第27話 クラウディアの夢
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剣聖様やフォルカー隊長と毎日剣術訓練をしているクラウディア嬢に、普通に剣を交えて戦ったところで無意味だろう。
それに剣術の実力差がありすぎて、剣が交わった瞬間に、僕の剣は弾き飛ばされるに違いない。
となると剣を交えること無く、彼女の首に木剣を添えるしかないかな。
クラウディア嬢が全力でくる以上、僕も持てる力の全てを出すべきだ。
でも、ここは剣聖様の屋敷である。
ここが剣術訓練場や魔術訓練場なら、なりふり構わず魔法を使い、勝ちに行くけれど。
火魔法はダメだな、屋敷や庭が大変なことになる。
水魔法や土魔法も影響がありそうだ、飛び道具全般がダメといったところか。
となると風魔法しかないが、風も飛ばして攻撃すれば同じことになる……。
いや、待てよ、風で自分の体を運ぶというのは、どうだろうか。
おそらく彼女の武器はスピード、それも剣聖様を上回るぐらいと予想しておいた方が良い。
となれば僕は風魔法を自分に使い彼女のスピードを超える必要がある。
スピードにはスピードで対応するのだ。
「さあ殿下、覚悟は決まりましたか? うふふふっ」
「ああ、いつでも行けるよ」
「それでは、試合を始める前に確認する!」
剣聖様が大きな声で告げた。
「この試合は、真剣の使用を禁止とし、木剣のみ使用可能とする。また、それ以外はなんでもありの決闘形式とするが、相手を重症にする急所への攻撃は禁止です。そして、殿下が勝利したときは、クラウディアを旅に同行させることができ、クラウディアが勝利したときは、旅に同行せず帝都に残る。お互い、以上でよろしいか」
「「はい!」」
僕とクラウディア嬢の返事がシンクロした。
おそらく勝負は、一瞬で決着する。
知力25の彼女が心理戦を仕掛けてくるとは思えない。
開始直後、一直線に僕の首に木剣を添えにくるはず。
それなら僕も開始直後に、上級風魔法を発動させて勝負をかける。
僕は深呼吸をしてから、一度試合の流れをシミュレーションした。
理論上は、いけるはず。後は僕が魔法を上手く使いこなせるかどうか……。
迷ったらダメだ。集中しよう……。
よし、いける!
「では……始め!」
剣聖様の合図で試合が始まった。
予想通りクラウディア嬢が、僕に一直線に突っ込んでくる。
すごい迫力だが逃げちゃダメだ。逃げた瞬間、負けが確定する。
僕も開始の合図と同時に前へ出た。
しかし真正面からではなく、僕から見て彼女の左側へ、上級風魔法を自分の体へ使い、最大加速で突っ込む。
そして彼女の横を通過した所で、風の向きを変えて最大減速をかけ、体の向きを彼女へと微調整する。
このとき、首が折れるくらいの負荷がかかると予想していたので、首周りを別の風魔法で支えた。
ここまでは上手くいっている。
おそらく彼女の視界からは、僕が消えていて必死に探しているころだ。
左か右か上かって感じで……。
その後、再び上級風魔法を自分の体へ使い、最大加速で彼女の背後を取る。
このまま行くと、ぶつかってしまうので微減速して彼女と同じスピードにした。
そして僕は、クラウディア嬢の首筋に優しく木剣を添える。
「はい、チェックメイト」
「なにっ!?」
クラウディア嬢が、驚いて振り向いた。
「勝負あり! 勝者、クリストハルト殿下!」
剣聖様の宣言後、庭は静寂に包まれている。
正確には、わずか数秒で決着がつき、両者の動きが見えなかったのだろう。
「な、なんだと! このアタシが魔術師相手に負けるなんて……」
クラウディア嬢が驚愕している。
「殿下、一瞬で姿が消えたけど、いったいどうやって……」
疑問に思ったクラウディア嬢が質問してきた。
「い!」
「い?」
「いたたたた!」
無理な急加速、急減速を繰り返した反動なのか、僕は体中が痛くて、地面を転げまわった。
まるで空になったペットボトルを握り潰された感じである。
転生してから一番の痛みだ。
いや、痛みなんて生易しいものではない、超がつくほどの激痛である。
「お兄様!」
慌ててリゼが僕に近づいてくる。
「今、エクストラヒールをかけますね」
そしてリゼは、着ているエメラルドグリーンのワンピースを探っている。
「あっ、お父様に魔法のステッキをあげたのでしたね」
