第19話 皇后バルバラ・ブレイズ・ファルケの秘密
たくさんある作品の中から
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通常は、クリストハルトの視点で物語が進行していますが、
今回のみ皇后バルバラの視点となっております。
【皇后バルバラ視点】
「やっと終わった……。いやしい平民への施しも、楽ではないわね。レオンとエーベもよくやったわ、さすが私の息子たちね」
「母上! 次期皇帝のレオンハルトに不可能などありません!」
長男のレオンハルトは15歳になった。先日、貴族学校を優秀な成績で卒業し、近いうちに皇太子になる予定だ。
すでに武力も84まで上昇し剣術の適性もA、このままいけば剣聖も夢ではないわね。
「母上! 私は宰相となり、兄上を見事に支えてみせます!」
次男のエーベルハルトは13歳になり、貴族学校に入学してから1年が経った。
すでに知力が80まで上昇し火魔法の適性もA、このままいけば賢者なんて未来も、あるかもしれないわ。
「二人とも疲れたでしょう。帝城に着いたら起こしてあげるので、少し休みなさい」
「「はい!」」
やはり疲れていたのか、馬車の中で二人ともすぐに寝息をたて始めたわ。
今日は、私の実家であるアルトマイアー公爵家が、領内で開催する施しに参加してきた。
実家は帝都に隣接しており、馬車で日帰りの日程だ。
公爵家領内にある全ての教会で炊き出しを行い、また光魔法を使った病気やケガの治療もした。
炊き出しは公爵家の兵士に任せておけばよいけど、光魔法による治療は聖女の仕事だ。
帝国の皇后であり筆頭聖女でもある特権を使い、帝城にいる上級聖女全員を公爵領内の各教会へ派遣した。
これで、住民たちの忠誠度も大きく上昇したに違いないわ。
それに、この施しにはもう一つ大事な意味がある。
なぜか低下してしまう私と息子たちの魅力値を、再び上昇させるためだ。
施し終了後、教会の神官に人物鑑定を行わせたところ、私も息子たちも魅力値が3上昇していた。
いつかこの魅力値が低下する不可解な現象を、解明しなければならないわね。
そんなことを考えていると、馬車が帝城に到着したようだ。
しかし、いつものような平穏な感じではなく、城内はざわついている。
馬車を降りてから近くの兵士に確認すると、どうやら魔術訓練場で事故が起きて、多数のケガ人がでたようだ。
私は二人の息子たちと別れ、皇后の執務室へ移動した。
「魔術訓練場での事故について知りたいわ。今日、城に残していった、聖女見習いの者たちを呼びなさい」
私が専属のメイドに命令すると、すぐに聖女見習いの者たちがやってきた。
「お帰りなさいませ、皇后陛下。公務、お疲れ様でございます」
見習いの中で一番年長の少女が、代表して挨拶をした。
「それで、魔術訓練場で何があったのかしら? 簡潔に述べなさい」
「はい。魔術師団の訓練中に火魔法が暴発し、半分近い天井が崩落して、隣接する側壁も倒壊いたしました」
「大事故じゃないの! それから?」
「はい。多数の兵士が生き埋めとなり、救助活動は難航いたしました」
「まさか、死者がでたの!?」
「いえ、騒ぎを聞きつけ駆けつけてくださったクリストハルト殿下が、上級風魔法を複数同時に操り瓦礫を撤去し、生き埋めになっていた兵士全員を救出いたしました」
「クリストハルトが上級風魔法ですって!?」
「はい。もし、クリストハルト殿下がいらっしゃらなければ、死者が多数出ていたと、兵士たちが申しておりました」
上級の風魔法を使うには、適性がA以上必要だったはず。
しかも、複数同時に操るとなると適性Sということになるけど、にわかには信じがたいわね。
「それで、その後ケガ人たちはどうしたのかしら?」
「はい。私たち見習いの聖女が、軽傷者の治療に当たっていたのですが、途中で皆、魔力切れをおこしてしまいまして」
「はあ!? 魔力切れですって?」
「申し訳ございません。皆、自分にできる精一杯のことをしたのですが」
「だからって、魔力切れをおこして治療できませんじゃ、意味ないじゃない! この役立たずが!」
「ひいっ、申し訳ございません!」
「で、その後いったい誰が治療をしたのかしら?」
「はい。クリストハルト殿下と一緒にお越しになったリゼット殿下が、エリアハイヒールを使い治療いたしました」
「エリアハイヒールですって!?」
「はい」
エリアハイヒールは、光魔法の適性がSでなければ発動できない。
あの呪われた子が、私と同じ光魔法Sだというの?
