第20話 違和感
たくさんある作品の中から
見つけてくれて、ありがとうございます♪
今回から通常どおり、クリストハルトの視点で物語が進行します。
【クリストハルト視点】
「う、重い……」
僕は、胸を押し潰される苦しさに気付き目が覚めた。
前世で味わったことのある、金縛りの症状に似ている。
昨日の救助活動で、上級風魔法を複数同時に使い、大量の魔力を消費したのが原因かもしれない。
「えへへ、お兄様……」
リゼの寝言が聞こえてきたので、僕はリゼを探した。
だが、いつも僕の左側に寝ているはずのリゼが見当たらない。
もしかして、今日は右側で寝ているとか?
僕が右側を確認すると、やはりいない……。
そのとき、僕のお腹の上で何かが動いた。
とても柔らかなものが二つ、フニフニとした感触を僕の腹部に伝えてくる。
今日は剣聖様の剣術訓練も無く、準備のため早起きする必要がない。
僕は、この極上な時間を、ギリギリまで堪能することに決めた。
しかし、そんな僕の気持ちに何の配慮もなく、玄関のベルが鳴る。
朝食が届いてしまったようだ……。
「リゼ、朝食の時間だよ」
「ふあい、お兄様……。おやすみなさい……」
リゼも昨日のエリアハイヒールの影響で、精神的な疲れがあるのかもしれない。
僕の胸に顔をうずめて眠り、控えめな双丘を僕の腹部に押し付けている。
僕はリゼを優しくどけて、ベッドに残すと玄関へ向かった。
そして、メイドから朝食を受け取るために、ドアを開ける。
「やあ、お待たせしたね」
「お、おはようございます、殿下。ちょっ、朝食をお持ちしました」
少し嚙みながらメイドが答えた。
ん? いつもの女性とは違うようだ。
後ろに控えている、もう一人のメイドも見たことがないな。
「いつもの人と違うようだけど?」
「は、はい。前任者が一週間の休暇を取っておりまして、その間私が担当させていただきます。申し遅れました、カロリーネ・フォン・ヘルターと申します」
「そう、よろしく頼むね、カロリーネ嬢」
「は、はい! それでは失礼いたします」
大分緊張していたようだけど、大丈夫だろうか。
そんな心配をしながら僕は、朝食を食堂のテーブルに運んだ。
僕の部屋に戻ると、ベッドの上でリゼが爆睡している。
「リゼ、朝食の準備ができているよ」
僕は、リゼの頬に優しくキスをした。
「んん、お兄様?」
リゼが寝ぼけながら、目元をこすっている。
「朝食が冷めてしまうといけないから、早くおいで」
「うう、体がダルくて動けません……。あっ、これはもう、お姫様抱っこをするしかないですね!」
リゼが瞳をキラキラとさせている。
昨日、魔術訓練場から旧館に帰るまでお姫様抱っこをしたが、大分お気に入りのようだ。
「はいはい、じゃあいくよ」
僕はリゼを抱き上げて、お姫様抱っこをした。
「えへへ、お兄様大好き」
リゼが僕の首に手をまわして、頬にキスをしてきた。
「僕もリゼが大好きだよ」
僕がそう返事をすると、リゼは満足そうに微笑み抱きついてきたのだった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
食堂に到着しリゼを椅子に座らせると、僕も隣の席につく。
最近は、お互いのステータスを確認しやすいように、隣で食事をする回数が増えた。
「わあ、美味しそう。いただきます」
お腹を空かせていたリゼは、スープを匙ですくうと口へ運んだ。
僕は、いつものように鑑定魔法を使って、食材の安全を確かめた。
宮廷料理人が調理しているので、間違えて毒キノコが混入することもない。
だがファルケ帝国は、温暖で気温が高い日が多いため、食材が傷みやすいのだ。
念のため料理が腐っていないか、毎日確認を欠かしたことはない。
いつものように料理を鑑定すると、スープにだけ見慣れない表示が赤く点滅している。
ディアンフィディア(猛毒、遅効性)
「リゼ! 食べちゃダメ!」