今頃、父上の家宝として、帝城の宝物庫に展示されているだろう。
リゼは、いつものキメポーズをとらずに、右手を前に出している。
「エクストラヒール!」
僕の体にキラキラと優しい光が降り注ぎ、超激痛からようやく解放された。
「ありがとう、リゼ」
僕が御礼を言いながら立ち上がると、リゼが僕の胸に飛び込んできた。
「お兄様! 大丈夫ですか?」
「うん、リゼのお陰でもう平気だよ」
「えへへ」
嬉しそうにリゼが僕にぎゅっと抱きついてきた。
すると、リゼのAカップがムニムニと僕の胸に当たる。
ああ、エクストラヒールよりも癒されている気がするのは、気のせいだろうか。
その後、庭にある東屋へ戻り、再び先ほどと同じ並びで円卓に着席する。
そこで僕は、皆に風魔法を使ったことを伝え、試合内容の解説をした。
「……と、いうわけです」
「そんな風魔法の使い方があったなんて……」
クラウディア嬢が驚いている。
彼女も風魔法の素質がSなのだから、僕と同じ戦い方ができるはずだ。
そうすれば剣聖様にだって、いつか勝てるかもしれない。
「師匠、クラウディア嬢に僕の秘密を打ち明けても、良いでしょうか?」
師匠が剣聖様の方へ視線を送ると、剣聖様が首を縦に振る。
「クラウディア嬢、これより殿下が大事なお話をする。国家機密であるゆえ、絶対に口外しないように」
「承知いたしました」
師匠の言葉に、クラウディア嬢が素直に従う。
戦闘狂モードが終了し、いつものクールビューティーな彼女に戻っていた。
「では、殿下どうぞ」
「クラウディア嬢、僕には女神パラスから貰った、特別な力がある」
「特別な力?」
「うん、見てもらった方が早いから、僕の手に触れてみて欲しい」
クラウディア嬢の右手が、僕の左手に重なった。
そして、他の皆にも僕の手に触れてもらう。
僕は、その場の全員に見える位置に、彼女のステータスを表示した。
【クラウディア・フォン・オルレアン】
ファルケ帝国 オルレアン伯爵家長女 15歳 女
知力 25/60
武力 97/99
魅力 95/95
剣術 S/S
槍術 B/A
弓術 G/B
馬術 B/A
風魔法 G/S
話術 D/D
算術 F/E
芸術 E/D
料理 F/D
「これは?」
「クラウディア嬢のステータスだよ」
「アタシの? 教会で見たのとは、違うようですが……」
「うん、今まで気付いていないかもしれないけど、あなたには風魔法の適性がある。しかも素質S」
「アタシに風魔法の素質が……」
「訓練して風魔法の適性がSになれば、さっきの僕みたいな戦い方も可能になる。そうすれば、いつか剣聖様にだって勝てるかもしれないよ」
「アタシが父上に……」
試合には僕が勝ったけど、彼女には自分の意志で、旅への同行を決めて欲しいな。
「僕がクラウディア嬢に風魔法を教えてあげる。だから、僕と妹の旅に同行して欲しい」
クラウディア嬢が剣聖様の方へ視線を向けると、剣聖様が黙ってうなずいた。
「殿下、喜んで同行させていただきます」
「ありがとう、クラウディア嬢。妹と仲良くしてあげて欲しい」
「はい! それから末永く、よろしくお願いします」
ん? 末永くとは?
「父上! ついに父上と兄上以外で、アタシより強い男性が現れました!」
「よかったな、クラウディア」
「はい! これでアタシも結婚できます!」
ん? 何の話だろうか?
「剣聖様、どうされたのですか?」
「おお、殿下。よくぞ娘に勝ちましたな」
「いやあ、大変でしたけどね」
「殿下、娘はずっと自分より強い男性を、待っていたのです。結婚するならば、自分より強い人と。それが娘の夢だったのです」
「なるほど?」
「先日、第二近衛騎士隊長との模擬戦に娘が勝利してしまい、帝国内に結婚対象となる男が居ないと絶望していたのです。そこに殿下が現れた!」
剣聖様が、感極まって涙している。
「殿下、いや婿殿、不束な娘ですが、どうかよろしくお願いします」
あれ? なんか勝手に話が進んでいる……。
「あの、剣聖様。僕とクラウディア嬢は、今日出会ったばかりです。今回の旅を通して、まずはお互いのことを、よく知ることから始めるべきかと」
「むむ、確かにその通りですな。クラウディアよ、この旅でお前が有用であることを、殿下にお認めいただくのだ!」
「はい、父上。必ずや!」
こうして、クラウディア嬢の説得に成功した僕たちは、師匠の屋敷へと帰ったのだった。




