第150話 リゼの涙
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レオン兄様とエーベ兄様が、手枷を付けられて近衛騎士たちに連行されていくと、選定会は閉会となった。
僕とリゼが父上、師匠、剣聖様と一緒に控室に戻ると、待機していたエルとクラウとカルラが出迎えてくれる。
リゼが筆頭聖女に、そして僕が皇太子に選定された事を伝えると、三人の美少女たちは凄く喜んでくれた。
「父上、帝国では筆頭聖女や皇太子を決める際、今日のような選定会が毎回開かれるのですか?」
僕は疑問に思っていた事を父上に質問してみた。
「いや今回のような形式は、おそらく初めてだな。通常は皇帝が決めた者の名を、大々的に発表して終わりだ。こんな疲れること、毎回やってられんぞ」
父上が苦笑して僕を見ている。
「確かに……では、なぜ今回大掛かりな形式にしたのですか?」
「第一には、あやつら三人を納得させるためだな。大賢者、大聖女との圧倒的な能力差を見せずに、ワシがクリストハルトとリゼットを選んでも、あやつらは受け入れられずに、また事件を起こすに決まっておるからの」
父上の言う通りだと思う。特に皇后陛下は、絶対に諦めないだろうな。
「第二には、経費の問題だな。全貴族家の当主を集めて、今日だけで全ての行事を終わらせた。別の日に再招集した場合、各貴族家の当主には、領地から帝都までの往復分の旅費が重くのしかかる。そして掛かった旅費は経費になるゆえ、貴族税の税収も減ってしまうという訳だ」
「なるほど、納得です」
「まだあるぞ。第三には、筆頭公爵家でさえ厳しく脱税の罪を問われるのだと、強く認識させた。これにより各貴族家の当主たちは、自分の所にも既に調査員が潜入しているのではと疑心暗鬼になる。ゆえに不正を働く者が減り、貴族税の税収が増加するはずだ」
確かに、アルトマイアー公爵が死罪になるまでのやり取りを、全貴族家の当主たちは見ていたのだ。
これ以降、貴族税を脱税しようと画策する者は、いないのではないだろうか。
「第四に、レオンハルトとエーベルハルトの愚行を厳しく罰し、自分の子が被害を受けた貴族家当主たちに、慰謝料の支払いを約束することだ。今まではバルバラが強引に押さえ込んでいたため事件が露見しなかったが、親である当主たちの鬱憤は爆発寸前だったと聞く。今日の処罰で皆の溜飲が下がったであろうな。とはいえ、今後の慰謝料総額が一体いくらになるのか、想像するだけで頭が痛いわい」
父上が目を閉じて首を横に振っている。
「それにしても流石ですね父上。今日の選定会に沢山の案件を盛り込み、それを全て解決するなんて」
「そうであろう……まあ、殆どはアレクシスの発案なのだがな。フハハハ」
さすが師匠、選定会での司会進行も素晴らしかったが、今日だけでも帝国にとって多くの収穫があったと言えるだろう。
「アレクシスよ、今日は大儀であった。これからもワシを支えてくれ」
「はい、陛下。これからも剣聖殿含め三人で、帝国をより良い方向へ導いて参りましょう。それに近い将来、大賢者様と大聖女様も加われば、帝国は安泰ですな」
「うむ、その時が楽しみでならぬわ」
父上、師匠、剣聖様から笑みが零れている。
「さてヴィルフリートよ、この後アルトマイアー公爵領まで、軍を率いて向かってくれ。今後は皇帝直轄領となるからな。相手が情報を掴む前に接収したい」
「はっ、お任せください。内戦になる前に、速やかに制圧して参ります」
剣聖様が右手を胸にあてて、父上に軽く会釈した。
「陛下、私も魔術師団の精鋭を引き連れて、剣聖殿と共に出陣してもよろしいでしょうか?」
「構わぬが、城に残る戦力に不安はないか?」
「大賢者様と大聖女様がおります。戦力としては過剰なくらいかと」
「そうであったな。よし、二人は準備が出来次第アルトマイアー公爵領へ出陣してくれ」
「「はっ!」」
こうしてエルの父である師匠とクラウの父である剣聖様が、取り潰しとなるアルトマイアー公爵領へ向けて出陣した。
そして僕たちインフィニティは城の留守を守るため、僕とリゼが幼少期を過ごした迎賓館の旧館で、当分暮らす事になった。
僕とリゼが城を脱出したあの日から、旧館は誰も使用しておらず埃をかぶっていたので、僕が水と風の複合魔法で掃除をする。
脱出する際テーブルやソファー等の家具を、取り敢えず収納ボックスに入れたので、どの部屋も何も無い状態だ。
僕は食堂にテーブルと椅子やソファーを戻し、寝室にベッドを並べた。
「お兄様、ここは私たちが寝ていたお部屋ですね。懐かしい……」
リゼが優しい笑みを浮かべている。
「そうだね。今でも六歳だったリゼが、枕を抱えて僕のベッドに潜り込んできたことを、鮮明に覚えているよ」
「うああ、お兄様! 皆の前でその話は……恥ずかしいです」
リゼが照れたように顔を両手で覆っている。
「二人は幼い頃から仲が良かったんすね」
「今も変わらずに仲が良いのだわ」
「アタシは兄様たちと剣を交えるばかりで、一緒に寝たことが無いのだが」
カルラ、エル、クラウの順に僕とリゼの幼少期に対する感想をもらった。
そしてこの部屋で、いつも通り五人並んで眠り一週間が経過すると、師匠と剣聖様が無事に任務を終えて帰還した。
その後、帝都の民衆にも僕が皇太子になったことが発表され、更には大賢者と大聖女が帝国から同時に輩出されたと伝えられると、帝都の民は喜びに溢れ祭りのような賑わいを見せた。
