第30話 検問所
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僕たち五人は、馬車に乗り込み帝都の検問所を目指す。
そこで僕は、何か忘れているような違和感を覚える。
「あっ!」
僕の声に皆が驚いて、こちらを見ている。
「お兄様、どうしたのですか?」
「僕の冒険者カードを、作り忘れているのに気付いてね」
「お兄様が忘れ物なんて珍しいです」
「急いで作ってくるから、申し訳ないけど皆、少し待っていてもらえるかな?」
皆が頷いてくれる。
ギルド長と同じで、僕もエルネスタ嬢の魅力にやられてしまったようだ。
これから旅に出て外国を渡り歩くのに、冒険者カードは必須である。
気を引き締め直さないとな……。
「それからクラウディア嬢、不審者がいるかもしれないので、警戒して欲しい」
「はっ、承知いたしました」
僕は、クラウディア嬢に皆の護衛を頼み、急いでギルド長の部屋へ戻った。
そして、ドアをノックすると中からかすれた声がする。
「ギルド長、入りますよ」
僕は遠慮せずに、ドアを開けて部屋に入る。
すると、ギルド長は椅子から立ち上がり、ようやく再起動を開始したようだ。
「おう、どうした皇子」
「僕の冒険者カードを作り忘れていたので、戻ってきました」
「マジか、それは申し訳ないことをした。いやあ、最後のあの美少女に、完全にやられちまってなあ」
「わかります、僕もそのせいで、うっかり冒険者カードを作り忘れたので」
僕とギルド長は、お互いの顔を見ながら苦笑する。
その後、速やかに僕の冒険者カードを作成してもらった。
「ギルド長、ありがとうございます」
「いや、俺の方こそ迷惑をかけちまって、すまなかった。他に何か、必要なものがあるか?」
「そうですね、冒険者ギルドのガイドブックみたいのがあれば、欲しいのですが」
「何種類かあるが、どれにする?」
ギルド長の話だと、冒険者の心得から始まり、依頼の受け方報告方法、各国各都市ごとの冒険者ギルド情報など多岐にわたる。
「全部ください」
「おう、そりゃあ構わないが、全部有料だぞ」
「大丈夫です」
「えーと、全部で銀貨4枚だな」
「はい、じゃあこれで」
「確かに、丁度だな。まいどあり! しかし、皇子よ」
「ギルド長、僕も今日から冒険者です。僕のことは皇子じゃなくて、クリスって呼んでください」
「おう、わかったぜ。クリスよ、俺のこともライナーって呼んでいいぜ」
「はい、ライナーさん。今日は、いろいろありがとうございました」
「いやいや礼を言うのは俺の方だって。クリス今日はありがとな、良い目の保養になったぜ」
僕は、ライナーさんとガッチリ握手を交わして部屋を出ると、皆の待つ馬車へと急いだ。
「お待たせ!」
「お兄様、おかえりなさい」
馬車へ戻り中へ入ると、リゼが抱きついてきた。
「クラウディア嬢、何か変わったことは?」
「特にございません、殿下」
クラウディア嬢が、凛とした顔つきで答えた。
さすが剣聖様の娘、本当に頼りになる人だ。
「殿下、検問所に向かってもよいのかしら?」
「うん、よろしくねエルネスタ嬢」
エルネスタ嬢の指示で御者が、検問所へ馬車を走らせる。
移動の途中、リゼが僕の左腕に抱きついて離れなかったが、馬車が揺れるたび良い具合にAカップが腕に当たるので、凄くドキドキした。
しばらくして馬車が停車する。
どうやら検問所に到着したようだ。
僕たちの乗っている馬車は、順番待ちをしている馬車の後ろへ移動した。
「いつもより進みが遅いのだわ」
「そうなの?」
「はい、今並んでいるのは、貴族用の検問所なので、普段ならとっくに通過しているのだわ」
一つ一つ全ての馬車を調べているのだろうか?
何のために?
