第23話 別れ
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「父上、ただいま戻りました」
僕は、カルラと料理長を連れて、旧館へ戻ってきた。
「お兄様、おかえりなさい!」
リゼが元気一杯に、僕の胸に飛び込んでくる。
一緒に連れて行きたかったが、皇后様に狙われているので、油断はできない。
旧館に残した方が、安全だと判断した。
何しろ、戦わせたら帝国で上位三名に入るであろう戦力が、全員集合しているのだ。
現時点に限れば、帝国内で一番安全な場所は、リゼのいる旧館の食堂である。
「ただいま、リゼ」
僕は、リゼを優しく抱きしめた。
「食料や雑貨の確保は、できたのか?」
「はい、父上のお陰です。ありがとうございました」
「うむ、後は出発をいつにするかだな」
「カルラも準備があるでしょうし、明日の早朝にしましょうか」
「それがよい。だが城は今すぐにでも、出たいのだろう?」
「はい」
「明日の朝まで、どこかで身を隠さねばな」
「そうですね……」
父上と一緒にどこへ身を隠すか話し合った。
「それならば、今日は我が家にお泊りください」
師匠がイケメンスマイルで、申し出てくれた。
「アレクシス、よいのか?」
「大歓迎ですよ、お任せください陛下」
父上が確認すると、師匠は快く承諾してくれた。
この後カルラに、明日の早朝迎えに行くと約束して、住所と自宅の地図を書いてもらう。
料理長は仕事に戻り、カルラは自宅へ帰って身支度を整えるそうだ。
旧館の食堂には、僕とリゼ、重鎮の三人が残っている。
「陛下、いくらクリストハルト殿下が魔法の天才だとしても、実戦経験はないのじゃろ?」
「そのはずだが、クリストハルトよ、どうなのだ?」
剣聖様の質問に父上が答えた。
「実戦経験は、ありません。ですが、僕にはオリジナルの複合魔法があります。リゼットを守るためなら、ためらわずに魔法を使う覚悟はできています」
「しかし殿下、リゼット殿下とカルラを守りながら戦うのは、思った以上に大変ですぞ」
確かに剣聖様の言う通りだと思う。
「護衛の剣士を、連れていくべきじゃと思う。ワシの息子なんてどうじゃ?」
「それって、フォルカー隊長のことですか?」
「そうじゃ、あれが一緒ならば安心じゃろうて」
確かに安心だけど、一緒に旅をするとなるとキツイかな。体育会系すぎて心が休まらない……。
「それはそうなのですが、リゼットがおりますので、やはり女性が良いですね」
「そうか、ならばワシの娘はどうじゃ? 先日、貴族学校の剣術学科を、首席で卒業しておるぞ」
「素晴らしい娘さんですね」
「じゃろ? ワシとフォルカーには及ばぬが、つい最近、第二近衛騎士隊長との模擬戦に勝利しておったしな」
剣聖様が嬉しそうに笑みを零している。
「ということは、娘さんは帝国で3番目に強いのでは?」
「そうなるかの」
「是非、剣聖様の娘さんに護衛をお願いしたいです」
「ならば、殿下が直接娘を説得するしかないですな」
剣聖様が苦笑して僕を見ている。
「説得ですか?」
「そうじゃ、娘はワシとフォルカーに勝つことを、目標にしておるからの。ワシらと一緒に稽古ができる帝都を、離れたくはないじゃろうからな」
「なるほど、そうなのですね。この後、娘さんには会えますか?」
「今は出かけておるが、昼過ぎには帰ってくるはずじゃ。後でワシの家に案内いたしましょう」
「よろしくお願いします、剣聖様」
リゼとカルラの安全を守るためにも、全力で説得しようと決めた。
「さて護衛の次は、家庭教師ですね」
師匠が、洗練された甘いマスクで優雅に提案してきた。
「家庭教師ですか?」
「はい、クリストハルト殿下は12歳になられました。本来なら貴族学校へ入学する年齢です。リゼット殿下も11歳ですので、いずれ同じ門をくぐる日がきましょう。ですが、今回の事件で旅に出るとなると、帝国の歴史や皇族としての立ち居振る舞いなどを、学ぶことができません」
師匠の言い分は、もっともだ。
僕とリゼットは、旧館で暮らした5年間、魔法の勉強と体力作りに重点を置いてきた。
いずれ社交界に出るのであれば、避けて通れないことだと思う。
「そこで家庭教師として、私の娘を推薦いたします」
娘? 師匠って結婚してたの!?
