第18話 お姫様抱っこ
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剣聖様による地獄の剣術訓練が始まってから、1か月が経過した。
食堂で朝食を済ませた僕は、ソファーに移動してリゼと一緒に僕のステータスを確認している。
【クリストハルト・ブレイズ・ファルケ】
ファルケ帝国 第3皇子 12歳 男
知力 95/100
武力 70/80 (68から70へ上昇)
魅力 99/99
剣術 C/S (GからCへ上昇)
槍術 G/S
弓術 G/S
馬術 G/S
火魔法 S/S
水魔法 S/S
風魔法 S/S
土魔法 S/S
光魔法 A/S
闇魔法 G/S
話術 S/S
算術 S/S
芸術 B/S
料理 G/S
「お兄様、ついに武力が70になりましたね」
「うん、1か月厳しい訓練を続けたからね。後は、剣術がBになってくれたら良かったのだけど」
剣聖様の特別指導で剣術の適性がCまでは順調に上がったのだけど、そこからピクリとも動かなくなった。
魔法の訓練でもそうだったが、適性CがBになるのにかなりの期間を要したのだ。
「まあ、こればかりは地道に努力を続けるしかないよね」
「そうですね、私も光魔法がSSになるまで、諦めずに頑張ります」
そう決意したリゼが、僕の左肩に頭を乗せて大きく息を吐いた。
リゼの長く美しい銀髪から、シャンプーのよい香りがする。
僕は空いている右手で、リゼの頭を優しく撫でた。
するとリゼは、気持ち良さそうに目を閉じて、微笑んでいる。
食堂に穏やかな空気が流れる中、突然外で何かが爆発する音がした。
「なんでしょう、今の音は?」
リゼがびっくりして跳ね起きた。
「魔術訓練場の方角だね、何かあったのかもしれない。ちょっと確認してくるよ」
「お兄様、私も行きます」
リゼがソファーから立ち上がり、僕についてきた。
「リゼは、ここで待っていて。すぐに戻ってくるから」
「でも……」
「皇后様に会うと、面倒なことになるからさ」
「うああ、そうでした……」
リゼはガックリと肩を落として、ソファーに倒れこんだ。
僕は、旧館にリゼを残して外に出ると、旧館の門番に尋ねた。
「すごい音がしたけど、何かあったのかな?」
「現在確認中でして、もうしばらくお待ちいただけますか?」
すると一人の兵士が、こちらに向かって全速力で走ってきた。
いつも城との連絡係をしてくれている男だ。
「何があったの?」
「はっ! 魔術訓練場で壁や天井が崩れ、多くの兵士が下敷きになっております。現在、救助活動とケガ人の手当をしているのですが、本日は皇后様含め、上級聖女が他の仕事で外出しておりまして、ケガ人の手当が思うように進んでおりません!」
「わかった、僕と妹がケガ人の手当に当たるから、君たちも救助活動に当たってくれ」
「しかし、門番の仕事が……」
「大丈夫、責任は僕が取るから、急いで魔術訓練場へ向かって!」
「はっ! それでは、お先に失礼いたします!」
旧館の門番二人がダッシュで魔術訓練場へ向かう。
僕は旧館に引き返してリゼに事情を説明し、一緒にケガ人の治療をするため魔術訓練場へ移動した。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
魔術訓練場へ到着すると、そこは地獄絵図のようである。
バスケットボールのコートが4つくらいは作れそうな広さの魔術訓練場で、半分近くの天井が崩落し、隣接する壁も倒壊していた。
瓦礫の下からは、多くのうめき声が聞こえてくる。
これは、一刻を争う状況だな。
するとそこへ皇帝陛下である父上と、僕の師匠である魔術師団長のリートベルク侯爵、剣聖様が息を切らしてやってきた。
「父上!」
「おお、クリストハルトよ。なぜお前がここに?」
「騒ぎを聞きつけまして、ケガ人の手当に参りました。ですがその前に、救助活動をしたいのですが、よろしいでしょうか?」
「お前が救助活動を? どうやって?」
「上級の風魔法を使います。危ないので、救助活動中の兵士を全員、退避させてほしいのですが」