もしかして皇后様の差し金か!?
「エルネスタ嬢、検問所で僕と妹を探している可能性がある」
「なぜ皇子と皇女を?」
「この旅は、皇帝陛下の指示で国家プロジェクトとされている。その反対勢力が、それを阻止すべく動いているのかもしれない」
「そんな……」
エルネスタ嬢が驚いている。
「エルネスタ嬢、僕と妹が見つかることなく、検問所を通過したいのだけど……」
「この状況で!?」
エルネスタ嬢は、しばらく目を閉じて、何かを考えているようだ。
「承知しました。やれるだけ、やってみます。私に任せて欲しいのだわ」
そして、ついに僕たちの番がやってきた。
検問所の兵士が馬車の窓をコツコツと叩いている。
「どうしたのかしら?」
エルネスタ嬢が小窓を開けて返事をした。
「只今全ての馬車に対して、荷物と人の確認をさせていただいております!」
「そんなのお父様は、何も言ってなかったわね」
「馬車のドアを開けてください。乗っている人の確認をいたします!」
まずいな……いざとなったら魔法を使って、強引に突破するしかないか。
でも師匠の馬車でそんなことをしたら、リートベルク侯爵家に迷惑がかかるよな。
ここは、エルネスタ嬢に賭けるしかないか……。
「ちょっとあなた、このドアの紋章が見えないのかしら?」
「これは……リートベルク侯爵家の紋章……魔術師団長のお嬢様でしたか!」
「私はお父様に、緊急の用を頼まれているの。一刻を争うのよ!」
「しかし、全ての馬車を調べるように命じられておりまして」
「聞こえなかったの?」
「は?」
「一刻を争うのよ! あなたのせいで、助かる命が助からなかったら、どうしてくれるの!?」
エルネスタ嬢は嘘をついていない。
ここでゆっくりしていると、僕とリゼの命が助からないかもしれないのだ。
「そ、それは……」
「早くここを通しなさい! これ以上の妨害をするなら、お父様にあなたのことを報告します!」
「う、それは……」
「あなたの所属と名前を言いなさい!」
「いや、あの……」
「さあ、早く!」
「も、申し訳ありませんでした! このまま、お通りください」
おお、迫真の演技。
さすが師匠の娘、知性だけでなく度胸もある。
エルネスタ嬢には、大女優の素質があるのでは?
たしか芸術適性の素質がSだったような……。
「話が通じてよかったわ、ありがとう」
エルネスタ嬢が、とびっきりの美少女スマイルを兵士に向けている。
あっ、窓からチラリと兵士の顔が見えたが、にやけた締まりのない顔をしていた。
最後のフォローも完璧だ。
「ふう、何とかなったのだわ」
エルネスタ嬢の一言の後、馬車の中では皆の拍手が鳴り響いた。
「な、なにかしら?」
「エルネスタ嬢、ありがとう。あなたのお陰で、僕と妹は助かりました」
「いえいえ、上手くいってよかったのだわ」
そう言ったエルネスタ嬢の手が、震えていることに僕は気がついた。
するとクラウディア嬢が、エルネスタ嬢の手を取り両手で包み込む。
「エルネスタは、昔から家族以外の男が苦手だったのに、よく頑張ったと思う」
「クラウディア……」
さすが親友同士、仲が良い。
しかしエルネスタ嬢は、家族以外の男が苦手だったのか。
あれ? 僕も一応、男なのだけど……。
「エルネスタ嬢、僕も男だけど苦手じゃないの?」
「ええと、殿下は弟みたいな感じがして平気です」
エルネスタ嬢が僕に微笑んだ。
弟か、三つも年下だと、子供扱いされてしまうのだな。
僕はリゼの兄として、5年間頑張ってきた自信があったのだけど……。
弟と言われて、なんだか複雑な気持ちである。
兎にも角にも、こうして僕たちの馬車は、無事帝都の検問所を通過したのだった。