カルラのGカップに無反応だったから、てっきり女性に興味がないものだと思っていたけど。
「私の娘は、剣聖殿のお嬢さんと同期でしてね。先日、貴族学校の教養学科を、首席で卒業しております」
「とても優秀な娘さんなのですね」
「それはもう、我が自慢の娘です」
師匠が満面の笑みで僕を見ている。
「是非、師匠の娘さんに家庭教師をお願いしたいです」
「承知しました。ですが、私の娘も帝都に住むことを望んでおりまして、快く承諾するかは親である私でも測りかねます」
師匠が申し訳なさそうに俯いた。
「大丈夫ですよ師匠、僕が娘さんを説得してみせます」
「はい、期待しております殿下。されど、あまり無理をなさらないでください。説得に失敗しても、別の優秀な人材を紹介いたしますので」
「ありがとうございます、師匠」
僕が失敗したときの保険まで考えてくれているなんて、やっぱり師匠はすごい人だ。
「それと剣聖殿」
「なんじゃ、アレクシス」
「剣聖殿のお嬢さんが帰るのは、昼過ぎでしたね」
「そうじゃが?」
「それまで殿下の時間が空いてしまいますので、先に私の家に殿下をお連れしてもよろしいか?」
剣聖様が腕組みをしながら考えている。
「なるほど、そのほうが殿下にとってよいな」
「我が家で昼食を取った後、馬車で剣聖殿の家まで、殿下をお送りしようと思う」
「承知した」
師匠と剣聖様は、僕とリゼが効率的に今日の予定をこなせるように調整してくれた。
しかし二人は、まるで友人のように話をする。
師匠が侯爵、剣聖様が伯爵で師匠の方が爵位が上のはずだけど……。
「師匠と剣聖様は、仲が良いですね」
「ええ、私と剣聖殿は貴族学校の同期生だったのですよ」
「懐かしいのお。殿下、ちなみに陛下もワシたちと同期生じゃぞ」
「父上も!?」
「ああ、懐かしいな。あの頃は、三人でいろいろ無茶をしたもんだ……」
父上が遠い目をして、昔を懐かしそうに思い出している。
「おっと、昔の思い出に浸っている場合ではなかったな。さて、話の区切りもついたところで、クリストハルトに渡すものがある」
父上がテーブルの上に、二つの袋と手帳のようなものを置いた。
「父上、これは?」
「まずは昨日の魔術訓練場での、クリストハルトの救助活動およびリゼットの助命活動への褒賞金だ」
「褒賞金?」
「うむ、あの事故では多数の死者がでても、おかしくない状況だった。奇跡的に誰の命も失わずに済んだのは、二人の功績だ」
「父上……」
「それにな、どちらが欠けてもこの奇跡は起きなかったはず。クリストハルトの救助がなければ、リゼットも助命ができない。また、リゼットがいなければ、クリストハルトが救助した重傷者は助からなかったはずだ」
確かに、父上の言う通りかもしれない。
僕とリゼットが力を合わせれば、なにかを成し遂げられる気がする。
「よって、二人の功績に対し金貨100枚を与える」
「ありがとうございます、父上」
金貨1枚の価値は、前世の10万円に相当する。
つまり、金貨100枚で1千万円の価値があるのだ。
こんな大金は、前世を含めても初めてで緊張してしまう。
ああ、でもこれから旅に出ると、あっという間に消費してしまうかもしれないな。
備えあればというやつだ、大事に使わせてもらおう。
「それから二人の旅については、魔法修行ということにした。国家プロジェクトとして金貨500枚の予算をつけることになった」