父上が師匠と何やら相談しているようだ。
僕の魔法レベルについては、父上と師匠の二人だけには、きちんと伝えてある。
旧館の庭でこっそり訓練するわけにもいかなかったので、きちんと筋を通し許可をもらっていた。
「わかった。だが、瓦礫の下にいるケガ人に撤去作業中、被害が出たりしないだろうか?」
父上が心配するのも理解できる。闇雲に瓦礫をどけようとすれば、さらに被害が拡大する恐れがあるのだ。
「大丈夫です。三つの風魔法を重ねて使いますので、ケガ人に瓦礫が落下することはありません」
「そうか、任せたぞクリストハルトよ」
「はい!」
すると、父上と僕のやり取りを見ていた師匠が、救助活動中の兵士に大きな声で告げた。
「これよりクリストハルト殿下が、風魔法を使い瓦礫を撤去する! 危ないので、救助活動中の兵士は皆、退避せよ!」
師匠の号令後、速やかに兵士が全員退避した。
魔術訓練場内に緊迫した空気が張り詰める。
僕は、深呼吸をして意識を集中させた。
「いきます!」
僕は右手を前に出し、無詠唱で上級の風魔法を、三つ重ねるように発動させた。
最初の風魔法で瓦礫全体を持ち上げ、その少し下に次の風魔法を発動させる。
そして、一番下に最後の風魔法を発動させて、万が一のセーフティネットとした。
最初の風魔法で瓦礫を持ち上げたときに、一部が下に崩れ落ちて、撤去作業を見ていた人たちから悲鳴があがる。
しかし、次の風魔法がしっかりと受け止めて、下敷きになっていたケガ人に落下する事はない。
その後、空いているスペースに風魔法で瓦礫を移動して、無事撤去作業を終えることができた。
「ふう……」
僕が緊張の糸を解くと、後ろからリゼが抱きついてきた。
「お兄様、お疲れ様です。今、ヒールをかけますね」
リゼが背中からそっとヒールをかけると、肩の力が抜けて楽になった。
思っていた以上に、緊張していたのかもしれない。
掌を見ると、汗でぐっしょりになっていた。
「ありがとうリゼ、大分楽になったよ」
「どういたしまして、お兄様」
そう言うとリゼは、僕から離れてケガ人が寝かされている方へ歩き出した。
僕もすぐにリゼの後を追いかけながら、周りの様子をうかがう。
すると、聖女と思われる少女たちを見つけたので、状況を聞いてみた。
「きみたちは、聖女で間違いないだろうか?」
僕が声をかけると、壁に寄り掛かるように座っていた少女たちが、驚いてこちらを見上げた。
そして、一斉に立ち上がろうとするが力が入らないようで、また壁の方へもたれかかってしまう。
「殿下、申し訳ございません。私たちは見習いの聖女なのですが、魔力切れを起こしてしまい、座ったままのご無礼をお許しください」
この中で一番年長と思われる少女が、代表して事情を説明してくれた。
「いいよいいよ、そのまま座っていてね。皆ご苦労様、大変だったね」
「たいしてお役に立てず、申し訳ございません」
聖女見習いの少女たちが下を向いてしまった。
「そんなことないよ、きみたちは自分にできることを精一杯やったのでしょ?」
「はい……」
「なら誇っていいよ、魔力切れを起こしてフラフラになるまで頑張ったきみたちを、悪く言う人なんていないさ」
「殿下……」
少女たちは、瞳に涙を浮かべている。中には、こらえきれずに頬を涙で濡らす少女もいた。
「後は僕たちに任せてね。決して無理をしちゃダメだよ」
僕はそう言い残すと、リゼの元へ移動した。
「リゼ、お待たせ」
「お兄様、あちらの聖女の方々は、大丈夫だったのですか?」
「魔力切れを起こしたみたいで、大事をとって休んでもらっているよ」
「そうでしたか、皆必死に頑張ってくれたのですね」
「うん。さて、どうやって治療したものか。これだけケガ人が多いと、何からやっていいものやら」
ケガ人が寝かされているエリアを見た感じ、100人近くいるような気がする。
「出血しているケガ人が多く、急がないと危険かもしれないですね」
「うーん、となると範囲魔法で一気に治すしかないよね」
「そうですね、エリアヒールかエリアハイヒール、どちらがいいでしょうか?」