しばらくして帝都のお祭りムードが落ち着きを見せ始めた頃、冒険者ギルド帝都本部のライナーギルド長から連絡を受けた。
カーム教国での巨大熊大量討伐および、パーティー内に大賢者と大聖女が在籍していることにより、SランクパーティーからSSランクパーティーへ昇格したそうだ。
これにより三か月に一度依頼を受ける必要が無くなるそうで、僕としては助かる。
今後は解決が困難で残ってしまった依頼を、引き受けて欲しいそうだ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
それから半年が経過し十二月中旬を迎えたが、帝都では暖かい日が続いている。
前世の沖縄と同じような気候の帝都では、冬でも寒さを感じることは少ない。
そんな中で僕とリゼに、大きな変化がおこっていた。
僕が大賢者であり皇太子に選定されたこと、そしてリゼが大聖女であることが世界中の国々に知れ渡ると、二人に婚約の申し込みが殺到したのだ。
僕にはブレイブ王国の第一王女、トリック独立国の第一王女など各国の姫から、熱烈なラブコールを頂いている。
と言ってもラブコールを送っているのは、姫の父親である国王が殆どだろうけれど。
ちなみにトリック独立国の第一王女とは、レオナのことだ。
彼女と最後に会ってから一年以上経っているが、元気にしているのだろうか。
それとレオナ自身が気にしていたAAカップが、無事に成長していると良いのだけど。
一方リゼには、ブレイブ王国の第一王子、グロリア公国の皇太子など各国の跡継ぎ候補者から、后になって欲しいと申し込みが殺到している。
さらには父上も新しい皇后を選定するのが大変らしく、毎日師匠と書類を見ながら格闘している。
皇子が僕だけになってしまったので、僕の身に万が一のことが起きた時に備えるため、再婚を急ぐらしい。
そんな訳で帝城においては、三人の結婚問題が緊急の案件となっており、現在父上の執務室で僕とリゼ、父上、師匠、剣聖様の五名にて会議中である。
「さてクリストハルトよ、この中から選ぶわけだが帝国の事を考えると、ブレイブ王国の第一王女またはトリック独立国の第一王女のいずれかに絞られる」
「父上、なぜその二人の王女なのか、理由を聞いても良いでしょうか?」
「うむ、王国とはワシの父が皇帝であったときに戦争をしていた。ゆえに今でも両国の仲は悪いままだ。それを改善するためには、ブレイブ王国の第一王女とクリストハルトの結婚が最も効果的であり、それは平和への歴史的な一歩となる」
確かに両国の友好度を上げることが、戦争の無い世を作るためには必要だろう。
「一方トリック独立国は、地理的に見てカーム教国以外の全ての国と接している交通の要衝だ。軍事戦略的に見ても、トリック独立国が味方である意義は非常に大きい」
なるほど、トリック独立国と同盟関係にあれば、帝国に戦争を仕掛けようとする国は無いかもしれない。
「だとするとトリック独立国の方が重要な気がします。ブレイブ王国には不確定要素が多く、僕としても不安ですね。最悪、第一王女が刺客だったりしたら、目も当てられませんし」
「うーむ、流石に考えすぎだとは思うが、王国ならやりかねんのだよなあ」
父上が顎に手を当てて、顔をしかめた。
「それにトリック独立国の第一王女レオナとは友人ですし、能力や性格も素晴らしい女性です」
「ふむ、クリストハルトの方はレオナ王女に決まりかの。後はリゼットの方だな。バランスを取るならブレイブ王国の第一王子であるが」
「父上! 僕は反対です。危険な王国へ妹を行かせるなど、あり得ません」
「となるとグロリア公国の皇太子か……うーん」
父上が難しい顔をして、腕組みをしている。
「陛下、どちらにせよ帝国から大聖女様を失うことになります。それならば、帝国の有力貴族家の嫡男が、良いのではないでしょうか」
「ふむ、アレクシスの考えも一理あるな。うーむ、難しい問題じゃ」
「陛下、外も暗くなってきましたし、各々考えをまとめてくるという事にして、続きは明日にした方が」
「うむ、ヴィルフリートの言う通りじゃな。今日は解散とし、明日また話の続きをしよう」
僕とリゼ、師匠、剣聖様が父上に頭を下げて、本日の会議は終了となった。
その後、迎賓館の旧館に戻った僕とリゼは、カルラの作ってくれた夕食をインフィニティの皆と食べた。
そして食後に食堂のソファーへ移動したリゼが、浮かない顔をしてため息をついている。
「リゼ、どうしたの?」
「お兄様……皇族である以上、お父様の決めた相手と結婚するのは、仕方のないことだと理解はしているのですが……お兄様やエル、クラウ、カルラと離れ離れになるのは嫌です……」
リゼが瞳に涙を浮かべて、僕を見つめている。
「せっかく皆と仲良くなれたのに、私だけが独りぼっちになるなんて……」
リゼの瞳から涙が零れ落ちている。
僕はリゼの右隣に座ると、左手でそっと妹を抱き寄せた。
そしてリゼの涙をそっと僕の右手で拭ってあげる。
「私はお兄様の左隣でないと熟睡できません。ならば一生独身を貫き通すのも、ありかもしれませんね」
リゼが僕を見つめて、儚げに微笑むのだった。
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このお話は、あと一話か二話での完結を考えており、今後は新作と並行して取り組んでいきたいと思いますので、引き続き応援していただけると嬉しいです。
なお、次回の更新は1/27(月)を予定しています。