「へ? 国家プロジェクトですか?」
「うむ、魔法の天才であるクリストハルト、大聖女の卵であるリゼットは、共にファルケ帝国の宝である」
「僕とリゼが国の宝……」
「クリストハルトよ、リゼットの光魔法をSSにし、大聖女に至らしめた後、必ずファルケ帝国に帰ってくるのだ」
「はい! ご期待にそえるよう、最善を尽くします」
「うむ! それと、この手帳はファルケ帝国の皇族であることを、証明するものになる。それぞれの名前を記入してあるので、必要があれば提示するように」
「はい、父上」
さすが父上、手際が良い。
僕がカルラと食料を調達している間に、師匠と剣聖様と話し合ったのだろう。
「あっ、父上にお願いがあります」
「なんだ?」
「旅に出るにあたり、冒険者登録をしたいのですが、可能でしょうか?」
「ふむ、冒険者登録は大人になる15歳以上が推奨とされておる」
「では、僕とリゼが冒険者登録することは、できないのでしょうか?」
「いや、特別な推薦状があれば可能だったはずだが……」
「ならば、ワシが推薦状を書きますぞ」
剣聖様が笑顔で申し出てくれた。
「剣聖様が?」
「帝都本部のギルド長は、ワシの親友が務めておる。ワシが推薦状を書けば、納得するはずじゃ」
「剣聖様、よろしくお願いします」
「承知した。すぐに書くので、少々お待ちくだされ」
剣聖様は、紙とペンを準備すると推薦状を書いてくれた。
「これでよしと。殿下、この推薦状を明日の朝、出立する前に帝都本部へ寄り、ギルド長に直接提出してください」
「明日の朝?」
「今日は、これからやることが多いでしょうし、早朝なら職員や冒険者もいないので目立ちませんぞ」
「なるほど」
「ギルド長には、今日その旨伝えておきますので」
「剣聖様、いろいろとありがとうございます」
「いやいや、ではワシは家に帰り、娘に話をつけておきます。準備が整いましたら、お越しください」
「はい、後ほど伺います」
「ではアレクシス、殿下を頼む」
そう言って、剣聖様は帰っていった。
その後、僕とリゼは父上に許可をとり、旧館にあるベッドや備品など役に立ちそうなものを、収納ボックスへ突っ込んだ。
「では父上、しばしのお別れです。お体、大切にしてください」
「寂しくなるな……」
僕とリゼは、父上に強く抱きしめられた。
「そうだ、父上これをどうぞ」
僕は父上のステータスを、コピー魔法で印刷した紙を渡した。
「おお! これは、わしのステータスか?」
「はい、先ほど説明したように左が現在の能力値、右が素質になります」
「助かる、これがあれば効率的に能力上げができるな」
父上は、すごく喜んでくれた。
「お父様!」
「おおリゼットよ、わしを父と呼んでくれるか」
「これを私だと思って、たまに思い出してくれると嬉しいです」
そう言うとリゼは父上に、僕が5年前に作ってあげた魔法のステッキを渡した。
「これは……、大聖女のステッキではないか! 大事なものであろう。わしがもらってよいのか?」
「はい、お父様に持っていて欲しいです」
「ありがとう、リゼット。これは、わしの家宝にしよう」
リゼと父上が、良い雰囲気で見つめあっている。
「ではお父様、行ってまいります」
「リゼット、元気でな。クリストハルトよ、リゼットを頼むぞ」
「はい! お任せください父上。では……」
こうして僕とリゼは、父上に別れを告げて、師匠の住む館へと移動したのだった。




