第25話 エルネスタ・フォン・リートベルク
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気まずい雰囲気のまま、エルネスタ嬢と一緒に無言でティールームへ移動した。
「おかえりなさいませ殿下、何か問題はありませんでしたか?」
師匠が、流れるような仕草で出迎えてくれる。
問題ありまくりですよ師匠……。
初めてのラッキースケベで、美少女のHカップを堪能し、油断していたのかもしれない。
僕の失言のせいで、エルネスタ嬢を怒らせてしまった。
これでは旅への同行をお願いしても、断られるに違いない。
「問題ないというか、あるというか複雑な状況です」
「ん? 一体何があったので?」
師匠が首を傾げている。
「お待たせいたしました、お父様」
「おお、エルネスタよ殿下にご挨拶はしたのかな?」
「はい、一応は……」
「そうか、こちらにリゼット殿下もおられるので、今一度お二人にご挨拶なさい」
「はい、お父様」
エルネスタ嬢は、僕とリゼの前まで来ると、美しいカーテシーを披露した。
「クリストハルト殿下、リゼット殿下、お初にお目にかかります。リートベルク侯爵家長女エルネスタ・フォン・リートベルクと申します」
「ファルケ帝国第三皇子クリストハルト・ブレイズ・ファルケです。丁寧な挨拶をありがとう。こちらは、妹のリゼットです」
「ファルケ帝国第一皇女リゼット・ブレイズ・ファルケです」
お互いに挨拶を終えると、皆で席に着いた。
「それでは殿下、時間もないですし、食べながらで結構ですので、お話をどうぞ」
師匠が場の進行を務めてくれる。
「エルネスタ嬢、僕と妹は事情があって、明日魔法修行の旅に出ることになった」
「魔法修行?」
「うん、皇帝陛下からは国家プロジェクトとして予算も出ている」
「国家プロジェクト……」
話のスケールが大きすぎて、エルネスタ嬢が困惑している。
「エルネスタよ、殿下は旅に同行する家庭教師を探しておられる。そこで私が、娘であるそなたを殿下に推薦した」
「私が殿下の家庭教師に!? 私ごときが殿下の旅に同行するなど、畏れ多いことかと」
ああ、これは先ほどのラッキースケベのことを怒っているのかな?
遠回しに、誰が一緒に行くものかと……。
「エルネスタ嬢、あなたは貴族学校の教養学科を、首席で卒業したと聞いています」
「はい、それはそうなのですが……」
「そんな優秀なあなたに是非、僕と妹の旅に同行して家庭教師をお願いしたい」
しばしの沈黙が流れている……。
何かを考えているようだけど、もしかして、いけるのでは?
「確かに私は、貴族学校では優秀な成績だったかもしれません。ですが、リートベルク侯爵家においては、落ちこぼれなのです」
ん? どういうことだろうか……。
「殿下もご存じかと思いますが、我がリートベルク侯爵家は、代々優秀な火魔法の魔術師を輩出してまいりました」
「そうだね」
「私も8歳のころから火魔法を学び始め、1年後の9歳のときには火魔法の適性がDになりました」
ふむ、1年で火魔法の適性をGからDへ上昇させたのなら、才能があるな。
「そして、将来は父のように宮廷魔術師として、活躍したいと夢見ておりました。しかし私の火魔法の適性は、その後6年間変化しておりません」
え? たった1年でDまで上昇して、その後6年間Dのままってこと? 病気やケガで訓練ができなかったのかな……。
「私の後から火魔法を習い始めた弟に、あっという間に追い抜かれる始末でして、必死に訓練をしていたのですが……。家庭教師役は問題ありませんが、戦えない私が殿下の旅に同行すると、足手まといになってしまいます」
ああ、これは前世の僕と一緒だな。
高校時代、甲子園の優勝校で3年間必死に野球の練習をした。
でも、優秀な後輩たちにどんどん追い抜かれて、結局公式戦には出られず仕舞い。
とても苦しい3年間だった。
エルネスタ嬢は僕の倍、6年間も苦しみ続けたのか。
「エルネスタ嬢あなたは、落ちこぼれなんかじゃないよ。普通の人は、3年間結果が出なければ、辞めてしまう。そんな中、6年間も頑張り続けたあなたは強い。尊敬に値する」
僕から予想外の言葉を聞いて、エルネスタ嬢は驚いているようだ。
「殿下は、お優しいですね。実は先日、貴族学校を卒業したのを機に、教会で神官の方に人物鑑定をしてもらいました。私としては、最後の望みをかけたのですが、結果は火魔法Dと出まして、これで宮廷魔術師になる夢は諦めることに決めました」
ああ、ついに夢を諦めるのか。
おそらく火魔法の素質がDなのだろうな。
これ以上頑張っても仕方ないか……。
あ、エルネスタ嬢のステータスを確認していなかった。
どれどれ……
【エルネスタ・フォン・リートベルク】
ファルケ帝国 リートベルク侯爵家長女 15歳 女
知力 95/99
武力 40/53
魅力 95/95
剣術 F/F
槍術 G/F
弓術 G/F
馬術 D/D
火魔法 D/D
水魔法 G/S
話術 A/S
算術 A/S
芸術 A/S
料理 F/D
知力が高いな、さすが教養学科首席。
それと、予想通り火魔法の素質はDか。
ん? 水魔法の適性もあるな。
しかも、素質S!
