明してくれた。
20歳くらいの茶髪ショートヘアで、仕事のできる美人お姉さんといった感じ。
身長は160センチメートルくらいで、胸はCカップくらいかな。
まあCからDカップくらいがこの世界の平均だと思うので、決して小さくはない。
インフィニティのメンバーが、大きすぎるのだ。
「魔物討伐の依頼は、ありますか?」
受付嬢の表情が、ひきつっている。
「ええと、初めての依頼が魔物討伐というのは、前例がないかもしれません」
まあ、内心は『なめたこと言ってんじゃねーぞ、ガキども』ってところだろうか。
「優秀なパーティーということで、Cランクからのスタートなのでしょうけど、それでも皆さん最初は簡単な依頼から始めますよ」
「大丈夫、危険と判断したら逃げて帰ってくるので」
「ええと、依頼に2回続けて失敗すると、降格になりますのでご注意ください」
「なるほど了解です」
これだけ説明しても僕の気持ちに変化がないと諦めたのか、受付嬢はため息をつきながら討伐依頼の資料を、カウンターの上に置いた。
「現在のBランク依頼は、巨大蜂、巨大蛙、巨大牛、巨大豚、巨大鶏の5つです」
この世界の魔物は、動物が突然変異で巨大化し、魔力を宿し狂暴になったものらしい。
そして名称の前に漏れなく『巨大』がつく。
まあ、日本語の使える世界だからなのか、和風な感じの名称だ。
もしくは、女神パラスが管理する世界なので、パラスが適当に付けただけの可能性もある。
「皆、どれが良いかな?」
「「「「牛肉!」」」」
満場一致で女性陣全員の意見が重なった。
魔物とはいえ、元は動物なので、肉の味に変化はないらしい。
焼肉に飢えた皆が、巨大牛ではなく牛肉と思わず言ってしまったようだ。
「牛肉? ええと、巨大牛でよろしいでしょうか?」
受付嬢が再び顔をひきつらせて、確認を求めてきた。
「はい、巨大牛でお願いします」
「こちらは、すでに2組のパーティーが挑戦して、全て失敗に終わっております。死傷者も出てますが、よろしいでしょうか」
受付嬢が物騒なことを言う。死者が出てるとかヤバイのでは?
もう一度、皆の方を確認すると、全員瞳をキラキラとさせている。
ああ、これは死傷者の話とか耳に入っていないな。この後の焼肉パーティーを妄想中のようだ。
まあ、僕とクラウが協力して戦って負けるようでは、すでにこの世界は魔物に支配されているはず。
油断は禁物だけどね……。
「心配してくれてありがとう。でも、巨大牛でお願いします」
受付嬢は、苦笑しながらカウンターの引き出しを開けて、書類を取り出した。
「危険を感じたら、すぐに逃げてくださいね。私の弟が、あなたと同じように15歳のころ、冒険者になって亡くなってしまって。剣術の才能があると、将来を期待されていたのですが。どんなに才能があっても、魔物討伐は一瞬で命を落とします。もう弟と同じことが起こるのは、耐えられません」
この人は、弟さんを亡くしていたのか。
話から推測するに、おそらく若くしてCランクパーティーに在籍し、Bランク依頼の魔物討伐で命を落としたのだろう。
僕の姿が、弟さんと重なったのかな。
「危険だと思ったら、すぐに引き返しますね。忠告してくれてありがとう」
僕は、受付嬢から魔物討伐依頼の書類を受け取ると、インフィニティのメンバーと共に魔物討伐へと向かうのだった。