僕は慌てて、匙を持ったリゼの手首を掴んだ。
「痛いです、お兄様」
「ああ、ゴメンね。」
僕は、リゼの手首を掴む力を緩めた。
「お兄様、どうしたのですか?」
「スープに毒が入ってる」
「ええ!?」
「大丈夫? 食べてないよね?!」
「はい、ギリギリでしたが……」
「よかった……」
僕は、リゼをギュッと抱きしめた。
「お兄様……」
「ごめんね、もっと早く調べていれば……」
「いいえ、私が急いで食べようとしたからです」
「本当に無事でよかった……」
僕は、もう一度リゼを抱きしめた。
「しかし、こんなことは初めてだね」
「一体誰がこんなヒドイことを……」
僕たちに殺意をもっている人物……。
僕とリゼを邪魔だと思っている人……。
一人しか思い至らないな。
「皇后様しか考えられないね。証拠は不十分だけど」
「なぜ、皇后さまがお兄様と私を?」
リゼが困惑しながら僕を見ている。
「僕については、昨日の救助活動が原因だと思う。もうすぐ皇太子を決める時期だからね」
「私は、なぜ狙われたのでしょうか?」
「リゼは、昨日のエリアハイヒールだろうね」
「それが原因ですか!?」
リゼが驚愕している。
「エリアハイヒールは、光魔法の適性がSでないと使えないでしょ?」
「そうですね」
「皇后様は自分と同じ光魔法Sのリゼを、帝国筆頭聖女のライバルと認識したのだと思う」
「私が皇后様のライバル……」
「皇后様は自分が帝国の筆頭聖女であることに、固執しているからね」
「なるほど。でも、これからどうしましょうか、お兄様」
リゼが不安げな表情で僕を見ている。
おそらく、前任のメイドが一週間の休暇を取ったというのは、嘘だろう。
取ったのではなく、皇后様に取らされたに違いない。
そしてこれ以降、僕とリゼの食事には毎回毒が盛られるはず……。
この旧館には、食材の備蓄もないし、そもそも僕とリゼは料理ができない。
食事の度に食べたふりをして、空になった食器を返すことは可能だけど、僕とリゼが飢え死にしてしまう。
それに、毒の効果が思わしくないと判断すれば、直接的な攻撃に出てくるかもしれない。
リゼを守り切れるだろうか……。
もはや一刻の猶予も許されないな。
「リゼ、落ちついて聞いて欲しい」
「はい、お兄様」
「この城を出よう」
リゼが驚いて、目を見開いている。
「帝城を出て、どこで暮らすのですか?」
「旅に出ようと思う」
「旅?」
「うん、リゼの光魔法が2年間Sのままだよね?」
「はい、なかなかSSには上がらないですね」
リゼが悔しそうに下を向いた。
「リゼの経験値が足りないか、まだ発動できていないS級の光魔法があるのか、どちらかだと思う」
「そうですね」
「僕は、後者だと予想している」
「ファルケ帝国に伝わっていない光魔法があると?」
「うん。帝城にある、伝説の大聖女リーゼロッテ様の絵本や、光魔法の文献は全て目を通した。おそらく帝国にいる限り、リゼの光魔法はSSにならない可能性が高い」
「そんな……」
リゼが愕然としている。
「僕は、北を目指そうと考えている」
「北?」
「帝城の書庫にあった文献によると、かつて大聖女リーゼロッテ様が暮らしていたとされる国が、北方にあったらしい」
「そうなのですね」
「すでに亡国となっていて、現在のどの国に含まれているのか不明なんだよ。なにしろ数百年前のことらしいから」
「そんなに大昔の話だったのですね」
「だからその手掛かりを探すためにも、僕とリゼは北を目指すべきだと思う」
「はい、私もそう思います。それに、私はお兄様と一緒ならどこへだって行きますよ」
リゼが微笑んで僕を見つめている。
「リゼ……」
僕はリゼを抱き寄せ、しっかりと抱擁した。
「まずは、父上に相談しよう」
「そうですね」
「帝城へ行って父上を連れてくるから、リゼは持っていくものをまとめておいて」
僕は、急いで父上の執務室を目指した。