あれ? 教会で人物鑑定を受けたと言っていたよな。
なぜ水魔法の話題は、出ないのだろうか?
「エルネスタ嬢、水魔法の訓練は、やらないの?」
「え? 私に水魔法の適性なんてないですよ」
あれ? 教会の鑑定で水魔法Gと出るはずでは?
「知力、武力、魅力以外の能力適性で、表示されていたものを覚えているかな?」
「えーと、たしか『剣術、馬術、火魔法、話術、算術、芸術、料理』だったかと」
ん? 槍術、弓術、水魔法の三つが表示されなかったのか。
この三つの共通点は……そうか、現在の実力がGの場合は、神官の人物鑑定に表示されないのか!
ということは、リゼも僕と出会った6歳のころに、教会で神官の人物鑑定を受けていたら、光魔法が表示されない!
女神パラスがSSの素質に気付かすに一生を終える人が多いと言っていたのは、これが原因か。
「師匠! エルネスタ嬢に僕の秘密を打ち明けても、良いでしょうか?」
師匠は頷くと、ティールームで給仕していた使用人を全員さがらせた。
部屋に残ったのは、僕とリゼ、師匠と夫人、エルネスタ嬢の5人だけだ。
「エルネスタ嬢、今から僕の秘密を打ち明けます。これを知っているのは、皇帝陛下、魔術師団長、剣聖様、妹のリゼットだけです。絶対に口外しないと約束できますか?」
「はい、約束します」
「あと侯爵夫人も約束して欲しいのですが」
「はい、お約束いたします」
「では、これよりエルネスタ嬢の人物鑑定を行いますので、皆さん僕の手に触れてください」
そして、僕の左手にリゼとエルネスタ嬢、右手に師匠と夫人が触れた。
そこで、先ほどのエルネスタ嬢のステータスを、全員に見えるように表示する。
「左が現在の実力で、右が素質です。エルネスタ嬢、あなたには水魔法Sの素質があります」
エルネスタ嬢が、目を見開いて驚いている。
「え? でも、教会では表示されていなかったのに」
「今わかったことなのですが、教会の人物鑑定は現在の実力がF以上の適性しか表示されないようです」
「Gという表示は、初めて見ました」
「おそらくGは、まだ未経験の適性かと。この後、水魔法を一度でも発動できれば、すぐにFに上がると予想します」
僕は、水魔法で一番簡単なウォーターボールをエルネスタ嬢に教えた。
何度か挑戦して、ウォーターボール成功後にステータスを確認すると、予想通りエルネスタ嬢の水魔法がGからFに上昇した。
「お父様! 私、水魔法が使えました!」
エルネスタ嬢が師匠の胸に飛び込んだ。
「良かった。これからは水魔法の訓練をして、いつか宮廷魔術師になる夢が叶うと良いね」
「はい!」
師匠の言葉に励まされ、エルネスタ嬢の瞳から涙が溢れていた。
二人を包むように夫人も加わり、親子三人で泣きながら抱き合っている。
「クリストハルト殿下、本当にありがとうございました」
「いえいえ、僕も師匠には、お世話になっていますから」
僕は、師匠とがっちり握手した。
「エルネスタ嬢、僕の水魔法はSだ。あなたに僕が水魔法を教えれば、いずれ戦えるようになる。足手まといの心配なんてしなくて大丈夫だよ」
「殿下……」
「エルネスタ嬢、僕と妹の旅に同行して、家庭教師をお願いしたいのだけど」
エルネスタ嬢が目を閉じて考えている……そして目を開けると、僕をじっと見つめた。
「はい、喜んでお供させていただきます」
「よろしくね、エルネスタ嬢」
「はい! 殿下、本日は私に水魔法の素質を教えてくださり、感謝いたします。夢を諦めずに済みました!」
エルネスタ嬢が微笑みながら僕とリゼを見ている。
この後、昼食を皆で食べてから、僕とリゼは剣聖様の屋敷へと向かうのだった。
師匠の娘であるエルネスタ。火魔法の名門であるリートベルク侯爵家の長女として生まれたことが、彼女を6年間苦しめる要因になりました。水魔法Sの素質に気付くこと無く、ひたすら火魔法DをCにするため6年間を無駄に費やしたのです。そして幼い頃からの夢であった宮廷魔術師になることを一度は諦めますが、その後クリストハルトに出会うことができました。クリスに救済されて、不遇だったエルネスタの魔術師としての人生が大きく変わり始めます。