「それでケガ人は全部で、何人くらいいたのかしら?」
「はい。100人近くおりました」
「100人!?」
「はい。半数は重傷者で、大変厳しい状況だったのですが……」
100人に対してエリアハイヒールを発動したら、魔力切れをおこすはずだわ。
私でさえ昔、20人に対してエリアハイヒールを使ったとき、魔力切れをおこしそうになって気分が悪くなったのよね。
それ以来、エリアハイヒールは20人までと決めている。
「それで? エリアハイヒールを使ったときの状況を、詳しく説明なさい!」
「はい。リゼット殿下は、伝説の大聖女リーゼロッテ様が使われていた魔法のステッキと同じものを右手に掲げ、『エリアハイヒール!』と唱えた後、大聖女様と同じポーズをされておりました。まるで絵本の中から大聖女様が飛び出してきたようで、皆がリゼット殿下は伝説の大聖女リーゼロッテ様の生まれ変わりに違いないと、城内で噂になっております」
「はあ!? 大聖女ですって? それでエリアハイヒールを使った後、リゼットはどうなったのかしら?」
「はい。クリストハルト殿下に抱きついた後、お姫様抱っこをされて帰られました」
「お姫様抱っこ? ということは、魔力切れをおこしていたのかしら?」
「いえ、クリストハルト殿下に抱きついていたときは、元気に笑っておられましたので」
だとしたらリゼットの魔力量は、帝国の筆頭聖女である私よりも多いということになるわね。
「ああ、それと現場にいた兵士たちが、クリストハルト殿下がいれば帝国は安泰だとも言っておりました」
「なんですって! 魔術訓練場には、皇帝陛下もいたのかしら?」
「はい。クリストハルト殿下とリゼット殿下の魔法を、ご覧になっておりました」
まずいわね……。皇太子を決めるこの時期に……、最悪のタイミングだわ。
よもやレオンハルトが皇太子になる予定を、変更するなんてことはないわよね……。
こうしては、いられないわ!
すぐに手を打たなければ……。
「下がりなさい!」
「え?」
「帰れと言っているのよ!」
「はい! 申し訳ございませんでした。失礼いたします!」
まったく! なんて使えない子なのかしら!
そんなことよりも、早く手を打たないと。
「誰かいるかしら?」
「なんでございましょうか、陛下」
私専属のメイドがすぐにやってきた。
「ヘルター男爵家令嬢のカロリーネを呼んできなさい」
「はい! すぐに呼んでまいります」
カロリーネは、先日メイドを始めたばかりの新人だ。
扱いやすく、今回の任務には適任ね。
しばらくすると、ドアをノックする音がする。
「入りなさい」
「お待たせいたしました、陛下。カロリーネ・フォン・ヘルターにございます」
「待っていたわよカロリーネ。さあ、こちらに来てちょうだい」
「はい!」
「早速だけど、あなたにやって欲しいことがあるの」
「なんでございましょうか?」
「迎賓館旧館のメイドをお願いしたいの」
「かしこまりました」
「明日からお願いできるかしら?」
「はい、お任せください」
「今までの担当者は、一週間休暇を与えるから、今日のうちに引継ぎを済ませておくように」
「はい、承知いたしました」
「それと、あなたには特別任務を与えます」
「特別任務でございますか?」
「少し待ってなさい。えーと、たしか引き出しの中に、しまっておいたはず……。ああ、これこれ。懐かしいわね」
また、これを使うことになるなんてね。
「カロリーネ、明日から一週間、朝食・昼食・夕食にこの毒薬を少量混入させるのが、あなたの特別任務です」
「え? 毒薬ですか? そんな恐ろしいこと、私にはできません」
「カロリーネ、あなたの実家であるヘルター男爵家は、私の実家であるアルトマイアー公爵家に多額の借金があるわね?」
「はい、確かにございます」
「もし、あなたがこの特別任務を完遂したならば、借金の全額を帳消しにしてあげるわ」
「でも、私は人殺しなんて、したくありません!」
「あなたは、勘違いをしているわね」
「どういうことでしょうか?」
「カロリーネ、あなたにある選択肢は『やるか、やらないか』ではないのよ。『やるか、自分が死ぬか』のどちらかよ」
「なぜ、私が死ななくては、ならないのですか?」
「当然じゃない、皇后である私の秘密を知ってしまったのだから、生かしておけると思う?」
「そんな……、ひどいです、こんな仕打ち」
「ゴチャゴチャうるさい子ね! やらないのならヘルター男爵家は、取り潰しにするわよ!」
「そ、そんな……」
「もし断るなら、今この場であなたを殺してあげるわ。さあ、決断なさい!」
「ひいっ、私は……死にたくありません」
「それなら、どうすればよいのかしら?」
「この特別任務を完遂します……」
「よく決断してくれたわ、カロリーネ。きちんと成し遂げたなら、あなたにはボーナスを用意するわね。アルトマイアー公爵家に縁のある、子爵家長男との婚約を私が取り持ってあげるわ。どうかしら?」
「ありがとうございます、陛下……」
「それと念のため言っておくけど、あなたには今後見張りをつけさせてもらうわ。この件で、他の人に相談したり、変な気を起こしてはダメよ。わかったかしら?」
「はい、承知いたしました陛下……」
「最後にこの毒薬の説明をしておくわね。これは遅効性の毒薬なの。一週間飲み続けたころに効果を発揮して、徐々に体調が悪くなり死に至るわ。まるで病死したみたいにね。それに即効性の毒薬なんて使ったら、すぐに毒殺だってばれてしまうでしょ?」
「はい、陛下……」
「さあ、前任者から引継ぎを済ませたら、今日はもう休みなさい。期待しているわ、カロリーネ」
「はい、陛下……」
カロリーネも素直になったし、これで大丈夫かしらね。
さあ、クリストハルト覚悟なさい!
皇太子になるのは、レオンハルトよ!
そして、リゼット。帝国筆頭聖女の座は、絶対誰にも渡さないわ!