「エリアヒールなら100人近くに使うにしても魔力切れになる可能性は高くない。でも、重傷者が助からない可能性がでてくる」
「お兄様の言う通りですね。逆にエリアハイヒールなら、全員完治とはいかずとも命だけは助かるでしょうが、魔力切れを起こす可能性が高いですね」
僕もリゼも今まで魔力切れを起こしたことがない。
おそらく二人とも、相当魔力量が多いのだと推測するが、この世界のステータスにHPやMPの表示がないのでわからないのだ。
「こうして悩んでいても、状況は悪くなる一方だね。リゼに負担をかけるけど、ここはエリアハイヒールでどうだろうか?」
「わかりました、お兄様。私、頑張りますね」
リゼの表情からも緊張感が漂っている。
魔力切れの症状には個人差があるから、いくら大聖女の卵であるリゼでも怖いよね……。
僕に何かリゼの助けになることが、できないだろうか……。
「そうだ、リゼ。もしリゼが魔力切れを起こしてしまったら、僕が旧館までお姫様抱っこをしていくね。そして、リゼの魔力が回復するまで付きっきりで看病するから」
「本当ですかお兄様?!」
「うん、だから頑張って皆を救ってあげて欲しい」
「はい! 任せてください、お兄様!」
僕は、急いで父上にリゼがエリアハイヒールを使うことを報告し、看病していた人たちを、壁際に退避させることをお願いした。
まさかリゼが光魔法を使えると思っていなかった父上は、かなり驚いていたが、この場でエリアハイヒールが使えるのはリゼだけなので、すがるような気持ちに違いない。
「では、まいります!」
リゼが回復魔法を使う準備に入った。
魔法を使う予定のエリア内には、ケガ人だけが寝ている。
そしてリゼは着ているワンピース服の大きなポケットから、5年前に僕が作ってあげたステッキを取り出した。
持ってきてたんだ……。
「エリアハイヒール!」
リゼが右手に持った魔法のステッキを高々と掲げ、伝説の大聖女リーゼロッテ様のキメポーズをまねた。
すると、上空からキラキラとした光の粒が舞い降りて、エリア内のケガ人たちに降り注ぐ。
その光景は、まさに絵本の挿絵と同じ構図だった。
「おい、あれって絵本の大聖女様じゃないか?」
「そうよね、大聖女リーゼロッテ様だわ」
「でも、あのお方はリゼット殿下だろ?」
「きっとリゼット殿下は、伝説の大聖女リーゼロッテ様の生まれ変わりなのだわ」
「そうだよな、そうに違いない」
「そうね、きっとそうだわ」
そんな会話が、あちこちで聞こえてくる。
そして100人近くいたケガ人も、リゼのエリアハイヒールによって、全員回復に向かっているようだ。
軽傷者は、完治して自分で歩き出している。
重傷者は、まだ痛みはあるようだが、出血は完全に止まっているみたい。
今回の事故で、死者が出てもおかしくなかったはずだが、リゼの大活躍で奇跡的に誰の命も失わずに済んだ。
「お兄様! 私、やり遂げました!」
元気一杯のリゼが、僕の胸に飛び込んでくる。
僕は、リゼをぎゅっと抱きしめた。
「頑張ったね、リゼ! 魔力切れを起こさなくてよかったよ」
「はい! 私の魔力量は、かなり多いのかもしれませんね。嬉しいような残念なような……」
魔力量が多くて残念とか、訳の分からないことを言い出したリゼを見て、僕は察した。
お姫様抱っこをして欲しかったのでは?
今日のリゼの服装は、スカートの丈が膝くらいの、スカイブルーのワンピースだ。
僕はリゼの両膝の辺りを左手で抱え、右腕の脇の下近くを右手で抱える。
そしてスカートの中が見えないように、ワンピースの裾をしっかり抑えて持ち上げた。
お姫様抱っこの完成である。
「きゃっ、お兄様?」
「嫌なら下すけど……」
「イヤじゃないです。むしろご褒美というか何というか……」
リゼが嬉しそうに笑みを零している。
「今日は、たくさん頑張ったから疲れたでしょ? このまま旧館に帰って休もうよ」
「はい、お兄様……」
僕とリゼは父上に挨拶を済ませた後、旧館へ帰るために移動を開始した。
すると、両脇に沢山の人が並び、皆が頭を下げて感謝してくれている。
僕はリゼをお姫様抱っこしたまま、魔術訓練場から退出して旧館へと帰るのだった。




